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繋ぎの部分になるので、場面転換多めです。
夜、俺は自分の部屋で朱夏からのメールを見ていた。
「そっか、お父さんと向き合えたのか」
そこには丁寧なお礼に加え、父親と沢山話を出来た事が書かれていた。読み終え、短くメールを返すとVRゴーグルを手に取る。もはや日課となったとなっていた訓練だが、ここ2、3日は朱夏のことで身が入っていなかった。
「その分、これからしっかりとしなきゃだな」
ゴーグルを被り、VR空間にダイブする。
『悩みごとが解決した様ですね』
見慣れた真っ白な空間に降り立つと、昨日までとの雰囲気の違いを感知したのか、エピメテウスが声を掛けてくる
「そうなんだよ。ついさっきね」
『それは何よりです。それでは、今日はミッチリと訓練を行いましょうか』
「そ、そうだね。お手柔らかに……」
それから、何時もより熱の籠った訓練が始まる。最初の頃だったら何も出来ないでいたが、日々怠らずに訓練を続けた結果、相当実力がついた実感がある。
『訓練終了。先日は身が入っていませんでしたが、今日はいつも通りの数値で安心です』
「俺としては、そろそろ適性値を上げたいなぁ」
『着実に上がってきていますが、もう少しですね。これでも、恐らく他のご学友より圧倒的なスピードで成長しているはずですよ』
こぼれた不満を諭すようなエピメテウスの声。続けて表示された自分の成長グラフと、一般的な成長グラフを出されて何も言えなくなる。そのグラフでは、自分の伸び率が2倍以上である事を示していた。
「こんなに違うものなんだ……」
『私がサポートしているのです。当然の結果ですよ』
「そっか……ありがとう」
『いいえ……では、続きをしましょうか』
「おう!」
モチベーションが上がった俺は、その後の訓練にも精力的に励み、心地よい疲労感の中で眠りにつくのだった。
『…………久しぶりですね』
「そうかい?まあ、ちょっと調整をしていたからね」
優人がいなくなった空間に、ダアトが姿を現す。相変わらずの白さと、表情の読めなさだ。朱夏の無表情が感情を抑え込んだものによるのに比べ、ダアトの微笑は感情を覆い隠すベールの様だった。
『調整……次の侵攻ですか』
「そうだよ。次は明後日、原石達がアビスの領域の近くに来る時だね。まあ、補充が間に合ってないからちょっと小突くだけだけどね」
『そう、ですか……』
「今日の要件はそれだけさ。そう遠くないうちに準備は整うから、君も自分の役目を果たしてくれよ?」
『それは、言われるまでもありません』
そんなエピメテウスの声に、変わらぬ微笑を返しダアトは消えていった。
『どうしたんですか?主任の方から連絡をしてくるなんて珍しい』
怪訝そうな青年の声が、開口一番に聞こえてくる。確かに、私から彼に連絡するのは、緊急な時以外はしてこなかったような気がする。
「ああ、少し手を貸してほしい件があってな。虫のいい話だとは承知しているが……」
『僕と主任の間で今さら遠慮はいりませんよ。何ですか?』
今までさんざん迷惑をかけてきた自覚があるため、遠慮が口をついて出るが、青年はそれを一蹴した。
「…………ありがとう。思えば、君には負担ばかりかけていたな」
『……本当にどうしたんですか?主任らしくない……あ、博士からの件でなにかありましたか?』
「ああ……娘と、久しぶりに話をした」
『お!それはそれは、おめでとうございます!もしかして、相談事って……?』
電話越しでも分かるくらいの喜びの声。なんだかんだで、彼には仕事の事だけでなく生活面や人間関係でもサポートしてきてもらっていた。頭が上がらなくなる。
「娘の申請している特殊武装についてだ。こんな事で罪滅ぼしになるとは思わないが、折角だから最高の物を渡したいと思ってな」
『なんだ、ちゃんと父親してるじゃないですか。そういう事なら、お手伝いするのもやぶさかではないですよ』
「ありがとう」
『いいえ。それじゃあ、久しぶりの娘さんとの時間を満喫して来て下さいね』
「ああ」
そう言って切れる端末。電話越しに聞こえてきた電子キーボードのタイピング音から、彼がまだ仕事をしている事が分かった。自分が早く帰った分の仕事を片付けてくれているのだろう。改めて思ったが、彼には本当に頭が上がらない。
「今度、何か手土産を持っていくか……」
「父さん、お風呂空いたよー」
「ああ、すぐ行く」
扉越しに朱夏の声がする。短くそれに答えると、手に持っていた端末を置いた。長い時間、隔たりがあった私達親子には、あれだけの時間だけではその溝を埋めきる事は出来ず、この後も沢山の話をする予定だ。
今日は、仕事ではない理由で寝るのが遅くなりそうだ。そんな事を思いながら、私は部屋を出た。
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