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「さて、こんな感じで良かったかな?」


『ありがとうございます。もう、想像以上の成果ですよ』


 今しがた切った端末とは別に、|ハンズフリーにしていた《・・・・・・・・・・・》もう一つの端末から優人の声がする。


「それにしても、急に連絡が来たからビックリしたよ。まあ、君からの連絡ならいつでも歓迎なのだけどね』


『ははは、ありがとうございます。それにしても、博士は……』


「二三四、と呼んでくれと言っただろう?仲の良い人にはそう呼ばせているのだ」


 機嫌が良さそうに笑みを浮かべながら、そう答える。


『そうでしたね。二三四さんが電話するだけで、あの慌てっぷりって』


「まあ、これでもCAD研究の第一人者で、この研究基地の責任者でもあるからね」


 悪戯っ子の様な笑みを浮かべているのが分かったのだろう、苦笑を漏らす優人。


『あー、それは知りませんでした。朱夏のお父さんに悪い事しちゃったかな?』


 要は、社長から直々に脅しの電話が来たのと同義なのだ。それは慌てもするだろう。


「それで、あとはどうするつもりなんだい?」


『あとは家族に任せようと思います。朱夏には、お父さんがこれから家に帰ってくること、前よりは朱夏と話そうとする状態だって事を伝えていますから』


「懸命だね。それはそうと、その“朱夏”っていう娘は君のガールフレンドなのかい?」


『ち、違いますよ!』


 慌てた声色に、実は満更でもないのかもしれないと、恰好の弄りネタが出来たと笑みをこぼす。


「なんだ、違うのかい?それにしては随分と手を回すじゃないか」


『……二三四さん、揶揄ってるでしょ?』


「バレたか。まあいい、次に研究所に来る日だが」


『今週も行きますよ。協力もしてもらいましたし』


 気持ち良さすら覚える察しの良さだ。こういうところは、刀子の教育の賜物かな?


「うん、実に話が速くて素晴らしい。それじゃあ、楽しみにしているよ」


『分かりました。麻衣にも伝えておきますね』


 そう言って通信が切れる。


「いやー、お人好しなところまで父親似とは……彼のパートナーは苦労しそうだ」


 愉快そうに笑うと、離れていたデスクに座り、仕事に戻るのだった。






 彼、優人から父さんが帰ってくると連絡を貰ってから暫くして、昨日帰ってきたばかりでそんなことあるはずないと思っていた。それがどうだろうか、信じられないことに家には父さんがいて、そればかりかリビングで私の前に座っている。一体どんな事をしたのだろう?


 目の前の父さんは、相変わらず私と目を合わせてくれないけど、同じ空間にいるだけでも物凄い進歩だ。ここまでお膳立てしてくれたのだ、それを無碍にするのは絶交ものだろう。それに、電話の最後に言われたのだ“思いっきりぶつかってこい”って。


「父さん」


 私の声にビクッと肩を震わせる。何とも情けない様子で、恐る恐る顔を上げて私の顔を見ると、その顔は驚きの表情へと変わっていった。そんな父さんを、テーブルの上に置かれた母さんの写真が眺めていた。


「朱夏、お前……表情が…………」


 そう、今の私は自分が出来る精一杯の怒っていますといった顔をしていた。父さんが見慣れていた無表情ではなく、だ。


「私はね、怒ってるんだよ!」


 そんな私の声に、驚いた表情のまま固まる父さん。それはそうだろう、何年も無表情で積極的に会話もしてこなかった娘が、いきなり表情豊かに、しっかりと目を見て、大きな声を出してきたら驚きもする。


「母さんが死んだって聞いた時から、父さんは私をちゃんと見てくれなくなったよね」


 今まで溜めてきた思いのたけをぶつける。


「私も悲しかったのに、父さんばかり泣いて、仕事に逃げて」


 向き合ってこなかったのは自分もそうだったから。


「私は、そんな父さんに怒ってるし……そこで簡単にあきらめたあの時の自分にも怒ってるの」


 今度は、逃げようとしても無理やりにでも向き合う!


「だから、話をしよう。母さんの話を。あの日から出来なかった私達話を」


 優人の胸で出し切ったと思っていた涙が、自然と溢れてきた。霞む視界の向こうでは、父さんの頬にも光るものがあるのが見える。


 ああ、やっと向き合ってくれた……






 それからは、ひどい光景だった。中年の男性とその娘が、号泣しながら母さんの思い出話を話し、母さんが死んでからの事を話していたのだから。傍からみたら、カオスそのものだっただろう。机の周りには、あふれ出た涙と鼻水拭いたティッシュが散乱している。


 それでも、私達親子に必要だったのはこの時間だった。どんなに不格好でも、お互いの気持ちをぶつけ合う時間が。


「朱夏……今まですまなかった!謝っただけで許してもらえるとは思っていないけど……」


「ううん。私の方こそ、ちゃんと向き合ってこなかったのは、私もだから」


 そうして、私達は再び、家族になった。


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