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今回はちょっと短めです。
「いやー、久しぶりに沢山作ったよ」
時間も具材も少ない中、夕食になったのはお好み焼きだった。冷蔵庫の中にある野菜をごちゃ混ぜにして作れるお手軽料理だ。それぞれの前には、空っぽになった皿がある。今は、満杯となったお腹を宥めながらのおしゃべりタイムだった。
「いつもはそんなに作らないの?」
「そうだよー、父さんと二人暮らしだからね」
「あ、それは……」
明るく答えた朱夏だが、俺は立ち入ったことを聞いてしまったと、やらかし顔だ。
「ああ、気にしないで!もう前のことだから」
そんな表情の俺に気を使って、両手を振りながらフォローを入れてくる。
「朱夏がそう言うなら……それにしても、もう20時近いんだね」
そのフォローを有難く受け取り、露骨に話題を変えた。
「もうほないな時間なんや!あっという間やったなぁ」
「ちょっと長居しちゃったね」
そんな空気を感じたのか、木乃香と麻衣も話に乗っかってきてくれる。正直、とてもありがたかった。仲良くなってきたとはいえ、デリケートな内容に立ち入るのには時期尚早な感がある。
「気にしないで!父さん、いつも遅いから」
そう言って笑う朱夏は、一見するといつものカラッとした笑みを浮かべていた。しかし、今朝も感じたどこか寂しそうな雰囲気を、今もまた感じる。麻衣たちと話す朱夏の姿を改めて見るが、その顔に陰りはないように見える。あくまで俺の直感的なものなのだろう。
その後は、特にそういった感覚を覚えることもなく他愛のない会話が続き、ふと時計を見ると21時をちょっと過ぎたところだった。
「じゃあ、そろそろお開きにしようか」
流石に遅い時間なので、そろそろ切り上げようと声を上げる。朱夏たちも時間に気付いたのか、帰り支度を始める。
「また集まりたいね」
「また、なんて言わずに明日も集まろうよ!」
「いやいや、流石に連日は悪いよ」
「気にしなくていいのに……」
「なーにー?寂しいの?可愛いやつめ!」
朱夏の言葉を捕まえた木乃香が、抱き着いて朱夏の頭を撫でまわす。
「もー、そんなんじゃないって!」
木乃香と朱夏がじゃれ合う中、帰り支度を済ませた。
「今日は本当にありがとうね!」
「お礼を言うのは私達の方やで。場所を提供してくれておおきにね」
「どう致しまして!」
靴を履いて外に出ると朱夏もそのまま着いてきて、マンションの外まで見送ってくれた。俺たちの姿が見えなくなるまで、大きく手を振る姿にほっこりとしながら俺たちは家路についた。
優人たちの姿が見えなくなる。大きく振っていた手は段々と勢いを失い、終いには力なく下ろされた。別れた時と同じ笑顔のまま、カードキーを通してマンションに入り、家に戻る。バタン、という音と共に私の中のスイッチが切れた感覚がして、自分の表情が笑顔から無に切り替わったことを感じた。
リビングには、ついさっきまでいた優人たちの楽し気な雰囲気の残り香が漂っているが、今の私には何も感じられない。さっきまでは、その雰囲気の中で楽しそうに笑えていたのに。ふと、写真の母さんと視線が合った。もうどこにもいない母さんは、写真の中では昔と変わらない笑顔を浮かべている。今の自分と対照的な姿に、得も言われぬ感覚が浮かび上がる。
「……母さん…………私、壊れちゃったのかな……?」
誰に向けたわけでもない呟きは、そのまま溶けて消える。
多分、今日も父さんは帰ってこない。それでも、もし万が一、何かの間違えで、気の迷いでも、帰ってきた時にご飯が無いのは大変だろうから、今日もご飯を作る。いつも、母さんがそうしていたように。
「あ……買い物に行かなきゃ」
優人たちとの晩御飯で空っぽになった冷蔵庫を思い出し、財布を掴むとスイッチが切れた無表情のまま、家を出た。
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