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朱夏の家は、学園から新東京環状線で2駅だった。方向は俺たちと反対だったが駅からも近く、電車に乗っている時間を含めても30分かかっていない。
「朱夏はマンションなんやな」
「そうだよー」
オートロックを、カバンから取り出したカードキーで解除しながら朱夏が答える。マンションの外観からもそうだったが、エントランスの雰囲気からして上品で、良いところに住んでいるなという俗っぽい感想が浮かぶ。
「木乃香は一軒家?」
「そうやな~。ウチの家は道場もあるさかい、一軒家って言うても広めかな。今度招待するなぁ!」
「お、楽しみにしてるね!優人たちは?」
「俺たちも一軒家だよ。朱夏の家からは学園を挟んで反対方向だけど、1時間もかからないよ」
「へぇ~、じゃあ今度お邪魔しちゃおうかな?」
「どうぞどうぞ、行ってくれればご飯も用意するから」
「じゃあ、その時はよろしくね!」
そんな先の話をしながら、到着したエレベーターに乗り込み朱夏の家がある階を目指す。澄んだ音を立ててエレベーターが停止し、朱夏の案内についていく。広いフロアには4つしかドアが無く、全てが角部屋という豪華仕様だ。
「ここだよー」
その中の右奥にある部屋の前に立ち、ドアを開ける。
「お邪魔しま~す」
予想通りというか、扉の向こうには広く整頓された空間で、脱いだ靴を揃えて進むとリビングに出た。落ち着いた色で統一された家具と掃除が行き届いている空間だが、どこか乾いた印象を受けた。
「荷物は適当に置いて、ソファに座ってて!すぐにお茶出すから!」
「お構いなく~」
部屋の奥にはオープンキッチンがあって、中央にはL字型にソファが配置されていた。その内の一つに荷物をまとめて置き、ソファに座る。俺と麻衣、荷物があっても窮屈さを感じない広さなのに、座り心地は抜群だ。
「お待たせしました!」
そう言って、お盆に乗った4人分のお茶とお菓子をソファの前にあるテーブルへ置く。
「じゃあ、早速やけど勉強始めようか!あんまりダラダラしてると、すぐに遅い時間になってしまうさかいね」
「えー、少しぐらいゆっくりしてもいいじゃん!」
「甘い!それをやると何にも出来んで終わるで」
「ぶーぶー」
ぶーたれながらも、自分の端末を取り出す朱夏。そんな姿に苦笑しながら、俺たちも端末を取り出して課題のページを開く。
「勉強会って言うても、基本は自分でやるんやさかいね。分からんとこは他の人に聞いてもよし!ええなぁ?」
「はーい!」
言い出しっぺの朱夏ではなく、いつの間にか木乃香が仕切っていた。まあ、木乃香の言う通り自分でやってこその糧だからな。そう思いながら端末に向かう。それからは、無言の時間が続いた。時折、分からないところの質問の声が聞こえるが、躓いている所さえどうにかすれば、難関と言われる学園に入学した俺たちだ、スイスイ課題が終わっていく。先生たちも意地悪な問題を出したりせず、授業で教えられた知識とその素直な応用だけで解ける問題を出してくれている。
2時間くらい経っただろうか、そろそろ日が暮れようかといった時間に集中力が途切れてきたのを感じる。他の3人も同じようで、端末を打ち込む手が止まりつつあった。
「みんなどれくらい進んだ?私はね、4月分が終わりそうだよ」
「私は、5月の半分くらいですね」
「え?」
自信満々に宣言した朱夏だったが、麻衣の返答に固まる。
「俺もだな」
「ちょっ?!」
そこへ俺の追撃が決まり、
「うちは6月分まで終わったで」
「はやッ!?これが学年1位の実力というのか……てか、麻衣も優人も早いし」
木乃香のトドメでKO。実は一番進んでいなかったことを知り、意気消沈とばかりに机に突っ伏す朱夏。
「ほないに持ち上げても何にも出んよ……ま、みんな集中力も切れたし、キリもええさかい今日はここまでにしようか」
「やっっったーーー!!」
さっきまでの様子とは一転、ガバッと起き上がり歓喜の声を上げながらソファに倒れ込む朱夏。本当に忙しいやつだ。
「じゃあ、お菓子食べよ!頭使ったからお腹すいちゃったよ」
「それも良いけど、晩御飯はどうする?」
「あ、それなら作るよー。私、いつも自分で作ってるから!」
「じゃあ、手伝いますよ」
「ウチもー」
「俺も手伝うよ」
「そんなにキッチンに入らないって、いいから座ってて!」
話の流れで料理を作ることになったが、次々と立候補するみんなに置いていかれ、ソファに一人取り残される。キッチンでは、美少女3人がワイワイと料理をしている。高校生男子としては、とても夢のある光景だ。そんな光景から視線を外して、部屋を見回すと隅に置かれた写真を見つけた。
近づいてみると、写真に隠れていたが位牌を見つける。写真に写っていたのは、満面の笑みを浮かべた女性の姿だった。どこか朱夏に似ている風貌は、写真の女性が朱夏の母親である事を想像させた。
(位牌があるって事は、もう亡くなっているのか……ってことは父親と二人暮らしなんだな)
そんな事を思いながら、いつも自分の家で両親の写真にしているように手を合わせる。
そんな俺の姿を、麻衣たちと話しながら朱夏は視界の隅に捉えていた。
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