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学校が終わって、晩御飯の買い物をして家に帰る。いつもと変わらない日常。
「ただいまー」
声を出すが、もちろん返ってくる声は無い。もう随分とこんな生活が続いている。父さんが帰ってくるのは、職場の部下さんに無理やり帰された時くらいだ。まあ、帰ってきた時も私達にあまり会話はない。
スイッチが切れたように、自分が無表情になっていくのが分かる。自分が夕飯を作る音だけが響き、慣れているはずなのに胸が締め付けられるような感覚がした。
「優人たちの所為かな?」
中学の時は母さんが死んだあと、あまり笑わらなくなった私を、腫物を扱うかような皆の態度に馴染めなくて、上辺だけの関りしかしてこなかった。さすがにこれはマズイと思って、学園に入ってからは前みたいな明るい性格のスイッチを入れるようにした。そのお陰で、優人たちと友達になれた。
その反面、この独りの空間が辛く感じる気持ちが強くなってきていた。
「母さん……」
リビングに飾られた母さんの写真を見る。仏壇なんてものはなく、遺影と位牌、お鈴が隅に置かれているだけだ。母さんは、なぜこの人が内気な父さんと結婚したのか不思議になるくらい、パワフルな人だった。今思えば、私達が家族としてちゃんと成り立っていたのは、母さんが鎹だったからなのだろう。
……まあ、父さんから愛情を受けないで育った訳じゃない。愛情表現が不器用な人だってのは親子だから分かってるし、忙しい仕事を調整して新体操の発表会に来てくれていたから、愛されてはいた。母さんへの愛情がそれ以上に深かっただけで。
「独りじゃなかったら、寂しくならないのかな……?」
ふと、そう思った。今までは家でも学校でも独りが当たり前だったから、なんとも思わなかったのかもしれない。誰かが、そう例えば友達とかが来てくれたなら。
「そうしたら、昔みたいに笑えるかな?」
そんな言葉を無表情で吐き出しながら、優人たちを家へ呼ぶための計画を立てるのだった。
「勉強会をしたい!」
「随分と唐突だなぁ」
次の日、いつもの4人が揃うと待ってましたとばかりに朱夏が声を上げた。
「だってさ、何だかこれから忙しくなりそうじゃん?それに、折角入試1位様が居るんだから勉強教えてもらおうと思って」
えへへ、と笑いながらそう言う。確かに、一般科目は授業があるとはいえ課題提出制なのだから、ドンドン進めてCADの練習時間を増やした方がいい。先輩達も早いうちから一般科目を終らせて、装者科目に集中するのが一般的だ。授業でも、課題をやるのに必要な知識は凝縮してだけど教えてくれている。
「ほらええんやけど、いつやる?」
頼られる前提だが、木乃香も乗り気な様子だ。積極的に話を進めていく。
「そうだなぁ、みんなの予定ってどんな感じ?」
「うちは水曜日に演習があって……」
そう言って視線を麻衣に向ける。
「私は金曜日ですね」
「だよねー、私は火曜日だし」
「俺は毎日です……」
見事にバラバラで、やっぱりと言うか主に俺が一番忙しくて予定が合わない。毎日新しいことを覚えたり、出来るようになったりするのは楽しいけど、如何せん本当に忙しい。最近は家に帰ると、本当にクタクタになっていた。
「でも、あんまり遅くまで学園に残るのもな~」
「そしたら、平日は集まれる人同士で、全員では土曜日の授業終わりに集まらない?」
悩み顔の朱夏に、土曜日だったら演習が無いし半日だから、自分の集中力も保つだろうという希望を込めて提案する。
「それが一番ええんかいなぁ」
「あ、それだったら違うところで集まる?」
木乃香が呟く横で、朱夏が名案とばかりに声を上げた。
「違うところって?」
「ん~、私の家……とか?」
「いきなりだな」
色々と段階をすっ飛ばした発言に、思わずツッコむ。ファミレスや図書館といった選択肢をすっ飛ばして、いきなり友達を自宅に呼ぶものなのか?
「あ、どうせ親は大丈夫だから!」
「いや、それもだけど……そうじゃなくて、図書館とかでもいいじゃん」
「えー、だって図書館だとおしゃべり出来ないし」
即答で却下だった。まあ、確かに教えるので喋ったりするから、図書館は難しいか。
「じゃあ、ファミレスとか」
「長い時間居たらお店の迷惑だよ」
全く持ってその通り。
「いいじゃん、友達を家に呼ぶってのやってみたかったんだから」
その発言に俺の言葉が止まる。それが本音か!
「木乃香と麻衣はどう?やっぱりだめかな?」
「いえ、私は大丈夫ですよ」
「ウチも!むしろ友達の家に遊びに行くって、あんまりあらへんさかい嬉しいな」
木乃香も麻衣も乗り気だ。
「じゃあ、3対1で決まり!民主主義万歳!」
「いや、別に行きたくない訳じゃないんだけど……」
「じゃあ、決まりね」
「分かったよ」
両手を挙げて降参の意を示す。少し強引な話の進め方だったけど、家に呼びたいと思われるぐらいには仲が良くなっているのだと思う事にする。
「じゃあ、早速今日からね!」
「ほんとに急だな……」
それでも、とても嬉しそうに笑う朱夏に、俺は何も言えなかった。ましてや、その笑顔がなんだか寂しそうだったなんて。
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