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 午前の授業が終わり、俺は麻衣と朱夏、木乃香と食堂に来ていた。多くの学生で混雑する中、俺たちは端の4人席を確保出来ていた。


「そう言えば、日曜日にアビスの侵攻が有ったやない?」


 食事が終わった後のブレイクタイムに、木乃香がそう口火を切る。思わず反応しそうになるが、グッと堪える。麻衣をチラッと見ると、何も知らないといった顔でお茶を啜っていた。


「そうだね。避難警報出てたし、凄いおっきな光線が通ったのも見たよ」


「私も見ましたよ」


 真っ先に反応した朱夏に続くように、麻衣が答える。アビスを撃破し、紅嶺崎さんたちからお叱りを受けた後に防衛基地の司令さんが来て、俺たちがアビスを撃破したことを秘密にして欲しいと要請を受けた。理由は明快で、簡単に倒せると過信した学生による独断行動を防ぐためだった。今回の事は非常に運が良かったのだと説明され、書類にもサインしたぐらいだ。


「結構ギリギリまで侵攻されたらしいんやけど、紅の戦姫様が駆けつけて倒してくれたんやって」


「そうだったんだ!……でも、よくそんなこと知ってたね?」


「ここだけの話なんやけど……ウチのとこの門下生が今回出撃した装者の中に居て、こっそり教えてくれてん」


 声のトーンを落として、コソッと言う木乃香。守秘規定がどうなっているか知らないけど、こんな風に関係者には情報が流れていくんだなと思うと同時に、それを利用して欺瞞情報を広める手法に関心を覚える。これなら、当事者からの情報って事で俺たちの事も広まらないな。


「それでね、ほないな事があったさかい学園がカリキュラムを変えようとしてるんやって」


「へー、何が変わるの?」


「なんかね、演習を多うするみたいやで。3年生は実戦訓練もするみたい」


 恐らく、今回の侵攻で多くの装者が出撃制限に掛かるようになってしまったのだろう。そうなると、必然的に小規模の侵攻にも対応出来なくなってしまうため、その穴を埋めるための処置なのだろう。しかし、俺たちは装者学園に居るとはいえ、区分としては準一般人だ。そんな情報は知らされることは、本来有り得ない。


「そうなんだ。……でも、そこまでする必要があるのかな?」


 案の定というか、朱夏が急な方針転換に疑問を持ち、口にする。さすがにそこまでは木乃香も知らなかった様で、首を横に振るだけだ。


「そっかぁ……じゃあ、放課後に先輩達のところに行ってみようよ!」


「そうやな、そうしよっか!優人くん達も行くやろう?」


 名案とばかりに沸き立つ二人に、用事もなかった俺と麻衣はそれを承諾した。それからは、予鈴が鳴るまで午後の授業や特殊武装の話などをして過ごした。






 最後の授業、CAD演習が終わって俺たちは、事前に連絡して先輩達から指定された料理部の部室へ向かっていた。授業では、アビスの侵攻もあってか先生たちにピリついた雰囲気が漂っていたため、緊張感のあるものになった。まあ、お陰で授業がスムーズに進んで少し早めに終わったのだけど。


「いやー、今日は須藤先生いつもより何か怖かったね」


「まあ、先生たちも色々と対応に追われてピリピリしてるんやろうな」


「そうだろうけどさ、疲れたよー」


 確かに朱夏の言う通り、飛行訓練は慣れないとただでさえ緊張を強いられるのに、そこに先生からの圧が加わると、もう精神的にグッタリだ。他の学生よりも慣れている俺でも、結構な疲れを感じていた。


 そうやって喋りながら歩いていると、部室に到着した。予め開けていてくれていたのか、鍵はかかっていないものの人影はない。


「あ、そりゃそっか。一応、まだ授業中だもんね」


 あっけからんとした朱夏の声が、部室内に響く。


「ま、授業が終われば先輩達もくるだろ」


 そう言いながら、部室に備え付けられている冷蔵庫を開ける。


「……何やってるんですか、兄さん?」


「いや、俺たちのお願いで活動日以外に来てもらうんだから、お礼に何か作っておこうと思って」


 そう言いながら冷蔵庫に続いて、食材棚も探る。


「作るって言うても、ほないに時間はあらへんと思うけど……?」


「30分ぐらいあれば十分だよ……よし、お目当ての物はあったよ」


 そう言って取り出したのは三つ。薄力粉とバターと砂糖だ。


「え、それだけで出来るの?」


「それが出来るんだな」


 朱夏の疑問の声に、答えながら準備を整えている。料理部と言うだけあって必要な調理器具は全て揃っていた。手早く薄力粉を(ふるい)にかけて、砂糖と溶かしたバターを玉にならないように注意しながら手早く混ぜ合わせる。万遍なく混ざったら、形を整えてオーブンに入れる。


「よし、あとは15分待つだけだよ」


「ほえ~、それだけでお菓子が作れるんだね。もっと面倒なものだと思ってた」


「作るものによりますよ。今のは、兄さんの手抜きクッキーだからです」


 麻衣の言う通り、お菓子作りはこだわり始めると果てが無いが、手抜きをしてしまえば少ない材料でも簡単に作ることが出来る。


「わー!ウチも優人くんのクッキー食べたい!」


「もちろん、いいよ!多めに作ったからね」


「ありがとう!」


 それからしばらくして、クッキーの甘い香りが部屋に漂い始めた頃、部室の扉が開き先輩達が顔を出した。


「ごめん!待たせちゃたね」


「わ~、良い香りだね~」


 開口一番に謝罪してくる由紀先輩に、マイペースな愛佳先輩。


「大丈夫ですよ。クッキーも丁度焼きあがる頃でしたし」


「わ~、ありがと~!」


 そう言ってふんわりと笑う愛佳先輩。オーブンと横に掛けられているミトンを着けて、焼き上がったクッキーを取り出す。粗熱を取るために少し冷ましていると、良い香りが広がる。


「なんだかデジャヴを感じるね」


「部活勧誘の時ですね。あの時はご馳走様でした」


「いやいやアレくらい」


 取り出したお皿にクッキーを映していると、麻衣が茶葉を見つけたのか紅茶を淹れていた。


「なんだか、そうして並んでると手際の良さもあってか、夫婦みたいだね!」


 朱夏の言葉に、麻衣が持つポットとカップが甲高い音を立てる。


「そ、そんなことないですよ?」


 歯切れの悪い返答をしながら、全員に紅茶を配る麻衣。昨日の事があったから、少し意識したのかな?そんな感想を抱きながら、クッキーをテーブルに置いた。


「美味しそう!」


「早速、頂きま~す」


 クッキーを口にした二人が、笑みを深める。持ってくる直前に味見をしていたから大丈夫とは思っていたが、やっぱり美味しそうに食べてもらえると嬉しくなる。他の3人も先輩に続いて皿に手を伸ばす。そうして一息ついた俺たちは、本題を切り出すのだった。


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