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 対アビス防衛部隊研究基地内、武装開発・整備部門。その建物の中で、白衣に身を包んだ二人の男性が話していた。一人は、眼鏡をかけ乱雑に整えられた茶髪を跳ねさせる青年で、胸元には副主任のプレートが輝いている。もう一人は暗い印象を見た人に与える中年で、こちらの胸元には主任のプレートが着けられていた。


「開発主任、今年もこの時期がやってきましたね」


「……ああ、そうだな」


 青年の明るい声とは反対に、男は良く言えば落ち着いた、悪く言えば暗い返答を返す。


「相変わらず暗いですねー、だから取っ付き難いとか言われるんですよ」


「……別に良いだろう。それよりも仕事だ、データを回してくれ」


「はいはい、っと」


 青年が手元の端末を軽やかに操作すると、男の端末が軽快な受信音を立てる。それを無言で開くと、そこには学園で出された特殊武装の申請内容が列記されていた。


「いやー、今年も本当に色々な申請が来ていますね」


 男と同じデータを見ながら、青年が画面をスクロールしていく。新入生の申請初日とはいえ、男達の下には多くのデータが送られてきていた。勿論、新入生だけでなく上級生からの申請もあるのだが、やはりと言うべきか自身のスタイルが確立していない新入生の申請数が多い。


「三節棍やバヨネット……うわ、大鎌とかニッチなものを申請してる学生もいる。今年も豊富だなぁ」


 新入生らしい、様々な申請内容に青年が感嘆の声を上げる。毎年の事だが、新入生の申請内容は時として、想像以上のものが混じっている事がある為、青年の秘かな楽しみでもあった。


「……君は黙って仕事も出来ないのか?」


「やだなー、僕が喋らなかったらこの部屋はお通夜じゃないですか」


 青年の言う通り、この部屋には二人とは別に8人の技術者がいるが、全員が一言も喋らずに端末に向かっている。


「手は動かしているんですから、そこは大目に見て下さいよ……お、今度は連結刃か」


 手を止めず、男にそう返しながら申請内容を見ていると、これまた何ともロマンを感じさせる内容が目に入った。


「どれどれ……申請者は、っと……あれ?」


「今度は何だね?」


 またか、と言わんばかりの男の声。それに先ほどまでとは違い、少し真面目な顔をする青年。


「いや、主任って娘さんがいましたよね?」


「……ああ、いたな」


「今年、学園に入学とかしてます?」


「…………確か、入学していたはずだ」


 青年の言葉に、自身の記憶を浚っているのかしばらく沈黙した後に答える男。そんな曖昧な返答に、思わず青年の眼鏡がずれる。


「いや、娘さんの事でしょう?!」


「アレは自立している。別に良いだろう……それで、急にどうした?」


 ずれた眼鏡を直しながら訴えるが、その言葉は男ににべもなく(・・・・・)撃ち落された。


「まあ、これ以上人様の家庭に首を突っ込むのもアレなので良いですけど。この、連結刃の申請者なんですけどね、近藤朱夏ってあるんで確か主任の娘さんがそんな名前だったなと思いまして」


「……ああ、娘だ。それがどうした?」


「ああ、もうこの人は……自分の娘の申請なんだから、自分が作りたいとか無いんですか?」


「ない。仕事が滞りなく終わればそれでいい」


 取り付く島もない男の様子に、青年は大きなため息をつく。以前から仕事人気質ではあったが、奥さんを亡くしてからはそれに磨きがかかっている。娘さんが一人で家にいても問題ない年齢であることも手伝って、殆どの時間をこの部屋で過ごしている。何だったら、数日家に帰っていないじゃないだろうか?


「とりあえず、この申請は主任に割り振りますからね」


「……好きにしろ」


「じゃあ、好きにさせてもらいますよ」


 そう言い、テキパキと仕事を割り振っていく青年。この部門、対人コミュニケーションが壊滅的な責任者である男に代わって、他部門との調整や仕事の割り振りなどを副主任である青年が行っていた。


「では主任、ちゃんと娘さんの武装開発やって下さいね」


 仕事を割り振り終えた青年は、そう男性に声を掛けると自分の席へと戻っていった。


「………………」


 表示された割り振り表の最後に記載される娘の名前を眺める。男の胸中に、3年前にアビスとの戦闘で死んだ最愛の妻の顔が浮かぶ。装者であり、自身が調整・開発した武装で戦っていた女性。もし、当時の自分にもっと技術があれば、妻を死なせずに済んだかもしれないと考え始めると、自分がのうのうと生きていることが許せなかった。


そんな考えもあってか、男は妻によく似た中学生になったばかりの娘を家に置き、仕事に明け暮れるようになっていた。そう言えば、娘の顔をちゃんと見たのは何時だったろうか?そんな思考が過るがそれも少しの間、すぐに画面を切り替えると、今まで取り掛かっていた仕事に意識を向ける。


「お前も、その道へ進むのか…………」


 男が発したその小さな呟きは、誰にも拾われることなく空気に溶けていった。


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