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 朝にひと悶着あったが、一晩ぐっすりと眠った俺たちは遅刻をするといった事もなく、むしろいつもより少し早い時間の電車で登校していた。


「なんだか、いつも通り過ぎて昨日の事が夢みたいですね」


「そうだよなぁ」


 相変わらず男子の視線を集める麻衣に相槌を打ちながら、先週1週間を思い返す。学園の入学に始まり、朱夏と木乃香、愛佳先輩達との出会い、模擬戦ときて実戦だ。相当に内容の濃い一週間だったと思う。そんな事を思いながら歩いていると、赤い髪を一つに結んだ見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「あ、あれは朱夏ですね」


「やっぱりそうだよな……おーい、朱夏!」


 振り返った少女は俺たちの姿を認めると、右手をブンブンと音が鳴りそうな勢いで降り始めた。


「あ!麻衣、優人!おっはよー!」


「おはようございます、朱夏」


「おはよ、朱夏」


 元気な声で挨拶をしてきたのは、麻衣とバディを組んでいる近藤朱夏だった。手を振っていたせいか揺れている結ばれた赤い髪が、喜ぶ子犬の尻尾のように見える。


「二人もこの時間だったんだ!」


「いいえ、今日は兄さんがお寝坊さんじゃなかったので。いつもはもう少し遅いですよ」


「返す言葉もございません」


「ふふ、二人は本当に仲がいいね」


 チクリと普段の寝起き悪さを麻衣が皮肉り、それに真面目ぶって返すと、そのやり取りが面白かったのかケラケラと朱夏が笑う。


「いいな~、私は一人っ子だからさ。お兄ちゃんとか羨ましいよ」


 それに苦笑で返す麻衣。

いや、俺だって家事やってるし、麻衣一人に負担になるようなことはしていないはずなんだけど、どの意味深な苦笑は何なのでしょうか?!


「……もう、そんな百面相をしないで下さい。ちゃんと自慢の兄ですよ」


「麻~衣~!」


「おやおや?これはツンデレというやつですか?」


 ニヤニヤと笑う朱夏に、頬を薄く染める麻衣。


「からかわないで下さい!」


「ごめんごめんって!つい麻衣が可愛くって」


「もうッ!」


 桜が舞う中で、美少女二人が仲良くじゃれ合う姿はとても尊いもので、一歩下がって俺はそれを見ながら学園への道を歩いていた。






「そうだ!三人とも覚えてる?」


「唐突にどないしたん?」


 教室に入り、既に登校していた木乃香と定位置で一息つくと、すぐさま朱夏が話しかけてくる。ただ、主語も何もあったものじゃない質問なので、何を聞きたいのかさっぱり分からない。


「ほら、今日は特殊武装の解禁日だよ!」


「そういえば、朱夏は連結刃、でしたっけ?それを申請したいんでしたよね」


「そうそう!いやー、1週間は長かったね!この日を楽しみにしてたよ」


 この学園には、装者がより戦いやすくなるために様々な新規武装を申請出来るシステムがある。今日は、その武装申請が可能になる日だった。端末を起動して申請項目を見てみるが、1週間前と同じようにグレーアウトしたままだ。


「あっれ~、おかしいな?今日から申請開始だって先生言ってたよね」


「そうですね……もしかしたら、ホームルームでアナウンスがあってからなのかもしれませんね」


「あ~、ありそう。ざ~んねん」


 そう言って自分の机に突っ伏す朱夏。その姿から、今日をとても楽しみにしていた事が伝わってくる。


「まあまあ、もう少しで先生来るし。期待して待とうや」


「ま、そうだね!」


 木乃香の言葉にあっさり身体を起こす。この身振りの忙しさというか、快活さは見ていて飽きないな。そうこうしているとチャイムが鳴り始め、須藤先生が入ってくる。


「諸君、おはよう」


 揃って挨拶を返す俺たち。


「今日は連絡事項がいくつかある。まず、全員の履修登録が無事受理され本日から本格的に授業が始まる。全曜日を履修している者もいるが、やり切る事を期待している」


 明らかに視線が俺の方を向いている。


(全部履修ってもしかして俺だけだったか……)


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、微かにほほ笑んだ須藤先生はそのままホームルームを進める。


「次に、心待ちにしていた者も多いだろうが、本日より特殊武装の申請が可能となる。ホームルーム終了後、申請画面を使用可能にするので、申請したい武装がある者は申請するように」


 その言葉に何人かの学生がソワソワしだす。勿論、そこには朱夏も含まれている。早く申請したくてウズウズしていた。


「最後に、毎年行っている対アビス防衛部隊(ADF)基地見学だが、先日アビスの侵攻があったため日程を調整中だ。決まり次第、再度アナウンスするため端末の連絡には留意するように。以上だ。」


 連絡事項を簡潔に伝え終えた先生が教室を後にすると、そこかしこで特殊武装申請の話がされていた。


「あ!出来るようになってる!」


 端末を見ると、申請項目が明るく光っていた。試しに押してみると、学年と組、名前、適性を入力する項目があり、申請したい武装に関する記述をするスペースが設けられていた。どうやら文字だけでなく、写真なども添付可能な用で、装者のイメージに沿ったものが作られるような仕組みになっていた。


「よし!申請完了!」


 早速申請を行った朱夏が、申請完了画面を見せてくる。CADの武装は、実際に銃などを作っているわけではなく、CADにインストールされた情報を基に晶力で作成される。そのため、武装のデータが完成すればすぐにでも使用可能になる。その分、複雑な機構を持つものになると、データ作成にも時間がかかるため引き渡し日も遅くなってしまう。そのためデータが完成次第、連絡が来ることになっていた。


「申請出来て良かったですね」


「うん!」


 嬉しそうに頷く朱夏を眺めながら、俺たちは授業の準備をするのだった。


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