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 防衛基地の指令所。多くの隊員が、今回のアビス侵攻の後処理に追われる中、その一角には二つの人影があった。


「博士、あの装者のこと……なにかご存知なのですか?」


 基地の司令と二三四博士だった。司令の表情には興味の色があるが、それと対照的に博士は暗い。それもそうだ、生き残れたからいいものの、親友から頼まれた二人を危うく死なせてしまうところだったのだから。


「そう、だな……彼らは、紅嶺崎が面倒を見ている子たちだ。今年、学園に入学している」


「それは!ということは、彼らのCAD稼働時間は……」


「短いな。ただ、VR訓練時間は知らないから何とも言えないが、今回が初陣なのは間違いない」


「それで特殊型の撃破か……将来が有望だな」


 明るい司令の声を余所に、二三四は思考を続けていた。突然のアビス侵攻、新型の出現、都市直接攻撃の危機、そして━━


「偶々二人があそこにいた……?」


 頭の中で浮かぶ点と点が、二三四のみが知り得る“ダアト”という存在によって繋がっていく。兄妹へ送るプレゼントに忍び込ませたAI、自分の研究所へ招待した時を狙ったかの様な侵攻。


「まさか、アイツが裏で何かしていた?」


「ん?どうしました、博士?」


「いえ、何でもありません」


 独り言が漏れていたのか司令が声を掛けてくるが、素知らぬ顔でそれを流す。今はまだ、他の人にアイツの存在を知られるわけにはいかない。もし、アイツがアビスと通じていて万が一、自由に操作できるのであれば、その事実を知った人間を生かしておくとは限らない。そんな思いを押し隠しながら、司令と二人で紅嶺崎に尋問されながら帰還する二人の姿を見ていた。






「全く!生き残れたから良かったものの、随分と無謀な事をしてくれたな!」


「本当に、すみませんでした……」


「ごめんなさい……」


 基地に帰還後、待機室の一室で改めて紅嶺崎さんからの喝が入る。強い口調ではあるが、俺たちを本気で心配してくれているのが分かるので、何も言い返せない。博士にも止められたのに、勝手に出撃したのは事実だからだ。


「本当に、無事でよかった……」


 そう言って俺たちを抱きしめる。その声は僅かに震えていて、俺たちは相当の心配をこの人にかけてしまったことを改めて自覚させられた。


「……さて、充分に反省している様子だし、叱るのはここまでにしようか。二三四にも、ちゃんと謝るんだぞ」


 離れた紅嶺崎さんは、すでにいつも通りの表情だ。


「それじゃあ、二人とも移動しようか」


「どこにですか?」


「ああ、学園ではまだ教えられていなかったか。装者はな、出撃ごとに検査を受ける決まりになっているんだ」


 紅嶺崎さんの後に続いて、薬品の匂いが漂う部屋に入る。そこには、二三四博士がいた。


「博士……今回は、心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 博士が口を開く前に、麻衣と頭を下げる。


「…………ふぅ。刀子にたっぷり絞られたんだろう?私からは一つだけ」


 しばしの沈黙の後、発せられた言葉に頭を上げると、博士はいたずらっ子の様な表情を浮かべていた。


「私の研究のテスターとして、こき使わせてもらうからね」


「は、はい!こき使ってください!」


 そんなやり取りの後、俺たちは部屋に設置された検査装置で全身を精査され、最後に採血をされた。


「しばらく待っていてくれ、結果はすぐに出るから」


 そう言ってパソコンへ向かう博士。沢山の数字や画像がモニターを流れ、それを物凄い勢いで確認していく。


「紅嶺崎さんは検査をしないんですか?」


「私は後でやる予定だよ」


「そうなんですね。それにしても、初めて紅嶺崎さんのCADを見ましたよ」


 思い浮かべるのは、髪の色と同じにカラーリングされたCAD。出撃前に博士が言っていたように、紅嶺崎さん専用に調整されたものだ。


「そういえばそうだったな。かなり変わっているが、こいつも一応“吹雪”なんだぞ?」


 そう言って左手首のCADを示す。腕輪型の格納状態も紅色と徹底している。同時に、自分たちが使っているCADと紅嶺崎さんのCADが同じだという事に驚く。汎用性が高いとはいえ、そこまで調整できるのは博士だけだろう。結果が出るまでの間、そうやって話していると、結果が出たのか博士がパソコンから目を離す。


「結果が出たよ。結論から言おう、二人とも大きな問題はない」


「大きな、ですか?」


 煮え切らない物言いに疑問の声を上げる。


「ああ、そうだ。今回の検査では、出撃後の結晶化指数の算出と、体内の保有晶力量なども確認した。結晶化指数は二人とも50と学生としては高いが、正規装者の平均値であるから問題ない。結晶化指数に関しては習っているかな?」


 聞き覚えの無い言葉に首を横に振る。


「そうか。結晶化指数とは、簡単に言えば結晶化のリスクを簡単に算出したものだ。80を越えると結晶化が始まると言われているが、君たちの値なら何も心配はいらない」


 結晶化。それは、それぞれの人が蓄積できる晶気量を越えて体内に蓄積させると、身体が結晶となり砕け散るという現象のことだ。博士の説明では、現代では厳重に管理されているため結晶化することは殆どないが、検査体制が整っていなかった過去には戦闘中に蓄積限界を超えてしまった為に、結晶化する装者が後を絶たなかったそうだ。


「次に、煮え切らない返答になった原因だ。君たち二人の保有晶力量だが、すでに中堅装者と同じくらいであるとの結果が出た」


「でも、俺たちは今回以外で勝手に出撃したり、ましてやCADをVR以外で展開したりしたこともありませんよ!」


 今日の出来事という前科があるだけに、疑われているのではないかと慌てるが、博士は苦笑を浮かべるだけだ。


「そんなに慌てなくても大丈夫だ。それは分かっているし、原因にも見当はついている」


「それは……?」


「君ら兄妹は、関東決戦の主戦場近くで生き残っただろう?あそこは当時、崩壊したアビスによって大気中の晶気濃度が著しく高い状態だったんだよ」


 落ち着いた声で、分かりやすいように説明をしてくれる。


「それじゃあ、つまり……」


「そう。10年前に大量の晶気を浴びて、それが運よく定着したんだろう。救出された後、長期間目を覚まさなかったとか言われたりしなかったかい?」


「確かに!1週間くらい目を覚まさなかったと言われました」


 博士の言葉に、麻衣が声を上げる。そういえば、俺たちが目を覚ました時は、病院が大騒ぎになっていたと朧げな記憶を辿る。


「じゃあ、それが原因だな。デメリットはないし、むしろ君らにはメリットしかない」


 晶力はCADの展開に加えて、弾丸生成に使われたりしているため、保有晶力量が多いことはそのまま継戦能力が高い事に繋がる。


「ということで、今日はこれにて終了だ。私も刀子も、やらなければならないことがあるから、基地の誰かに送るよう手配しておこう。それまでは、さっきいた部屋で待っているといい」


「はい!ありがとうございます」


 そう促す博士に礼を言い、俺たちはその場を後にした。






 検査を済ませた刀子が司令に呼ばれていると部屋を出た後、二三四は改めて優人たちの検査データを見ていた。そこには、優人たちにも説明の時に見せた数値以外に、“SDA発現の有無”といった項目が表示されていた。


「さすがに、SDAを発現はしていないが……それでも近いうちに発現する可能性は高い、か」


 指令所での思考と目の前の検査結果から、ダアトが二人にSDAを発現させたがっていると仮説を立てる。SDAの研究も進められているが、それでもどのような能力が、どんな規則を持って発現しているかは解明されていない。分かっているのは、体内にある程度の晶力を宿している事だけだ。


晶力量だけを見れば、兄妹は十分に条件をクリアしている。あとは何がトリガーになるかだが……


「そればかりは、私でも分からないな……」


 それでも、自分に出来る限りのサポートを使用と決意すると、二三四はパソコンのデータを消し部屋を後にした。


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