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 戦場が見えてきたところで、唯一装備している武装“草薙ノ太刀”を展開する。それは、通常の近接標準装備である刀よりも長大で、俗に大太刀と呼ばれる大きさの物だ。近接特化である紅嶺崎にと、二三四博士が作った紅嶺崎だけの武装だ。そもそも、大きく長いこの武器は取り回しが難しいため、たとえ紅嶺崎以外が使ったとしても十全に扱える装者は少ないだろうが。


 そんな大太刀を担ぐように構え、飛んできたスピードをそのまま重装甲型アビスに狙いを定めて吶喊する。


「ハァアアアアアアアアッ!!」


斬ッ!、と振り下ろされた大太刀は通常の数倍の堅さを誇る重装甲型アビスを両断し、さらにはその余波で周囲にいた基本型アビス数体を吹き飛ばす。両断された重装甲型アビスが、巨大なガラス球を割ったような音を立てて崩れていく。


「紅嶺崎刀子、現着したッ!周囲の装者は、巻き込まれたくなかったら撤退しろ!」


 体勢を整えながら大喝。疲弊していた装者の士気を最高まで回復させるのと同時に、自身の戦場を整える。近くにいた装者が、指示に従って戦線の両翼へ移動する。


「さあアビスども……塵芥のように消え去れッ!!」


 その返答とばかりに殺到した光線を圧倒的な速度と複雑な機動で回避すると、すれ違いざまにアビスを両断していく。その様はCADのカラーリングもあって、黒いアビス達を裂く紅い閃光の様だった。


 紅嶺崎の参戦で一気にアビスの殲滅スピードが速まる。戦列中央で紅嶺崎が暴れまわり、左右を他の装者達が掃討していく。そんな中、アビス達が新たな動きを見せた。疎らに散っていた特殊型が紅嶺崎に集中し始めたのだ。真っ先に襲い掛かってきたのは高軌道型のアビスだ。飛行に特化しブーメランの様な形をしたそれは、物凄いスピードで紅嶺崎の周りを飛び回ると、四方八方から光線を浴びせかけた。


 通常であれば、晶力シールドが防いでくれるため防御してから反撃するのがセオリーだが、刀子のCADはシールド出力すら機動性に捧げた特化型。この集中砲火を浴びればひと溜まりもない。それでも、紅嶺崎は落ち着いていた。


「SDA:加速(アクセラレート)……あまり時間が無いんだ。すぐに終わらせるぞ!」


 関東決戦で多くのアビスを屠りながらも、生き残れたが故に手に入れられた超常の力。紅嶺崎が持つのは、自身の様々な能力を“加速”させる能力だ。ただでさえ機動性に特化した機体がさらに速度を増し、もはや高軌道型アビスと言えども捉えることのできない領域へと至る。


「シッ!!」


 紅の光と化した紅嶺崎が、アビス達の間で順応無尽に飛び回る。その姿を見た他の装者から歓声が上がるが、当の紅嶺崎の顔には焦燥が張り付いていた。


「クソッ……制限時間が短くなっているな」


 その視線は、ホログラムゴーグルに表示されたタイマーに向けられていた。SDAを獲得した装者の共通点、それは他の装者よりも体内に取り込んでいる晶気が多い事だ。その状態でアビスを大量に倒せば、通常よりも早く結晶化が進んで、消滅してしまう。紅嶺崎は、自身のSDAで晶気への“適応速度”を“加速”させることで結晶化を遅らせていたが、戦い続ければどうあっても無理が出てくる。それは、戦闘可能時間として如実に表れていた。


 この制限時間、紅嶺崎の状態を知った二三四博士が開発・搭載したもので、SDAを獲得した装者のCADには必ず搭載されている。


 紅嶺崎の焦燥を感じてか、更にアビスが殺到する。それを光速で動きながらも、他の装者の脅威になる砲撃型や高軌道型を優先して倒していく。


『紅嶺崎大佐、遅くなりました!東条早苗以下14名、現着しました!』


『来たか!待ちわびたぞ!』


 減っていく時間と反対に増していく焦りを、彼方に見えた装者達と入ってきた通信が打ち消す。


『特殊型の厄介な奴らはあらかた片づけた。そろそろ今戦っている者たちは限界だろう。情けないが、私もそろそろ限界だ。東条少佐、後を頼んでいいな?』


『もちろんです!追加もいないようですし、あとはお任せください!』


 心強い返答に頷くと、残りの戦闘可能時間で周囲のアビスを吹き飛ばしその場を離脱する。それと入れ替わりに、アビスへと吶喊していく東条早苗率いる第2陣。東条少佐の言う通り、追加で出現したアビスの姿はなく、彼女らの攻撃によりその数を減らしていた。


「なんとかなったか……それでも、スクランブル隊に犠牲者が出てしまったか」


 ホログラムゴーグルにLOST表示されている装者がいることに、自分の至らなさを感じ思わず唇を噛み締める。それも少しの間、気持ちを切り替えると本部へと通信を繋ぐ。


『本部、こちら紅嶺崎。応答願う』


 しかし、返ってくる言葉はない。


『本部?……どうした?応答しろ!?』


 ただ耳元で流れるのは、砂嵐の様な音だけだ。まるで、昔の戦争記録で聞いたことのあるジャミング(・・・・・)の様な音。その考えに至った瞬間、背筋に氷柱を入れられた感覚に襲われる。


アビスはただの能無しじゃない。進化をする敵だ。もし、もし奴らに我々の通信を妨害することが出来る個体が現れたとしよう。そうだったら、今の状況にも納得がいく。しかし、嫌な予感が収まらない。何か、見落として……


『……ッ!2次防衛ライン、応答しろ!』


 その問いかけに、答える者はいない。ここに来る前に入った通信を思い出す。基本型とはいえ、防衛ラインを抜けたアビスが新東京市に向かっていたはずだ。私はそれを、2次防衛ラインの装者に任せてここに来た。では、その後の報告は?


『東条少佐!アビス殲滅後に第1陣をまとめて帰還しろ!嫌な予感がする……私は先に帰還する!』


『え?……は、はい!了解しました!』


 東条少佐の返答を待たずに、再びSDAを使って加速状態に入る。


(無事でいてくれ……3人とも!)






 時は少し遡り、紅嶺崎が2次防衛ラインに新東京市へ向かったアビスの対処を命令した頃。1次防衛ラインへ戦力を送るため、残せる最大戦力であった小隊4機の装者の姿があった。2次防衛ラインに配属されているとはいえ、スクランブル隊にも抜擢される精鋭だ。


「さて、2次防衛ラインとはいえこちらにもアビスが向かっているそうだ。オモイカネの反応では基本型が5体らしい」


「そしたら、そんなに結晶化指数も上がらないですね。私、ちょっと値が高くて危ないんですよね」


「それは私もだ。むしろ、値が高いからこの配置なのだろう。まあ、1次防衛ラインに戦力を集中しているし、紅嶺崎大佐が出撃しているしこれ以上は抜けてこないだろう」


 この非常事態に、本部は出来るだけ多くの装者に招集をかけていた。それは、以前の出撃で結晶化指数が高くなり出撃制限ギリギリになっている者もだ。それでも、そんな装者を前線に送れば瞬く間に結晶化してしまうのは分かり切っていることなので、後詰としての2次防衛ライン配置ということだ。


 装者達が話しながらも気を抜いたりせず、レーダーに気を配っていると5つの光点が現れた。こちらに向かっているというアビスの反応だろう。


「来たぞ!おしゃべりの時間は終わりだ、気を引き締めろ!」


 小隊長の言葉に、他の装者が武装を構えて答える。光点が装者達に迫り、その姿が見えようとした時、レーダーに異変が起こった。一瞬、砂嵐が走ったかと思うと、基本型5体であった表示が、基本型3体、砲撃型1体、アンノウン1体という表示に変わったのだ。


「なんだと?!本部!レーダーの表示がおかしい、どういうことだ?!」


小隊長が慌てて本部と通信を取ろうとするが、聞こえてくるのは砂嵐だけだった。


「本部!本部!応答してくれ!……クソッ!通信が出来ない!」


 そう悪態をつく間にも、アビスは近づいてくる。


「総員、非常事態だ!本部と通信が出来ない!レーダーの異常から、アビスに新型がいると考えられる。当該アビスによって通信が妨害されている可能性があり、それ以外にも何か能力を持っている可能性がある。各自、戦闘時はいつも以上に気を張れ!さらに、砲撃型の存在がかくに……しまった!」


 小隊長が隊員へ指示を出している内に、射程に入った砲撃型が攻撃を開始してくる。基本型のアビスよりも長い射程と、大口径・大出力を誇る光線が装者を襲う。


全機散開(ブレイク)!」


 その言葉に反応して装者達は飛び散るが、僅かに反応は遅れた装者が光線に飲み込まれる。光線が止まると、その後に装者の姿は無く翡翠色の結晶が宙に舞うだけだった。ただでさえ結晶化指数が高い装者が、シールドがあったとはいえ高密度の晶気に晒されたのだ。その結果はひと溜まりもないものだった。


 そんな仲間の結晶化に動揺する装者達へ見せつけるように、中心の球体へ交差するようにパラボラアンテナの様なものを4つ付けたアビスが、その姿を現した。


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