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「私がやったことを説明する前に、学園でもされているかもしれないが、改めてCADについて説明しよう」
そう言って携帯端末を操作すると、部屋が暗くなりホログラム端末が起動する。
「そもそもCADとは、アビスに対抗するために一二三博士、つまり私の父が発明した兵器だ。新物質である“晶気”を使用して形作られるこの兵器は、アビスの攻撃に対して高い防御性能を持つと同時に、有効な攻撃手段となり得るのは知られている。それを利用して私が開発した防衛システムが“天岩戸”なのだが、今は置いておこう」
人物やCAD、建物の写真が次々と表示されていく。髭を蓄えた頑固そうな人物が、一二三博士なのだろう。全身鎧のようなCADが、沢山の研究者に囲まれている写真など、教科書にも載っていた写真がいくつか表示される。
「さて、一二三博士によって発明されたCADだが、初期はひどいものだった。まあ、それも置いておいて、私がCADの研究を引き継いで開発したのが、君らも着けている“吹雪”だ」
博士が視線で示した先には、俺たちが着けているCADがある。ホログラムに表示された展開状態のCADも見慣れた形だ。
「この“吹雪”の特徴だが、ご存知の通り武装の切り替えによって様々な状況に対応できるというものがある。しかし、これは同時に特化した機能というものがなく、武装を切り替えてもある程度の性能しか発揮できないという欠点と同義なのだ」
「学園内ではそれでもいいだろうが、正規装者ともなれば命のやり取りをすることになる。そんな中途半端な兵器にみを預けたくはない。そのため、個人に合わせて調整を施すことになっている。実際、刀子のCADは私が調整しているが、かなりピーキーな設定になっているよ」
「いや、ただ近接特化型になるように調整してもらっただけじゃないか」
「それがどうして機動力全振りみたいな設定になるんだい?ちょっと飛ぼうとしただけで、普通の装者じゃあ見当違いのところへ吹っ飛ぶようなじゃじゃ馬じゃないか」
精鋭と言われていることを知ってはいたが、紅嶺崎さんは俺の想像以上に凄い装者らしい。実際にCADに乗っているところをいたことがないから何とも言えないけど。
「話を戻そう。そんなわけで、優秀なテスターの為に私が二人のCADを調整しておいた。VRゴーグルのデータを基にしているから、今の実力にマッチした設定になっているはずだ」
得意そうにそういう博士の姿に、頭が痛いとばかりにかぶりを振る紅嶺崎さん。その姿に一つの予想が思い浮かぶ。
「……紅嶺崎さん、調整ってそんな簡単にできるんですか?」
「そんなわけあるか……二三四が異常なだけだ。通常であれば、装者の情報収集も含めて2時間はかかるものだ」
やっぱりだった。さすが第一人者、そこらの常識は通用しないらしい。
「私にかかればこんなもんだよ。それより、調整内容の説明をさせてもらうよ」
そう言うと、ホログラムにCADを纏った麻衣の姿が映し出される。
「麻衣くんのCADだが、こちらは純粋に狙撃適性を生かす形で調整した。機動力を犠牲にすることにはなるが、その代わりに安定性が向上し狙撃時のブレを軽減できるようにした。加えて、シールドの晶気密度を高くし、防御力も向上させた」
パラメーターを表示しながら、次々と調整した内容を説明していく博士。外見はそのままだけど、中身はほとんど別物になっていると言っても過言じゃないんだろうか。
「そして、もっとも注目してほしいのはコイツだ」
「超長距離照準補助システム、ですか……?」
聞きなれない単語に麻衣が首をかしげる。
「そう!この|超長距離照準補助システム《UAAS》は、私が開発した新しい狙撃補助システムで、まだ実践テストを終えていないものだ。折角なので、データ取りも兼ねて搭載させてもらったよ」
ホログラムにデカデカと表示されるUAASの文字。スペックを見ると、現行の狙撃補助システムよりも全ての機能が向上し、更に遠い距離からの狙撃を行えるようにしたものらしい。その理論上の機能は、新東京市中心から天岩戸までの距離を90%以上の命中率で狙えるとされているほどだ。
あまりのとんでも性能に声が出せない俺たち。紅嶺崎さんは呆れたとばかりに、ため息をついている。
「さて、続いて優人くんのCADだが、優人くんの適性に合わせてバランスの良い調整にした」
その言葉に少し安心していると、ニヤリと博士が笑う。ホログラムも俺がCADを纏ったものに変えられていた。
「私がそこらの人間と同じ調整をする訳がないだろう?VRゴーグルのデータから、現状は射撃と近接に重きを置いているみたいだったから、近・中距離で戦いやすいように機動性を向上させたよ。その分、晶力シールド出力は落ちたが誤差の範囲だろう。なに、VRの模擬戦では意味が無いし、実戦に出たとしても刀子みたいに2、3発食らったらシールド消失するほどじゃないから、問題はないさ」
俺のCADも麻衣ほどではないが、ピーキー寄りに調整されている。なにより、精鋭と言われる刀子さん基準で言われても困る!
「さてさて、これぐらいの調整は誰でも出来るから報酬としては相応しくないと思ってね、特別なシステムを搭載してあげたよ。もちろん、これも私が開発した未発表かつ、未テストの代物だ」
楽しそうに説明を続ける博士。もうこの人を止めることは出来ないのだと理解させられた。
「さあ、刮目してくれたまえ」
そう言って表示された単語に、俺は頭一杯に?マークを浮かべた。
「|自立型自己成長改変システム《ISMS》?」
「そうだ。私は常々思っていた。装者に合わせてCADを調整するのは良い。しかし、装者の力量は出撃だけでなく訓練次第で日々変わっていく。それに合わせて調整が出来るのならいいが、装者全員の調整を毎日行うのは現実的に難しい現状がある」
全く嘆かわしいと、かぶりを振る。そりゃ、みんながみんな博士みたいに調整を行えれば話は別だが、そうでないのならどうにもならない話だろう。
「しかし、そこで私は思考停止せず考え続けた。そして思い至ったのだよ、私達が調整できないのなら、CADに調整をさせればいいのだと」
名案とばかりに、どこかの王妃が言ったと誤って流布された言葉のような事をいう。普通の研究者では、その発想に至っても実現するまでの気の遠くなる道のりに断念するものだが、俺の目の前にいるのはCAD研究の第一人者とされる天才、君島二三四博士だ。
「さすがの私でも時間は掛かったが、ついに完成させることに成功したのだよ。優人くんのCADに組み込ませてもらったのは、君の成長率というか、“適応力”がこのシステムのテストをするのに相応しい程、著しいものだったからだ」
「まあ、要は君の成長に合わせて、CAD自身が勝手に調整を行って最高の状態を保ってくれるということだ」
理解が追い付いていない事に気付いたのだろう。苦笑しながら、とてもかみ砕いた説明をしてくれる。
「とりあえず、博士が天才であることと、とんでもない物を組み込んでくれたことが分かりました」
「まあ、今はそれでいいか……それでは、早速動かしてみたいと思わないかい?私は動いているところが見たい!」
貰ったおもちゃで遊びたい子どもの様な言動だが、作ったのもこの人だ。
「いや、どこでやるんですか……?」
「私に抜かりはないよ。この建物の地下が巨大な演習場になっているんだ。発表していない研究なんていくらでもあるからね」
納得した。ついでに、その研究のデータ取りとかに紅嶺崎さんが駆り出されているところまで予想出来た。
「二人とも、二三四に悪気はなくてだな……純粋な善意なんだ」
博士の勢いに圧倒されていた俺たちに、紅嶺崎さんからフォローが入る。まあ、俺たちへの報酬と言っているし、説明の口調は自分の研究を自慢しているみたいだったので、善意でやってくれていることを疑う余地はない。
「それは、分かります。俺たちの方こそ、博士に色々とやってもらって申し訳ないくらいです。期待に答えられるように精一杯頑張ります」
「私も、ここまでしてもらったんです。期待に答えるためにより一層精進します」
「うんうん、そう言ってくれると私も頑張った甲斐があるよ!それじゃあ、地下に行こうか」
テーブルの上を片付け、博士に連れられるまま俺たちは地下へ向かった。
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