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5夜 エセビッチがエセ過ぎる

 

 ワイシャツを第3ボタンまで開け、他人の枕をがっちりとホールドし、気持ちよく寝息を吐いてそいつはいた。


「よく今日初めて会った奴の家で、初めて会った奴のベッドで寝れるな」


 俺はこの図太いメンタルに感心をしながら、高宮を起こす方法を考えていた。


「正直触りたくない、けどやっぱり起こすには触るしかないよな、、」


 俺の手はゆっくりと、高宮の肩に向かった。

 あと少し、ほんの少しで肩に届くという時に、高宮はホールドしてた枕を離し、仰向けになって寝だした。

 だが、俺の手は止まらなかった。あと少しという安心感から力が抜けてしまい重力のまま手が落ちていった。


「ぶっねー、なんとか触れずにすんだ」


 幸いにも手の着地地点には、高宮の体はなく、僅かな隙間に手が落ちた。

 頬を伝う一滴の汗を片手で拭い、とりあえずスタート地点に戻そうと手を持ち上げようとした時。


「ねぇ〜、どこ行くの〜?ま〜だ、これからでしょ〜?」


 寝ぼけているのか、気持ち悪いほど甘ったるい声で、俺の手を両手でがっちり掴んでいる。


「当たってる!当たってる!てか、なんでこいつこんなに力強いんだよ!」


 やばい、何がやばいって、こんな所を妹に見られてもやばいし、これでこいつが起きてもやばいし、何より俺の体がやばい。

 どうにか、力ずくでとるしか、、、、


「抜けねーーーー、抜かせろーー」


「むふふ、風太は変態だね〜」


 こいつ殴りてーーー!

 誰のせいでこうなってると思ってるんだ?


「いいから、離せ!」


「いま、離れたら、、、そんに私の裸が見たいの〜?風ちゃんのせかしんぼ〜」


 さっきから、こいつのキャラはなんなんだよ!全部的確に俺をイラつかせる!

 夢の中の俺、どうかこいつを殴ってくれ、、


「いたいっ、もう怒らないでよ〜」


 奇跡だ!奇跡が起きた、夢の中の俺は優秀だった!

 おかげでこいつの手の力も緩んだし今なら!


「ちょっかい出したかっただけ?たっちゃんてば〜」


 夢の中の俺もうぜーーー!!!

 何バカップルやってんだよ!女性恐怖症のくせにイチャイチャすんじゃねー!

 あと、風太でたっちゃんなんて確実に呼ばれないからな!


「なんでそんな遠いの?もっと近くにきてっ!」


 その言葉と共に、緩みかけていた手のホールドがまた強くなり、そのまま俺の体ごとベットに引きずり込まれた。


 これは本気でまずい。一人用のベットに男女2人。

 お互い向き合って、逃げようにも高宮がおれの腰を掴んで逃がしてくれない。

 さっきの枕が完全に俺になってる。


「やばいやばいやばいやばい、どうするどうするどうする?」


 俺の頭はもう、何も考えることが出来なかった。

 妹に見られる恐怖。こいつが起きる恐怖。自分の体への負担。全てがごっちゃになり、何も考えられない。


「汗が、止まらない、視界がボヤけて、、、もう、無理」


 俺はそこで意識が飛び、深い闇へと落ちていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「んっん〜、私寝ちゃってたのか、、」


 私は、まだ夢見心地でゆっくりと目を開けた。

 視界はまだぼんやりしていて、目の前に何かいる事だけが認識できた。

 それと同時に体を誰かに触られてるような違和感を感じた。


 次第に私の視界から霧はなくなり、はっきりと見えた。

 成橋くんが私の方を向き、汗を流し、私の腰に手を置いている姿が。


「へ、へ、変態!」


 私は、両手で成橋くん、もとい変態の体を突き飛ばし、ベットからおいだし、すぐ近くにあった布団を体にまきつけた。

 そのまま、ベットの隅まで移動し変態を睨んだ。


 変態は、飛ばされた勢いで頭を机の角にぶつけ、一気に目を覚ます。


「痛った!?」


 俺は確か、高宮に引きずり込まれて、それで耐えられなくなって気を失って、、、

 それで今、誰かに突き飛ばされて、誰かってこの部屋には俺とあいつしか、、、


「って、お前やっと起きたか!この、、」


 俺が力強く、あの時の恨みを晴らすかのように叫ぼうとすると、高宮はそんな俺よりも早く言い放った。


「変態!、、変態!変態!変態!」


「はぁ?変態?誰が?俺が?」


 俺が変態?こいつまだ寝てるのか?

 それに、いつもはこれ見よがしに制服を着崩してるくせに今はなんで布団巻いてんだよ。

 言いたいことがありすぎる、だけどまず言いたいのは。


「変態に変態だと、言われたくないね。変態!、いや変態ビッチ!」


「はい?変態ビッチ?誰が?私が?」


「お前以外の誰がいる?人のベッドで人の枕を抱いて寝て、それどころか俺を、、、変態ビッチ!」


「疲れてたんだからしょうがないじゃん!抱いちゃうのは癖だし!」


 つまり俺はこいつの抱き枕がわりにされたって訳か。

 なら百歩譲って寝てたのはいい、だけどその後の寝言と寝相はどう考えても変態ビッチだろ!

 そんな変態ビッチに変態って言われてる俺ってそうとうだろ。意味がわからん。


「一応、聞いといてやるが俺が変態だという根拠はなんなんだ」


 どうせ、こいつのことだから寝込みを、、とか言いだすんだろ。

 まぁ、何を言われようが何もしてない俺は真っ白。黒い部分などちょっともない!

 だから、こいつとの言い争いは確実に俺の勝ちだ。


「成橋くんが、ベッドに入ってきて、汗を垂らしながら、私の方を向いて寝てた!これを変態と言わずになんていうの!?」


 あれ?話だけ聞くとすんごい変態だな?

 それで、客観的に自分を振り返ってみると、

 ベッドに引き込まれて入った。体質の問題で汗は垂らしてた。そしてこいつの方も向いて気絶したから、、、、

 俺、完全に変態じゃん。


「待ってくれ!結果的に変態になったのは認める、でもそれはお前が俺をベッドに入れて、、」


 俺は、客観的に見て変態だった事を認めた、だって認めるしかないだろ。

 女子が寝ている横で、汗を垂らして女子の方を向きながら寝てるって、救いようのない変態だろ。

 もはや、ちょっとしたホラーだぞ。変態という名前のホラー映画あれば確実にこのシーンあるぞ。


 とりあえず、俺が変態みたいになった事は認める。

 だが、こいつも変態ビッチである事には変わりはない!

 俺はその証拠を叩きつけようと口を動かした、その時、

 目の前で、怒りながら涙を流す高宮の姿が目に入る。


「お前、なんで泣いてんだよ。どうせ、すぐ泣き止むいつものパターンだろ」


「泣いてない、泣いてなんかない」


 俺の予想は外れた、高宮から涙がなくなる事はなかった。

 高宮はずっと強がりながら、泣いてないというが涙は止まらなかった。


「何がどうなってるんだよ、なんでこんなに泣いてるんだよ、」


 俺が、独り言のように呟くと、高宮はゆっくりと言葉を紡いだ。


「うっ、信じてた」


 信じてた?何を?


「女性恐怖症なのに、私を助けてくれた成橋くん、、」


「だから、俺は女性恐怖症じゃ、、」


「うん、そうだね、それでも、私はそんな成橋くんを信じてた」


 こいつは光り輝くニセモノじゃなく、薄暗い本物を信じている。

 今まで出会った女子でそんな事言ったやつは一人もいなかった。


「信じてた、けどやっぱり違った。結局は周りと同じ人だった」


「俺は、、」


「ごめんね、成橋くんの言葉信じてあげられなくて、成橋くんは女性恐怖症じゃなかったね。人を信じない私に罰が当たったんだね、、」


「でもさ、やっぱり初めては、好きな人とがよかったな〜、、」


 高宮は笑顔でそう言った、つもりかもしれないが。

 その笑顔は、とても強がってて、気を緩めると涙がまた溢れ落ちそうで、それを隠すような満面の笑みを作っていた。


「お前、初めてって、でもそれじゃ、」


「そうだよ、私はビッチなんかじゃないよ。むしろ一番遠い出来損ないだよ」


 俺は、自分の耳を疑った。

 俺の中での高宮という人物が一気に崩れた。

 そうして、ようやく気づいた。俺が高宮のニセモノを勝手に作り、勝手に押し付けていた事を。


「そういう事か、俺とお前は似た者同士で、、、」


 周りに理想を押し付けられ、それを認めて本物とする。

 そんな世界で生きていた俺には高宮という薄暗い本物を見つけてくれる存在が現れた。

 だけど、高宮にはまだ誰もいない。そして今その本物に届くのは俺だけだ。

 なら、言うべき事は決まってる。


「俺は、お前の本物を信じるよ、だからさ、お前も俺の本物を信じてくれよ」


 多分、他の人が聞いても意味がわからないと思う、これは俺と高宮だからわかるもの。

 と思ったが、こいつは鈍いのか?それとも俺がポエマーなのか?

 何にせよ高宮が頭上にはてなマークを連発してるから伝わってないんだろう。


「だから、俺はお前がビッチじゃない事を信じるし、ビッチじゃない事を望んでる!だからお前も、お前が信じた俺を信じて、望んでくれ!」


 明日以降、今日の事を思い出すと恥ずかしくて布団から出れない気がする。

 今日初めて会った子にこんな事言う男子ってもう痛くない?痛すぎない?


「くすくす、何それ?絶対明日思い出すと恥ずかしいよ!、、でも、ありがとう」


「うるせっ!ちなみに言っとくけどな俺はお前の初めてなんて奪ってないからな!それだけははっきり言っとく!」


 多分、こいつはこんな事言わなくても、もうわかっている。

 ただ、言っておきたかった。言って安心したかった。あいつのあんな笑顔見たくないから。


「知ってるよ!」


「ならいいけどさ」


「今となっては、ちょっと惜しいけど、、、」


 高宮は小声で何か呟いていたが、俺の耳にその言葉は届かなかった。


「というか、陽も落ちてきたな。これ以上落ちるとお前家に帰れないだろうし、もう帰った方がいいぞ」


 俺は本心で言ったつもりなのだが、高宮はバカにされたと思ったのか目をつぶり舌を出していた。


「でも、まぁ、この後バイトもあるし帰るね。別に迷子になるとかじゃないからね!」


 そいういって、布団をくるんだまま着崩れていたワイシャツを整え、といっても第2ボタンまでは開けているが、準備完了という掛け声とともに布団を投げ捨て、立ち上がった。


「じゃ、帰るね!なんか今日1日で色々なことがあったけど、私たちもう友達だよね??ね?ね?」


 ね、という言葉に異常な圧力があり、言う度に俺に近づいてくる。

 こいつは女性恐怖症だと知っててこれをやるからタチが悪い。


「お前がそう思うなら、それでいいんじゃね?」


「なら、友達!」


 そういって、高宮は自分の荷物をまとめ、部屋から出て行った。

 一応、帰り道を口頭で伝えたものの正直心配なため、自分の部屋からあいつの帰り姿を見ていたが、案の定、初っ端から反対方向に進み、また俺の家の前に戻ってきた。


 それから2回、3回と俺の家の前に戻ってきて、4回目の時に俺の家に下を向いて向かってきたのが確認できたため、わかるところまで一緒に行くことにした。


 横に並び、歩いてる時間は特に何かを話すわけでもなく、ただ淡々と景色が変わるだけ。

 しばらく歩くと、高宮からここならわかると言われた。


「こっからはわかるんだよな?迷子になるなよ?」


「わかるよ!バイト先すぐそこだし!」


「送ってくれて、ありがと!じゃあね、チキンの成橋くん!」


 やっぱり、こいつにはこの無邪気な笑顔を一番合うなと思いつつ。

 俺は、皮肉交じりに答えた。


「じゃぁな、エセビッチの高宮さん」



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