4夜 エセビッチが怖すぎる
周りの人が見る俺は、いつも俺じゃない。
勝手な理想で押し付けられ、作られた虚像の俺だ。
そこに俺の意思なんてあるはずはなく、ただ無情に周りの理想が俺に被さる。
俺はその被さる物を取り外すことは出来ない。
被さる物より、本物の俺はつまらないから。
なら、どうする?
答えは簡単だ。
薄暗い本物をニセモノにし、光輝くニセモノを本物にする事だ。
「お前がなんでそう思ったのかは知らないが、俺は別に女性が苦手な訳じゃない」
「でも、鳥崎くんが言ってたよ?」
「さっき言ったろ?あいつは話をもる癖がある。俺を困らせるためには特に」
「じゃ、体に痒みがとか、頭痛とか、熱が出るとか全部嘘なの?」
全部ほんとだ。全くもってその通りだ。
だけど、みんなはそれを望んでない。そんなつまらない真実求めていない。
「嘘に決まってるだろ?そんなのあってたまるか」
俺は、周りの理想の邪魔になる本物の俺は、ニセモノの俺で無くす。
周りがどんな理由を想像しているか、それはわからない。
ただ、女性恐怖症というつまらないものではない事だけは分かる。
「でもでも、じゃ、なんで今日早退したの?私に触ったから体調崩して、、」
「それは、朝から少し熱があったのに、無理して学校に行ったせいだろうな」
「じゃあ、じゃあ、私と話してる時にすごい汗が出てたのは?」
「いや、お前が変態的な事をしてて、変態すぎて緊張した」
正直、これはあながち間違いじゃない。
あんな変態と話したら誰でも緊張して汗が出ると思う。
「でも、尋常じゃないほど汗出てたよ?」
「それは、、、、、」
高宮は口が止まった俺をじっと見つめる。
時々見せるこいつの真剣な顔は、どこまでも真っ直ぐで、一遍の曇りもない。
「それはお前が変態すぎて、尋常じゃない変態に出会ったから尋常じゃない汗が出た」
あえて言おう、これはもう真実だ。
久々に、本物の俺とニセモノの俺が一致した瞬間だと思う。
「私は変態じゃなーーーい!」
高宮はいきなり大声で叫んだ。
さっきまであんなに真剣な顔だったのに、何がなんやら。
「うるさっ、どうした?」
「私は変態じゃないないから!写真の件は君の勘違いだって!」
何を、どう勘違いするのか分からないがとりあえず俺は一言。
「へー、わかった」
目を細め、軽く微笑み答えた。
「笑顔が怖い!絶対信じてないでしょ!変態だけはやめて!お願いしますーー!」
高宮がそう言って、俺の服を掴み泣きすがろうとしていたため、それを軽く避けて家に向けて歩いた。
「なんでもするからー!!」
「それじゃ、俺に近寄るな」
俺は、全力で自分の持てる力を全て使い、高宮に訴えた。
「その言い方、その蔑んだ目、完全に変態だと思ってるでしょ!」
高宮は何度も俺の服を掴もうと近寄ってくるが、それを何度もかわした。
変態だと思われてる悲しさと、服を掴めない悔しさから徐々に高宮は顔が赤くなり、目がウルウルし始めた。
「はぁー、わかった。信じるよ。お前は変態じゃない」
俺は心にもないことをを言った。
こいつの顔を見て少し可哀想だと思ってしまったからだ。
すると、高宮の表情は一気に明るくなり、満面に笑みで言葉を紡いだ。
「ありがとう、信じてくれて!」
俺は、その笑顔から目を背け、歩くのをやめた。
「俺の家ここだから、それじゃ、変、、高宮」
思わず口からあのワードが顔を出した。
だってしょうがないだろ?心では変態だと思ってるんだし。
俺は、何事もなかったかのように家に向かって歩き始めようとした時、肩にすごく小さい、なのにすごい力を帯びている手が伸びてきた。
「いま、へんって言ったよね?絶対信じてないよね?」
のちに俺は語った。
あの時、大量に吹き出た汗は、肩に乗せられた手のせいではなく、恐怖という二文字から溢れ出るものだったと。
「た、高宮、、さん?」
「なぁに?成橋、くん?」
俺は、あまりにも雰囲気の変わった高宮に、思わず本人か確認を取ってしまった。
しかし、返事が来るということは本物、俺は汗が止まらなかった。
「一回、肩に乗ってる手をどけてくれないか?少し痛くて」
怖い、怖いがここで下に出ると男としてのプライドが許さないため、震える声を振り絞り、どうにか対等な感じで要求をした。
高宮はそれを聞くや否や、すぐに答えた
「何かな?」
いつもの明るい声のはずなのに、なんでこんなに怖いんだ。
何度か見た笑顔のはずなのに、なんでこんなに怖いんだ。
怖い、怖いけど、これまで強気の態度で高宮に接してきたのに、ここで弱気な態度を見せると何を言われるかわからない。
俺は、自分のプライドのみを原動力に言葉を発した。
「いい加減にしろ、痛いから肩に乗っけてる手をどけろ」
言った。言い切った。俺は勝った。
俺の男としてのプライドは強かった。誰にも壊せやしない!
「どけろ?」
高宮のその言葉は凶器となり俺に突き刺さった。
「どけてください、お願い致します」
俺の男としてプライドは消えた。いまこの時に。
そして俺の予想は当たった。
「どけてもいいけど、交換条件!」
その言葉には温かみあり、高宮の雰囲気も前の高宮に戻っていた。
おそらく、俺の弱い態度を見てご機嫌なのだろう、こいつはすごい単純なんだと改めて思った。
高宮の雰囲気が戻り、それにつられ俺の恐怖心は和らぎ、いつも通りの話し方ができるまでに戻っていた。
「何?」
いつも通りの話し方で、返事をすると、高宮がいつも通りの話し方で、返事をした。
「成橋くんの家に入れて!」
こいつは何を言ってるんだ?
家に入れる?変態を?いやその前に女子を?
………絶対に嫌だ。
「絶対に嫌だ。意味がわからない」
そう言った途端、緩みかけていた肩に乗せられていた手が一気に締まった。
俺は、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには激怖高宮さんが降臨していた。
「なんでも、ありません、、、」
俺の心が折れ、うなだれていると肩にあった手は離れ、後ろにいた高宮は俺の前に来て止まった。
俺はその時、素朴な疑問をぶつけた。
「なんで、お前は俺の家に入りたいんだよ」
それを聞いた高宮は、俺の方に振り返り、人差し指で俺をさしながら言った。
「決まってるじゃん、君を困らせるためだよっ」
そう言った高宮の無邪気な笑顔に、俺も笑みがこぼれた。
「完敗だよ、、」
俺は目の前にいる高宮を避け、自分の家に向かって数歩歩き、扉に手をかけた。
この時、自分の家に女子を入れることを決意した。
「ただいま」
よりによって、この変態ビッチを家に入れるとは、とどうしようもない後悔をしながら入ってきた高宮に目を向けると、なぜか子供のように目を輝かせ、口を大きく開けていた。
「ついに、ついに、男の子の家に、、、」
「なんか言ったか?」
「べ、別に何も言ってないよ!」
俺は、ひとまず俺の部屋に行こうと提案し、靴を脱ぎ二階に上がろうとすると、1階のリビングから声が聞こえた
「あれ?随分遅かったねー?」
リビングからは包丁を使う音、水を沸かす音が、食材を炒める音、そして人の声が聞こえてくる。
「いや、ちょっと変な奴に絡まれてな」
すると、リビングから包丁の音が消え、その代わりに激しい足音だけが響く。
リビングの扉が勢いよく開き、俺の元に声の主が走ってくる
「絡まれたって、大丈夫!?」
「大丈夫だよ、それより包丁を持ちながらくるのは怖いからやめような」
’
「成橋くん、この子誰ですか?」
高宮が俺にだけ聞こえる声で聞いてくる。
「あー、こいつは俺の妹の成橋佳那、今は中学2年で生徒会長も務めてる。自慢の妹だ」
「成橋風太の妹、成橋佳那と言います。その制服を見たところ兄と同じ学校の方ですね。いつも兄がお世話になってます。」
佳那はそう言って、ゆっくりと頭を下げた。
「妹さんですか!私は成橋くんのお、おと、おとも、、知り合いの高宮沙織です!とても礼儀正しい妹さんですね。誰かとは大違いですねー、、」
「そうだな、誰かさんと違って、品行方正で清楚な自慢な妹だ」
俺は横で俺のことをあざ笑うかのように見てる高宮を、あざ笑うかのように見返した。
「あの、兄さんの部屋かなり汚かったから色々と片付けておいたよ?一応、兄さんも確認して大丈夫なら高宮さん入れれば良いと思う」
佳那はそういうと、俺の背中を軽く押し2階に上がらせた。
「部屋の確認終わったら呼ぶから、高宮はそこにいてくれ」
「後、佳那に頼まれてたやつ、買って玄関の所に置いてあるから」
俺はそう言って、部屋を確認しに向かい。
佳那は玄関にあったスーパーの袋を持って、高宮に一礼しリビングに戻った。
「変なものはないよな、いや元からないけど。とりあえず大丈夫そうだな」
俺は、確認が全て終わり、高宮を呼んだ。
呼んだはずだが全くこない。
「あいつ全然こないな、何してんだ?まさか迷ったのか?そんな訳、、、あるかも」
俺は、もしかしたらの可能性があると思い、高宮を連れてくるために部屋の扉を開けた。
そこには、手のヒラにビッチと書き、飲み込んでる高宮がいた。
「そこにいるなら早く入れよ」
「ヒャい!入ります!」
高宮は珍妙な声をあげ、カクカク動きながら俺のベッドに座った。
「なんでお前緊張してんの?男の部屋なんて慣れてるだろ?」
「いき慣れてる訳な、、、るよ!いき慣れてるに決まってるじゃん!」
俺の軽い質問に、ものすごい必死に答える高宮だが、体をもじもじし、目はあちこちに泳いでいた。
「まぁいいや、飲み物とってくるから楽にしといてくれ」
俺はそう言って部屋を出た。
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「ここが男の子の部屋、なんかいい匂いがする。このベットからかな?」
私は、ベッドに顔をうずめ匂いを確認した。
「やっぱりそうだ〜、いい匂い〜。」
緊張していた体の力が抜けていき、ベッドに体が吸い寄せられていく。
「成橋くんが帰ってくる前に出ればいいし、ちょっとぐらいいいよね」
自分を納得させるかのように言葉を紡ぎ、布団に体を潜り込ませた。
「今の私、ビッチになれてる気がする、、成橋くんもイチコロ、、、、、」
そんな事を言ってると、今までの疲れや急激な緊張のほぐれから眠気に襲われ、次第に眠りについた。
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「妹とこんなに話し込むとは、だけど佳那があんな顔をするなんて高宮が帰ったら相談にでも乗ってやるか」
俺は、そうつぶやきながら階段を上がり自分の部屋のドアを開けた。
そこには高宮の姿がなかった。その代わりに俺の布団が不自然に膨らんでいた。
「まさかな、、、いくら変態ビッチでも。そんな事する訳」
俺は、静かに布団をどけた。
そこには普段着崩していた制服がさらに崩され、枕を抱きしめながら寝ている高宮の姿があった。
「こいつ、本物の変態ビッチだ」