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2夜 エセビッチの初めて

 俺は悔やんだ、少しでもこいつに見とれてしまっていた事を。

 あの無邪気な笑顔のせいで完全に騙されていた、冷静になった今だからわかる。

 確かにこいつは性格は悪くないし、いい奴なんだと思う。

 だけどさ、これだけは言わせてくれ、こいつは変態ビッチなんだと。


 俺は、人の裸の写真を見ながら嬉しくて涙を流す人に対して、変態という言葉しか表す言葉を持ち合わせていない、必然的にこいつは変態ビッチだ。

 だがら俺は、写真よりも身の安全を優先し、こいつに気付かれる前にこの場を去る方法を考えていた。

 並の男なら、さっきのカオスな状況で取り乱して木の枝を踏んで音バレ、ジ・エンドコースだ。


 だけど、俺は違う。

 振った女は数しれず、誰もが妄想せずにはいられない成橋風太だぞ?こんなカオスな空間に取り乱すほどやわじゃない。

 正直、冷静すぎて怖いぐらい、

 冷静すぎて、周りに落ちてる木の枝の場所を全部確認し終えちゃったし、ウイニングロードが完璧に見えている。

 だからさ、だから、、、


(早く動けよーーー!何これ、全っぜん足が動かないし、ここだけ重力おかしいのかってぐらい動かないんだけど。)


 人は得体の知れないもの、恐怖の対象に出会った時に体が硬直する。

 成橋風太は元々女子と距離をとるほど女子が苦手で、その女子という恐怖の対象に得体の知れない変態ビッチという属性が付いている、もはや硬直するのは当然とも言える。


(てかなんだよウイニングロードって、もう新しい木の枝でウイニングロード無くなってんじゃねーか!心無しか木の枝が布陣を組んで俺の行く手を阻んでるまであるよ、あの木の枝絶対ラグビー見てたよ、絶対ONETEAMとか言ってるよ)


(いや、なに考えてんだ俺!どうする?どうする?幸いにも高宮は感極まって自分の世界に入ってるし、とりあえず動かなきゃ気づかれないけど、、、)


 そう思ってた矢先、風太の体に新たな異変が襲いかかる。

 一滴、また一滴と風太の顔から水が落ちる。


(ん?雨か?それにしては俺の周りにしかぬれた痕跡はないけど、、、ってこれ俺の汗じゃねーか!もう始まったのか、、、)


 一滴、また一滴と地面に風太の汗が滴る。


(やばいぞ、木の枝とかそこらの枯葉に当たったら音が鳴って、絶対気付かれる)


 そして、その予想は虚しくも的中しようとしていた。一粒の汗が近くの枯葉に一直線に落ちる、

 その時、微かな風が吹き、布陣を固めていた木の枝が枯葉を飛ばし汗を地面に着地させた。

 それは、地面へのトライの道を仲間が切り開くが如く。


(お前(木の枝)本当は俺を守るために、ありがとう。俺も勇気出して頑張ってみるよ)


 俺の足はもう重くない、仲間(木の枝)が作ってくれたウイニングロード、その一歩を俺は踏み出した。

 その時、再度風が吹きつける。木の枝はトライの道を切り開くが如く俺の足の下に滑り込んだ。

 そして、パキッという音が鳴った。


(おい!!!!!!)


 俺は声に出して突っ込みたい気持ちを抑え心の中で突っ込んだ。


「誰!!??」


 そう言って高宮は持っている写真を後ろに隠し、俺の方をじっと見つめる。


「あー、同じクラスの成橋風太だけど、その何というかお前に用があって」


 冷静さを演じて俺が答えると、高宮は少し黙ったと思いきやいきなりニマニマして聞いてきた。


「はっはーん、私の噂を聞いてやってきたのね?ここは中庭の中で唯一どこからも見られない死角、そして太陽が当たらない日陰。そんな所に私がいて、ここだって思って声をかけてきたってところかな」


 すんごいニマニマ顔で、とんちんかんなこと言ってて微妙に腹が立つが、その気持ちをグッとこらえて用を伝えた。


「お前が後ろに隠してる写真を返してくれ」


 高宮は一瞬驚いた顔をしたがすぐ笑みを浮かべ再度切り返してきた。


「私の気をひこうとカマなんてかけても無駄だよ?私はやましいことなんて何もないんだから!、、、いやいや、やましいことはいっぱいあるよ!うん!いっぱい!!」


 一人でなんか熱くなっているのを横目に、俺はあくまでも冷静に話を進めた。


「じゃ、その後ろに隠しているのはなんだ?」


「それは、、、、」


 もうこいつも誤魔化せないと理解するだろうし、早く終わらせよう。


「もう諦めろ、早く出せ」


 すると何を考えてかは知らないが、後ろで隠していた写真を自分の胸の中に入れた。


「後ろには何もないよ、もしかしたら別のところにあるかも知れないけど、ご自由に探してください。よかったですね、私がサービス精神豊富で。」


 そう言った高宮は真っ赤な顔で涙目になりながらも自分の胸を俺に近づけ下からぎこちない笑顔で俺を覗き込むように見ていた。

 だから俺はすぐさま言った。


「離れろ、お前の体に興味なんてない。いいからその脂肪に入れた写真を俺によこせ。」


 高宮はバックステップし、顔を膨らませて言った。


「し、脂肪?あーあ、せっかくのチャンスだったのに。もったいない、、」


 そう言った高宮の顔はさっきの笑顔とは比べ物にならないほど、素直な笑顔をしていた。

 そんな彼女とは逆に俺は、汗の量が次第に増え、頭が回らなくなっていき全くもって笑うことができない。


「いいから、早く渡してくれ、頼む」


「ちょっと、すごい汗だよ?大丈夫?」


 高宮の手が俺の額に触れようとする


「触るな!、、、俺は大丈夫だから、頼む写真を」


 高宮は少しむすっとした顔で自分の胸に隠した写真を取り出し、渡した。

 そして、高宮は渡す瞬間小さな声で呟いた。


「やっぱり、私なんかだよね」


 俺はこの言葉を聞くことができなかった、というか言っていたことすら気づかなかった。

 今の俺にはそんな余裕はない、今すぐこの場を離れるそれだけを考えていた。

 しかし、高宮がそれを許してはくれなかった。


「ねぇ、いつからここにいたの?」


 今の俺に言葉の駆け引きができるはずもなく、素直に答えた。


「お前が写真を見て、変態みたいなことを言っていたところから」


 すると、高宮の顔が一気に赤くなり、早口に話し出した。


「いや、違うよ?違うんだよ?裸を見れたっていうのは、人生で初めて見ることができたとかじゃなくて、最近男の裸見てないからやっと見れたとかそういうことだから!全然恥ずかしくて見れないとかそういうのじゃないから!」


「そ、そうか」


 正直、何を言っているのか全然聞き取れなかった。本格的に体の限界が近い。

 しかし、高宮は止まらない。おそらく俺の言葉も高宮には聞こえてないだろう。


「別に、初めて男子の裸を写真越しとはいえ見れたから、嬉しくて写真を家に飾ろうとしたとか、そういうことじゃないからね!別にこの人がかっこよくて欲しいとかそういうんじゃないからね!てかよく見たらなんか写真に写っている人と君と似てない」


 謎の間が訪れた、これは答えろって事なのか?


「その写真に写っているの俺だよ」


「てことは、私の初めてを奪ったのは成橋で、目の前にいるのがその成橋で、あの成橋がこの成橋で、成橋が成橋で、、、、、、、、」


 高宮は一人で暴走をし、エネルギー切れでその場に倒れ込んだ。


「おい、冗談だろ。。。。。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私が目を覚ましたのは保健室だった。

 確か、成橋くんに話しかけられて、それで、それで、


「私、またやっちゃったんだ。」


 私は深いため息を一つ付き、起き上がった。

 保健室には先生も生徒も誰一人としておらず、とても静かだった。

 そんな空間で一人、成橋くんにした大胆な行いを思い出し、ベット中に戻り悶えでいた。


 すると、扉の開く音がなり、足音が私のベットの横に来たのがわかった。

 私は、恐る恐るかぶさっている布団を少しどかし、目だけをだし人を確認した。


「誰?」


「どうもー、みんな大好き鳥崎俊でーす!」


 私は布団にこもり直した、

 そりゃさ、そりゃさ、別にどうでもいいけどさ、倒れた現場にいたんだし、あいつも来てくれてもいいじゃんか。

 私は布団の中から問いかけた


「一人?」


「そだよ」


「そう、だよね」


 私は何を期待しているのか、あいつは女子の胸を脂肪っていうやつだよ、女子の見舞いなんて来るわけないじゃん。


「風太の事が気になる?」


 私は風太くんのことが好きなのかと言われると、それは確実にNOだ。

 私はただ、高校に入って初めてまともに話せた男子だったから、私にとってはたった一人の大切な男友達。

 でも、風太くんにとって私はただのビッチ、いや変態だっけ?

 いや、触ることすら拒否られてるしそれ以下かも。

 これが私の宿命、自分でそう望んだんだから。

 涙を流すのは見当違いだ。

 .......ほんと私なんか。


「無回答か、、誤解してそうだから言うけど風太は別に高宮さんのこと嫌ってはいないからね」


「え?」


 私は思いがけない言葉につい声を出してしまった。


「嫌いな人をわざわざここまで運んでくると思う?」


「目の前で倒れてたら誰でも普通は運ぶと思うけど。」


「普通はね、でも風太は違う、あいつは女性に触っただけで体に痒みがでたり、めまいや頭痛、熱がでる時もある。そんなあいつが誰かに助けを求めず自分で高宮さんを背負って保健室に運んだんだよ、」


「え?成橋くんは今どこにいるの!?大丈夫なの!?」


「帰ったよ、体調不良でね。」


「そう、、でもなんでそんな体質に?」


「僕からは何も、あとは本人に聞いてきな。きっとあいつもうざが、、喜ぶと思うから!」


 鳥崎はそういって私のベッドに住所メモと配布物を置き、風太に届けるようにと言って去っていった。


 私は、ゆっくりとベットをでて、成橋くんの家に向かった。

 体質の話を聞くためにしょうがなく、配布物を届けるためにしょうがなく、、、

 いやそうじゃない、ただ一言ありがとうと伝えるために。





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