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リンの平穏なお仕事  作者: ホタテ
2/4

2.新婚かよ

リン、とは。


ミリアルの家に住む黒髪の美少女……ではない。

そもそもミリアルは、リンのクライアントだった。

だが仕事の過程で、リンはミリアルの家に住むことになった。

いや、リンからすれば強制的に住まわされていると言うのが正しいだろうか。

しかしミリアルは、女装をしたリンを放っておくわけにはいかなかったのだ。


そう、リンは少女ではない。

16歳の少年であった。


最初は仕事のためとはいえ抵抗していたが、近頃は馴染んできてしまい、元に戻る気もなさそうだった。

ただ、広大なミリアルの家にいることは、リンにとって大変退屈であった。

そんなリンが見つけた退屈しのぎとは。


使用人の如く家事をすることだった。


使用人たちは自分たちの仕事がなくなるからやめてくれと訴えたが、元々家事な得意なリンはやめなかった。

気がつけば、今朝のように料理まで作っているではないか。

スマイル邸にも料理人はいたが、おかげで今はいない。

なぜそうなったのかは、また別の機会に。


「今日も仕事、明日も仕事、明後日も仕事……」

「ごちゃごちゃ言ってないで早くしてください」

終わることのない仕事にため息をついていると、迎えに来ていた年上の秘書に叱られた。

「秘書は冷たい……」

「私だってあんたなんかほっぽりだしてバカンスへ行きたいわよ」

秘書のキャサリン・クロッシュは、ミリアルの大学時代からの付き合いである。

彼の先輩だったキャサリンは、時々秘書ということを忘れて冷たく当たってくることがあった。

「ひどいなぁ」

冷たい秘書に嘆きながら家を出ようとしたとき、ミリアルは呼び止められた。

振り向くと、リンが立っていた。

「忘れ物」

「……忘れ物……?」

そんなものはないはず。と、自分の持っている鞄を見たが、差し出されたのは。

「……お弁当?」

「そう」

「作ったの?」

「そう」

半ば押しつけられるように受け取る。

「……えっと……別に気を遣わなくてもいいんだよ。会社には食堂だってあるし、そんなに心配しなくてもお昼ご飯食べるから」

「……」

「スミマセン。美味しく食べさせていただきます」

無言の圧力にミリアルは屈した。

無表情なのがまた怖い。

弁当を持たされるのはこれが初めてではなかった。

なぜこんなにもミリアルが躊躇するのか、秘書のキャサリンはわかっていた。

ある日、社員に見つかり社内中の噂になったからだ。

「キャシーさんのもあるんだけど」

「本当に!?」

しかし社長への忠誠心が薄い彼女は、リンのその言葉に飛びついた。

「ありがとう! 嬉しいわ! あなたの作るものは最高よ! リン君!」

「そう言ってもらえると作り甲斐がある。どこかの誰かさんはそんなこと全く言わないから」

「期待するだけ無駄よ。味覚音痴だし」

「そういやそうだった」

知らぬ間に結託した二人に、ミリアルは肩身が狭かった。

「じゃ、じゃあそろそろ行くね」

逃げ出すように今度こそ出ようとした。

が。

「おい、待て」

また呼び止められる。

「まだ何かある?」

「髪、はねてる」

リンは少し背伸びをし、ミリアルの髪に手を触れた。

なでるように、はねた髪を押さえつける。

「……うん。これでよし」

満足そうにリンは頷いた。

「あ……ありがとう」

すると、さっきまでは無表情だったリンが、少し微笑み、

「行ってらっしゃい」

と言った。

「……行ってきます」

そのやりとりは何だかこそばゆく感じたが、嬉しくもあった。

次こそ行こうと外のほうを向くと、先日彼氏と別れたばかりのキャサリンが白い目で自分を見ていたので、早足で家を出るのであった。

彼女の前を通ったとき、「新婚かよ」と舌打ちをされた……

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