序章『夢か現(うつつ)か』改訂版
本作は『ケモナー系魔法少女風現代伝奇活劇』となっております。
異世界転生チーレムでもなければ日常系恋愛アオハル群像劇でもない、見た目13歳のツンデレ白狐娘(意外と美乳)に懐かれたり咬まれたりして悶々とする青年の物語です。
異能バトルもあります。
ほんのりエロスも少々あります。
挿絵も頑張って描きます(既出のエピソードに追加することもあります)。
というわけで、どうか読んでやってください
m(_ _)m
【最新改訂日2022年8月26日】
御巫伶人は、霧のたちこむ雑木林の中を歩いていた。
オリーブ色のカーゴパンツにミリタリー風の黒いシャツという服装で、胸元には澄んだ紫色の〝勾玉〟が。その一風変わったペンダントを除けば、普段の彼らしい格好だ。
鬱蒼とした木立ちに敷かれた小道は緩やかな右カーブを描きつつ、三十メートルほど先で霧に呑まれている。
その白く霞んだ景色を見据え、伶人は黙々と歩を運ぶ──
しばらく進むと、細い道が右に岐れていた。
それが当然の選択であるかのように、伶人は迷わず枝道へ。
やがて石造りの鳥居があらわれ、そこから先は急な石段になっていた。
石段を登るにつれて霧が晴れ、木洩れ日が降ってくる……
ほどなくたどり着いたのは、今を盛りと咲き乱れる山桜に囲われた空間だった。
広さは学校の教室ほどで、均された地面には円い飛び石が置かれている。
それらが導く先に、白木造りの小さな社が鎮座していた。
それは神棚のような様式で、観音開きの扉には藁を円く編んだ輪注連が掛けられている。
よく視ると、輪注連は四つの鐶(金属製の環)で固定され、扉には護符のようなものが貼られてもいた。
さも意味ありげな封印だ。
それが妙に気にかかり、伶人は社に近づこうとする。
そのとき、不思議なことが起こった。
胸元の勾玉が淡い光を放ちはじめたのだ。
そして、次の瞬間──
一陣の風が渦を巻き、伶人は散り舞う桜花にくるまれた。
その花吹雪が空に爆ぜるや、さらに輝きを増した勾玉から一条の光が走り、社の護符を射る。
すると、護符と輪注連が炎をあげて消え失せ、ひとりでに開いた扉の奥から白い光が溢れてきた。
その光輝が伶人の前に集まり、乳白色の像を結んでゆく……
蜃気楼のように揺らぐそれは、あきらかにヒトのかたちをしていた。
なめらかな曲線で構成された輪郭からすると、女の子のようだが──
「──またか」
はっ、と目を覚ますなり、伶人は溜息混じりにつぶやいた。
身をよじって枕元の時計を見ると、時刻は午前八時をすぎたところ。
登校も出勤もする必要が無い身分なので、好きなだけ惰眠を貪っていられるのだが、かといって二度寝を決め込む気分でもなく、頭をかきながらベッドを降りる。
「また、あの夢……」
伶人は寝室のカーテンを開けると、窓際に置かれた机の縁にもたれ、電子タバコをくわえた。
起き抜けの乾いた喉に染みるメンソールが心地好い……
「……なんなんだ?」
細く水蒸気を吐きつつ、伶人は思案に沈んだ。
霧にけむる雑木林を歩いて小さな社に行き着き、少女を象る不思議な光に遭遇する──
そんな夢をみて目を覚ましたのは、これで何度目だろう。
そもそも夢というものは、雑多な記憶の断片が継ぎ合わされた心象風景のはず。
えてして荒唐無稽な幻想も入り交じるが、それもまた自身の経験的概念から生まれたものであるはずだ。
けれど──
あの神棚のような社には見覚えが無い。
いや、あるのだろうが、思い出せない。
ということは、無意識の領域にしまいこまれた幼少期の記憶なのか?
だとすれば、あの〝光の少女〟は何かしらの幼児体験の暗喩なのかもしれない。
夢の中の自分は今現在の姿だから、今の自分の視点で過去を追想しているわけだ。
そして、かくも思わせぶりな現象を引き起こしているのは──
「──これか」
伶人は机の上の小さな標本箱に目をやった。
中には、紫水晶の勾玉を革紐でくくった素朴なペンダントが。
それは七歳の誕生日に祖父から贈られたもので、御巫家に代々伝わる宝珠なのだという。
綺麗だからこうして飾っているけれど、本来なら実家の神棚にでも供えておくべきものだろうから、普段身につけて歩くことはない。
なのに夢の中では必ずこれを身につけていて、いかにも意味ありげな現象をみせているのである。
それは、つまり──
「──こいつが夢の謎を解く鍵、ってことだよな」
伶人はケースから勾玉を取り出し、窓越しの朝陽にかざした。
「ひょっとして、俺は何かを思いだしかけてるのか? この勾玉に関係する、何かを」
もし、それが幼いころの記憶であるのなら、雑木林というロケーションで思い当たる場所は一ヶ所しかない。
「──とすると、あれはやっぱ子守山だろうな」
御巫家の私有地である、郊外の里山だ。
あそこなら小さいころから何度も行っているし、いわゆる霊域とされる場所なので、社祠の類が存在する可能性も高いだろう。
あの〝光の少女〟に象徴される記憶──思い出すべき〝何か〟が、そこにあるのか?
「……行ってみるか」
伶人は、その〝何か〟を探してみることにした。
後に彼自身が『奇譚』と名付けることになる数奇な物語は、そこからはじまる。