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魔法使いの少女  作者: flathead
最終章 眼前に輝く
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第二十五話 再会

アランくん。やっとですね。

僕もやっとと言う気持ちです。


 この村で暮らすようになってから数週間。まだ僕は魔法を使えるようにはならない。

 しかし、僕は一つの仮説を立てることが出来た。魔法とは一つの力なのではないか、と。

 この仮説に続いたきっかけはある日のある日の出来事だった。

 村でもらった果実をかじりながら森の中を歩いていた。この村周辺には獣が近寄らないらしいから、僕は安心して散歩に繰り出したのだ。

 魔法のことを考えながら歪んだ道を歩いていると、空から果実が降ってきた。その果実は僕が食べているのもと同じ、いや少し黒ずんだ色をしていた。

 その瞬間僕の体に閃きが走ったのだ。


 今落ちた果実には何が起こったのだ?

 なぜ果実は地面に落ちたのか?


 当たり前の現象に僕は疑問を感じた。

 そして僕は気付いたのだ。この世には力が溢れている。果実が地面に落ちるのも何かの力によって動かされているからだと。

 魔法も同じようなものなのではないか?

 アリアは以前、空中に金貨を浮かすことができた。それは空から地面に向かって働いている力に反発するように魔法の力を発動させているからだ。

 ケルビンは水瓶を爆発させて虹を描いた。爆発するにも何かの力が必要だ。それはまるで突風のような強い力が急激に発されることで起きることだ。

 ケルビンの家は家族はどうやって死んだ?

 ケルビンの魔法によってか? いや違う。ケルビンの魔法はその発端でしかない。ケルビンの家族は焼け死んだのだ。と言うことはケルビンはその時、魔法によって爆発ではなく、火を起こした。いや、その時ケルビンがイメージしていたのは……熱。乾布摩擦によって火がつくようにある程度の熱を持ては火が起こる。それによって家に発火してしまったのだ。。


 つまり、魔法とは魔法という力を使う者のイメージによって他の力に変える力なのではないかと僕は考えついたのだ。


 しかし、問題はこれからだ。

 どうやって僕にその力が宿るのだろか。村人達に聞いても魔法を使えるようになったきっかけ以前のことはあまり覚えていないという。

 僕はヨナに助けられた時のことを思い出す。彼女と共に出てきた二人の男のうちの一人が言っていた言葉が僕の頭に残っている。


——姫! こいつ進化している!


 進化。

 彼の言葉から読み取るにオオカミは何らかの進化をしていたから丈夫な肉体と毛皮を持っていたのだろう。

 人間も同じなのではないか?

 魔法は進化した人間が使うことができる者なのではないか?もしそうだとすれば、僕がどのように動こうが魔法は使えるようにならないだろう。

 それが真実だとしたら、何ということだろう。魔法を最も研究した者が魔法を使えないなんていう皮肉な事態の出来上がりだ。


 それから研究は進んでいない。

 結局、僕がどうやって魔法を使えるようになるのかが全くわからないのだ。



——————————



 僕はアリアと出会った山の頂上にいた。やはりこの場所はフィーチェの村の近くの景色と似ている。美しい夕焼けが似合う僕のお気に入りの場所に。

 開けた風景が夕焼けの邪魔をせずに佇んでいる。耳を済ますと風の音が聞こえる。やがて僕の元にたどり着いた風が辺りの木々の匂いを運んでくる。

 息を吸い込むと自然とため息が出る。

 魔法の研究が進まないことに対してのため息ではない。この景色に圧巻さに自然と出た感嘆のため息だ。

 

——こんな景色をヨナと一緒に見たかったなぁ


 フィーチェで遂げられなかったことを思うと勿体無い気持ちになる。

 僕は目をつぶってぼんやりと想像する。ヨナと一緒にこの夕焼けを見れたら……。


 風が僕の髪を揺らす。僕は流れるままに身を任せ想像を膨らませていった。

 


——綺麗。


「ああ、そうだね」


——見せたかった景色ってこれのこと?


「うん。僕のお気に入りの場所によく似てる……。本当はあの時に見せたかったんだ」


——あの時はごめんなさい。もう少し早く来れたのに……。


「そんな気に病まないでよ。僕は君に助けられたんだ。……あれがきっかけでもっと君を知ることができた。別れるのは悲しかったけど、それでも本当に君の姿を知ることができて、僕は嬉しかった」


「……綺麗ね」


「君には負けるさ」


「……ふふっ」


 ふと目を開ける。想像していたものが妙にリアルに感じられたからだ。

 隣で聞こえた笑い声、吐息、存在。それらすべてが本当にいるような気がして、僕は隣を向いた。


 そこにいたのは


「こんばんは」


 ヨナだった。


 僕はまたアリアと見間違っているのだと思い、目を思いっきりこする。そのせいで目の前の景色がぼやけてしまう。

 僕は強く目瞬きを何回もしてやっと視力を取り戻した。

 しかし、見える景色は先ほどと変わらない。


 時間が止まってしまったかのように僕の体は硬直してしまう。突然目の前に探し求めた大切な人が現れたら、どんな反応をするのが普通だろうか。大概の人間は僕のように口を開けたまま呆然とするだろう。


 ヨナは独り言のように呟く。


『久しぶりで間違えたかな……「こんばんは」』


 もう一度ギリア語で挨拶をする。その姿すら愛おしい。

 僕は何とか開きっぱなしの口で言う。


「こ、……こんばんは」


 ヨナはようやく返事ができた僕に微笑みかける。

 僕の瞳はもう夕焼けなど映してはいない。それよりも美しいものを見つけてしまったから。

 ヨナは顔を夕焼けの方へ向けて


「こんなところでまた会うと思ってなかった」


 と言う。

 彼女を見ているだけで笑顔がこぼれてしまう。僕は彼女の横顔を見つめたまま言う。


「僕は……君を追ってここまで来たんだ」


 これは一種の愛の告白だ。


「そうなんだ」


 しかし、彼女は夕焼けを見つめたまま、僕の告白を華麗に流す。


 僕は彼女の一挙手一投足に目を奪われていた。

 風に流される髪を抑える仕草、鼻で深呼吸をして吐き出す動作、それだけで僕の心は満たされて行った。

 そして沈黙がこの場所を支配する。それすらも僕は待ち焦がれていた。

 こんな生活を僕はしたかったんだ。こんな日常を彼女と一緒に過ごしたいと思ったんだ。


ここまでご覧いただきありがとうございます。

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