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魔法使いの少女  作者: flathead
第三章 振り向けば影
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第二十一話 白馬の王子様


 ネビルの村では一週間に一回、村長さんの家に数人が集まって会議をします。

 この村に来てからもうすぐ一ヶ月経つ頃、私たちも出席するようにとお達しがきました。

 旅人がこれだけ長い間ネビルの村に留まることは少ないそうで、私たちのことを議題にして話すそうです。

 村を救ったとはいえ、いけないことだったのでしょうか……。


 ヒューゴさんが動けない今、私は代表として村会議に出席することにしました。

 私は村長さんの家を前にして緊張してきます。


 私もアランさんのような交渉術を身につけていれば良かったのですけど、こうなってしまった今、そんなことを考えても仕方ありません。

 私は覚悟を決めて村長さんの家の扉を開けます。


 既に村人の方々は集まっていらしたようで、皆さんが私の方を向いてきます。

 覚悟を決めたはずなのに、私はオロオロと行き場に迷った子犬のようになってしまいました。


「……リゼットさん。こちらへどうぞ」


 村長さんが空いている椅子を指して言います。

 私は緊張で硬くなった身体をなんとか動かして椅子に座りました。


「……」


 村長さんを含め、村人さんたちは全員が揃ったはずなのにずっと黙ったままです。

 私は首を動かさずに周りをキョロキョロと見渡しながら、始まりの言葉を待ちます。

 私たちは一体どうなってしまうんでしょう……。



「リゼットさん」


「ひゃいっ!!」


 村長さんが私に話しかけてきます。

 私は驚いて変な声を出してしまいました。


「……あんたがたがこの村に来てから随分経った」


 ああ、とうとう追い出されてしまうのでしょうか……。

 私はアワアワと慌てることしかできません。


「あんたがたが良かったらなんだが……この村に住まんか?」


 私はパチクリと目瞬きをしました。

 えっと……どう言うことでしょう?

 私は疑問に首を傾げます。


「この村も人手が少なくて困っているんだ。もしあんたがたがここに住んでくれるならば、あの家をあげよう。……どうかな?」


 えっと、これは、つまり……


「私たちを追い出すとか……そう言う話し合いじゃなかったんですか?」


 私はおどおどしながら聞きました。


「とんでもない! 村の英雄を追い出すなんて! それより! この村に住んでくれないか!? ん?」


 村長さんは声を荒げて私に詰め寄ります。

 私は再びアワアワとしながら


「い、今すぐには決められませんし……私一人の一存では……その、決められませんし……」


 私の声はだんだんと小さくなっていきます。


「そう……でしたね。すみません。ちょっといきり立っちゃって。とりあえず、今日のところは持ち帰って、よく考えてくださいな」


 村長さんはそう言って私を家まで送ってくれました。



———————————



 家に着くと緊張感が和らぎます。

 この中にはヒューゴさんがいる。

 彼の近くにいるとなぜか安心するのです。


 私は朝組んでおいた水の入ったバケツをヒューゴさんのいる部屋へ持っていきます。

 扉を開けると窓の外を眺めているヒューゴさんがいました。

 彼は扉が開く音に反応してこちらを向きます。


「よう、リゼット。村の会議はどうだった?」


 彼は怪我をしているのに飄々としています。

 私に心配をかけまいと気丈に振る舞っているのです。

 その姿に私は愛おしさを感じました。


「ええ、なんでもこの村に住まないか、と言う話でした」


 私はバケツを置きながら言います。

 ヒューゴさんは苦笑しながら


「そいつぁ良い。いっそ結婚でもするか?」


 彼はとんでもない冗談を言います。

 それが彼の本音だったらどれほど嬉しいことでしょう。

 私は顔を赤くしながら


「っ! もうっ!」


 と言いながら布を水の入ったバケツの中に突っ込みます。

 何も言い返せないのは悔しいですが、私は今の幸せが崩れてしまうのが怖いのです。

 ヒューゴさんの方をチラリと見ると、また窓の方を向いていました。


「でも、そんな生活も悪くないかもな」


 私はそう呟く彼の横顔を見ると、トクンと心臓が鳴ったのがわかりました。

 私はもう自分を抑えられません。


「ヒューゴさん!」


 私はヒューゴさんの手を握ります。

 そして、彼の目をじっと見つめます。

 彼は私の様子に驚いているようです。


「あ、あ、あの! さ、さっきの! け、け、け……」


 私はしどろもどろになりながら伝えたいことを言おうとします。


「け、け……」


 けれども大事な言葉がどうしてか出てきてくれません。


 するとヒューゴさんは逆の手を私の頬に添えます。

 突然のことに、私はビクッと反応してしまいました。


「リゼット」


 ヒューゴさんは私の言葉になっていないような言葉を遮って言います。


「……結婚しようか?」


 彼は優しい顔で私に語りかけました。

 私はその言葉を聞いた瞬間に涙が溢れ出てきてしまいます。


「…………はいっ」


 短い言葉。

 今度はちゃんと言葉にして、伝えられました。

 泣きじゃくっているとヒューゴさんが優しく抱きしめてくれます。


 胸の火傷が傷むでしょうに、彼は強く、そして優しく包み込んでくれました。



 やっぱり、あなたは私の王子様です。


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