十五
「仙衛門にとっちゃあ、冨急が潰れても、あるいは姪が継いでもどっちでもよかったつうことです。お末さんも気の毒に、なかにいるあいだにもう子供も望めない体になっちまったそうで、どうで玉国屋も再建できない、冨急もこの代限りつう覚悟のようで」
後日、例によって色吉がこの件を歩兵衛に報告していた。晩飯を終え、ふたりとも歩兵衛の座敷でくつろいでいた。多大有も少し離れた壁ぎわに座っている。
「伝吉という子はどうなったかの」
「へい、あのお登世っつうまえの女中がなにやら不穏な空気をいぶかしんで、連れ出してたんで。あきれたことに、お登世が逃げ出すときにいっしょに連れてってたってのに、だれも気づいてなかったらしいんで。ひと月以上もですぜ。平六の弔いなんかでバタバタしてたとはいえ、ひでえ話です。で、太助に鶴藤を、誘拐の罪には問わねえと説得してもらって、上総の親戚の家を聞き出しやして、迎いにいってもらいやした。いまは冨急に戻ってやす」
「伯父の三次郎が面倒を見ることになるのかの」
「いや、それが……」
色吉はここで恐縮し、小鬢をかいた。「三次郎はよく寝てたんで起こさなかったんでやすが、よく眠りすぎてあれから二度と目を覚まさなかったんで。朝見にいったら布団のなかで冷たくなってやした」
「ははあ、気の毒に。では子供は……」
「いま、店は残った番頭道助と女中お圭、それからお民さんが切り盛りしてるんですが、三人で面倒を見ているようでやす。ま、面倒を見るといっても今や冨急ご当主ですが。で、道助って番頭は、一見ちゃらちゃらしてるんですが、話してみると存外まじめなやつでして、しっかりと冨急を回してやす」
色吉は茶をひとくち飲んだ。
「そうそう、先代の仙衛門とその妻お了ですが、倉から出してもとの部屋に戻したんですが、すぐにふたりとも行方知れずになって、先代のほうは二、三日あとに大川で土左衛門にあがりました。お了のほうは見つかってやせん。仙衛門さん……いや、玉国屋次郎の言ってたことが本当になりやした」
「仙衛門さん、いろいろの気の毒な事情についちゃあわかりやしたが、関係のねえお民さんを巻き込んで殺めようとしたことは許せるこっちゃねえです」
色吉がそう言うと、それまでむしろ快活といっていいくらいに犯行について話していたさしもの仙衛門もうなだれたのだった。
「まったく、自分でもなぜあんなことをしたのか……わたしも長いことこの家にいて、先代夫妻やお延に毒されていたのかもしれません」
黙って話を聞く一方だったお末も、このときはいっしょに頭をさげた。
思いだしたように色吉が言った。
「玉国屋次郎とその姪のお末には自首してもらいやした。とっかかりが宇井野の旦那なんで、あっしが絡んでるとなるとまたどんだけ文句言われることやらわからねえですから」
「うん。それがよいだろうねえ」
仙衛門は別れ際、色吉にこう言った。
「ところでわたしは、冨急仙衛門としてではなく、玉国屋次郎として死にとうございます」
〈了〉




