七
今日は朝から一日、衣坂屋のことをいろいろとかぎまわり、だいぶ収穫があった。
昨晩の歩兵衛の話では、まさかりの丁次郎という男を頭目とする強盗団が当時ご府内を騒がせていたのだが、十八年前の大火事のあとまったく出なくなった。一味は皆、あるいは少なくとも中心のやつらが焼け死んだのではないかと言われていた。
しかしこの丁次郎とその腹心たちの年齢が、当衛門や手代たちのそれと符合するのが気になると歩兵衛は言うのだ。
火事のあとに衣坂屋からつきあいを絶たれた店などがけっこうあって、色吉はそのいくつかを回った。そして火事の前後で当衛門の歩き方が変わったことや、声が変わったという証言を得た。本人は背中に怪我をしたせいだとか、煙を吸い込んだためだとか言い訳をしているのだが。
また手代にしても、いまでこそずいぶんおとなしくなったが、当初は以前の当衛門ならばいかに人手不足といえど雇いそうもない乱暴なものたちだったという。
こりゃあご隠居のご懸念は当たってそうだぜ、などと考えながら色吉が日本橋の大通りを歩いていると、ちょうど向こうから歩いてくる留緒と行き会った。そろそろ日も落ちて、あたりが夕焼けからだんだんと薄暗くなりつつある頃だった。通りを行く人たちの足も、家路を急ぐように早くなっている。
「よう、留緒ちゃん、お使いかい?」
留緒は一瞬ぱっとうれしそうな表情をしたが、すぐに舌を出してきた。
「べー」
そして色吉とすれ違うと、早足で行ってしまった。
「なんだありゃ」
色吉はあっけにとられたが、そういえばここはあの衣坂屋の近く、留緒はきのうの晩のことを思い出して腹を立てたのだろう。
「フフッ」
色吉はひとつ笑い、歩きだしたが、しかしこうなると今度は衣坂屋が気になってきた。
これから集めた話を歩兵衛に報告し、明日からのことを相談しようと考えていたのだが……。ちいと様子だけでも見ていくとするか。
足をすぐ目と鼻の先で活気にあふれた大店に向ける。
「ちょっと色吉さん、どこいくんだい」
「うわびっくりしたおどかすない。おめえ、行ったんじゃなかったのかよ」
留緒はそれには答えず、「どうせお紀有ちゃんのとこでしょう。なんだか色吉さん、お紀有ちゃんに肩入れしすぎなんだよね」
「待て待て待て、そもそもおめえさんがお紀有の相談に乗ってやってくれって言いだしたんだろうが」
「まあっ、お紀有だなんて、呼び捨てにして、いやらしい」
「ちぇ、どっちだっていいじゃねえかそんなの。とにかくおれぁもう行くぜ」
「あたしも行きますからね」
「理縫ちゃんはどうするんだよ。留緒ちゃんが遊んでくれるのを待ってるんだろう」
「なあに、また怖い話のひとつふたつしてやれば、向こうから逃げてくよ」
「鬼かおまえは。しかもつうこたあ昨日はやっぱりとぼけるんじゃねえよ」
「言葉のつながりがなんだか変だよ、色吉さん」
「おめえの悪っぷりに動揺したんだよ! しっ、静かにしろい」
留緒はあきれ顔をした。「なんだよ、騒いでたのは――」
色吉さんのほうじゃないか、と言おうとしたが、頭を抱えられ手のひらで口をふさがれた。
そのときふたりは衣坂屋の裏口につながる裏道に入っていたのだが、自分たちの行き先に先客がいたのだ。
「ありゃ、下男の千吉じゃねえか。なんでこんなとっから自分の店ぇうかがってやがる」
下男なので出入りを裏からやるのは当然なのだろうが、忙しい時間だろうに外から店の反対側の居住部分をうかがっているのがうさんくさい。しかも横に袖頭巾の女が立っている。立ち姿――体格と姿勢――から見て若い女のようだ。
と、女のほうが木戸を開けてくぐっていった。千吉は予想していなかったのか慌てた様子でついていく。
色吉がどうしたものかと思案していると、留緒がてけてけと小走りに木戸に近づいていった。そのまま開け放しになっていた隙間をくぐる。色吉は予想していなかったので慌ててついていった。




