七
色吉はもうちょっと与太助とその一味を探ってみることにして、羽生邸を出た。
家を出で歩きだした色吉を、物陰からうかがっていた影が追い始めた。そのうしろからもまた影がついていく。ふたつの影は用心のためかときどき入れ替わりながら色吉のあとをつける。
昨日、太助が一日いたという旗本屋敷に行ってみる。こないだの青山百人町といい、縄張りから離れたへんに妙に因縁があるものだ。
外から見る限り、田尻様の屋敷は中程度の規模といったところだ。通用門の戸を叩くと、上方の覗き窓が開き、二つの目がにらんでくる。この向こうに中間部屋があるのだ。もともとは屋敷の警護のために中間たちの住まう部屋だが、博奕場となっているところもしばしばだ。
「あやしいもんじゃござんせん。太助ってやつに聞いてめえりやした。ちいと遊ばしてやってくんなせい」
言いながら色吉はしまったと思っていた。同伴でなければ厳しいかもしれない。太助、いやそれよりも御しやすそうな卒太か根吉を連れてくればよかった。
「山」
中間部屋の男が言った。色吉はわけがわからず戸惑ったが、
「え、ええと、川」
しかしわけのわからないまま、とっさにそう答えてしまった。するとがらりと戸が開いて、いかつい男が顔を出した。
「よし、入れ」
男の案内に従い短い廊下をいくと大部屋だ。壺振りをざっと三十人からの男が取り囲んでいる。
「昨日、太助の野郎に約束をすっぽかされやしてね。野郎、すっかり忘れてここに一ん日、卒太と根吉も一緒にいた、ってやがるんですが、間違いねえでしょうか」
案内してくれた折助に訊いてみる。
「山」
「え? あ、か、川」
「うむ、確かにここにいた。昨日の朝四つ位から昼も夜も、さらに一晩中いて六つ前にやっと帰った」
「ありがとうごぜえやす」
「山」
「か、川」
「やつはどうしようもないろくでなしだが、金離れはきれいだ。だからここでは割と好かれておる」
色吉は適当に遊んで負けた。帰り際にさきほどの折助が玄関の張り番をしていたので辞儀をした。
「山」
「川」
折助と色吉は、顔を見合わせうなずいた。
さて、次はどうするか。田尻屋敷を出て歩きながら色吉は考える。簾蔵の家にでも回ってみるか。
ここらへんは屋敷町で、大名屋敷、旗本屋敷のすなわち武家屋敷と寺社が多く建ち並び、ところどころまとまって田畑が拡がっている。人通りもなく、寂しい場所だった。
坂道をぶらぶらと歩いていた色吉は、ふと立ち止まってそこにあった階段を見あげた。金龍山飯筒寺と看板が掲げられ、二十段ばかり登った高いところに境内があるようだ。色吉は階段をひょいひょいとあがっていき、すぐに通りからは見えなくなった。
色吉をつけていたふたつの影が階段のしたにやってきた。ふたりは顔を見合わせ、なにやらぼそぼそと相談していたが、結局いっしょに階段を登っていった。




