四
「色吉さん、水も滴るいい男、って洒落なのそれ?」
留緒が言った。
「みずもしたたたたた……なの?」
理縫も言った。色吉が羽生邸の裏の戸をくぐったとき二人は庭で、なにやら色吉にはわからない踊りを踊って遊んでいたのだ。
「おう、がきの癖にしゃれた言い回しを知ってるじゃねえか。なに、もう半分乾いた」
「洗っとくよ、置いといて」
「あらとくよ」
「とんでもねえ、いいよ、そこまでしてもらうこたあねえ」
「いま理縫ちゃんが洗濯を覚えたがってるのさ、だからその練習にね。旦那様やご隠居様の服じゃあ怖いなと思ってたから、ちょうどよかったのさ」
「……おう、そうかい。じゃ頼むとするか」
雨に降られたときのために、色吉は羽生の家に服を置かせてもらっている。それに着替えたのち歩兵衛の部屋に行くと、夕餉のしたくが整っていた。色吉の分もだ。
「多大有は食事をせんから待つこともないじゃろう」
と、歩兵衛が言った。
色吉は恐縮しつつ、食べながら歩兵衛にいまさっきの件を報告した。
「ふむ。命まで狙ったとも思えんの。色吉殿が泳げたら川に落ちたところで助かるだろうし、泳げなくても誰かに助けられるかもしれん。実のところそうなったわけだしの。昨夜のことも考えると、怪我くらいはさせるつもりだったかもしれんが」
「あるいは、警告つうことかもしれやせん」
「というと」
「つまり、あっしが旦那の供から身を引け、と」
「ふむ。色吉殿は太助を疑っておるわけじゃな」
「へえ、いまんとこ思い当たる節といやあ、そんくれえで」
「まあそこらへん、おいおい確かめるとしようよ」
折よくそこに、多大有が帰ってきた。




