昼ごはんを食べる必要性を感じない
声劇用の台本です。
男女比は、0:2となります。
よかったら遠慮なく使ってください。
学校の教室。お昼休みも終わりかけの時間帯。
自分の席で文庫本を読む清水のところに、森田が近づく。
森田 「お昼ご飯、食べないの?」
清水 「え? あ、うん」
森田 「清水さんっていつもそうだよね。一緒のクラスになってまだひと月たってないけど、清水さんが何か食べてるとこ、見たことない気もするし。なんでなの? そういう趣味の人とか?」
清水 「昼ご飯を食べる必要性を感じないから」
森田 「それって、家が貧乏だからってわけじゃなくて?」
清水 「森田さんってそういうこと、はっきり言うんだね」
森田 「あ、ごめん。不快だったら謝るよ」
清水 「別にいいけど。まあ、そういう理由もゼロじゃないかもしれないかな。ずっとボロアパート暮らしだしね、うち。でも昼ご飯にかんしては、ほんとに必要ないって思ってるの」
森田 「そっかー、お腹空かないの?」
清水 「空くよ」
森田 「なのに食べないんだ?」
清水 「けっこう慣れるもんだよ、空腹って。まあ、そもそも人前で食事をとること自体が苦手というか、ほかの人がご飯食べてるとこも、正直見たくないって思うし。ひょっとしたら、そのへんはお母さんの影響が大きいのかもしれないけど」
森田 「そうなの?」
清水 「うちのお母さんね、ご飯を食べることを摂餌って呼んだりするような人だったの」
森田 「せつじ……?」
清水 「餌を摂ると書いて、摂餌ね。ものを食べる行為が動物的だからとかどうとか言ってね……変わった人だったなあ」
森田 「なんで過去形なの?」
清水 「家、出てっちゃったから。私が小学生のときに」
森田 「そうなんだ」
清水 「うん」
森田 「寂しくないの?」
清水 「寂しいよ。でも、どんなに寂しいと思っても泣き叫んでも、帰ってこないものは帰ってこないってことがわかったから、だからもうあきらめてる」
森田 「そっか……強いね、清水さんって。私だったら、お母さんがいなくなるとか想像すらできないもん」
清水 「強くなった……のかな。強くないとやってけないと思った」
森田 「朝もご飯食べないの?」
清水 「あれ……話、微妙に戻ってる?」
森田 「え、戻さないほうがよかった?」
清水 「ううん、いいよ。気にしないから、そういうの」
森田 「気にしないけど、一応、指摘はするんだ?」
清水 「(笑)うん、する」
森田 「清水さんらしいね、そういうとこ」
清水 「そう?」
森田 「(笑)ごめん、今のはわりと適当に言った」
清水 「そっか(笑)朝はね、いつも玉子焼きを作って食べてるよ」
森田 「自分で作るの? 偉いなあ。私なんかフライパンすら重くて持てないのに」
清水 「別に偉くないよ。卵を炒めるだけだもん」
森田 「卵だけ?」
清水 「うん」
森田 「それだけで足りるの? 量的に、もっと食べたいってならない?」
清水 「けっこう足りるよ。腹持ちいいしね。たんぱく質は偉大だよ」
森田 「そうなんだ。私も試してみよっかな。痩せたいし」
清水 「十分痩せてると思うけど」
森田 「もっと痩せたいの。んで、胸を小さくしたい」
清水 「小さくしたいの?」
森田 「私、今ね、じつは好きな人がいるんだけど、その人が貧乳フェチっていう極秘情報を最近裏ルートから入手しちゃってさ」
清水 「え、森田さんの好きな人って誰?」
森田 「それは秘密」
清水 「えー、気になるなあ」
森田 「ほんとはちっとも興味ないくせに。私が誰を好きかとか」
清水 「そんなことないよ。ちょっとは気になるよ」
森田 「ちょっとかよ」
清水 「うん。でも、頑張ってね」
森田 「うん、超頑張る」
清水 「応援はしないけど、静かに見守ってるよ」
森田 「いやいや、どうせなら応援してよ」
清水 「(笑)わかった、そうする」
森田 「でもさ、お昼ご飯を食べる必要がないからって理由で食べない人、はじめて見たかも」
清水 「変なやつだなって思った?」
森田 「ううん。ていうより、なんか斬新。お昼を食べる食べないのって個人の自由だし、それだけで変だとは思わないよ」
清水 「そっか」
森田 「ヒントその1。私の好きな人はねー、絵を描くのがとーっても得意なんだよねえ」
清水 「(笑)話、戻ってる?」