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神代の光  作者: 千原樹 宇宙
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神代の風



                     神代の風




                                作者 千原樹 宇宙




                    



 宮城県多賀城市は史跡や出土品の宝庫。多賀城政庁が在った館前遺跡周辺では発掘調査が年を跨いで行われている地域。


 多賀城は724年に創建され、陸奥国府むつこくふ鎮守府ちんじゅふが置かれた古代国家による東北支配の要衝でした。城内の中央には政庁がありました。平城宮跡、大宰府跡とともに日本三大史跡の一つに数えられています。 


 多賀城碑が古の昔から有名で、奈良時代の古碑。碑面には141文字が刻まれており、多賀城の創建や修造について記されています。歌枕の「壺碑つぼのいしぶみ」とも呼ばれ、松尾芭蕉が訪れ碑と対面した感激を「おくのほそ道」に書き残しています。「壺の碑」つぼのいしぶみと読む。「壺の碑」とは、坂上田村麿が大きな石の表面に、矢の矢尻で文字を書いたとされる石碑で、歌枕でもある。(ウイキペディア抜粋)


 そんな有名な「多賀城碑」を見に行こうと誘われ、同じ専修を選択した釜本 まなぶ君の運転する車で、多賀城碑にやってきたのは、仙台西北教育大学に入学した慌ただしい4月を乗り越え、なんとか大学生活にも少しずつ慣れて落ち着きを取り戻した、快晴の6月4日の日曜日だった。同じ専修を選択した柿崎 恵果さんと倉田 沙也加さんの4人での「多賀城行」から始まった仲良し関係は、卒業するまで続いてきた。釜本君は、私達に「恋の告白」はしたことは一度も無い。釜本君は、女性を求めて下心で仲間関係を続けるというような人間では無いし、どちらかと言うと、いつもひょうひょうとしていて、物事に拘らないし、無頓着だし、意外と適当で孤独が好きな人間でもあるように見えていたけど、果たしてそれが正しいのか間違っているのかは、現在でも分からない。


・・・・ならどうして私達女性3人と?・・・・


という疑問は、最初の頃は、私達三人の共通認識だった。


「釜本君の目的は女」


という疑いは3人共通の認識だった。でも、その疑いは1年生の夏休みが終わって大学に戻った時には、心のどこにも無くなっていた。だから自然に、大学の授業の合間に、いつもの場所に4人が集まる関係が出来上がっていた。そして11月頃、お正月明け、4人で山形蔵王スキー場に行く計画を釜本君は提案してきた。もちろん運転は釜本君で、日帰り。だって山形蔵王スキー場まで仙台からだと2時間以内で到着する距離なの。


 スキーは、子供の時からやっていたから困らなかったけど、恵ちゃんと紗也ちゃんは、一度も滑ったことが無いって、大騒ぎ。スキーをするということは、道具を用意しなければならない。スキー板にストック、靴、手袋に、スキーウエアー帽子、サングラスやゴーグルとか他色々。でも、恵ちゃんと沙也ちゃんは、お金持ちのお嬢様。お金に困ったことが無いらしい。初めて知ったけど、釜本君のスキーは本格的だった。釜本君は、青森県、青森市出身。釜本君は、紗也・恵ちゃん初心者コンビの指導をした後、


「4人で上に登るぞ」と昼食時に提案してきた。

「えっ無理、私達、滑れない」と紗也ちゃんと恵ちゃんは口々に言ったわ。そんな二人の抗議に耳を貸そうともしないで、

「頂上が一番綺麗なんだぞ・・有名な樹氷見ないと折角来たかいが無いよ、皆で一緒に行こう」と平気な顔している釜本君。


そんな釜本君の顔を、じっと見詰める二人は、

「えぇぇーー絶対無理」

「無理よ、無理、無理を通せば通りが引っ込むわ」とか言い出す。

「なに分けの分からんこと言ってんだ、蔵王なんだぞここは」

「私達下で滑ってるから、典ちゃんと行って」と言い出した恵ちゃん。


だから、私は、

「樹氷を滑ろうよ、今日は、晴れてるし最高よ、一緒に行こう」と誘ったら、

「そうよ、一緒に降りるから心配すんな、最後まで捨てたりしないからはははははは~~~」と豪快に笑った釜本君。とかで、結局、4人はロープウエイで頂上に降り立った。お天気は、全くの快晴。頂上は、流石に風があり、気温は低い。気温の低さに舞い踊る雪片が、日の光に輝いている。


「うわっ・・凄んげええーーー見ろぉー凄い景色だろ・・さぁ~樹氷を見ながら滑るぜ」

「ほんと来て良かったぁぁーーこんなに綺麗だと思わなかった・・」

「沙也加感動ぉぉーー釜本君、絶対見捨てないでね」

「そうよ、さっさと滑って消えたら友情もこれまでよ」

「裏切らないでね、裏切ったら100年恨んでやるわ」とか、完全に脅かししている二人を、ニヤニヤ笑いながら見ている釜本君を、私も、じっと見詰めていた。


・・・・ホント・・キレイ・・・来て良かったあぁーー・・・・


快晴だから、遠くの遠くまで見える気がした。雪に覆われた樹木に冷たい風が襲う。そして出来上がるのが、通称「海老の尻尾」樹氷である。釜本君は、沙耶ちゃんと恵ちゃんを指導しながら下へ下へと下っていく。蔵王の一番高いゲレンデから中腹まで下りて来た頃には、恵ちゃんと紗也ちゃん達は、釜本君の最初の指導が良かったらしく、スキー板を逆Vの字形を何が何でも崩さず、ロープウエイの乗り場があるゲレンデを慎重に滑り下っていく。私は、ゆったりと3人の後ろを滑って下りていた。


中腹のゲレンデで、釜本君は、恵ちゃんと沙耶ちゃんの後は追わずに、私下りてくるのを待っていた。

私が傍に滑り止まると、

「結構、上手だわぁ~あの二人・・はははは~~」

「へっぴり腰がなんとも言えんなぁ~・・」

「おおおお~~~何が何でも八の字走行・・ははははは~~~」とか好きなように言っていた釜本君。


だから、あっ私の名前は、「旗 典子」盛岡出身、この物語の主人公、以後宜しくお願い致します。


 スキーは、子供の時から、安比高原スキー場で滑っていたからスキーには、ちょっと自信が有ったけど、自信なんか木っ端微塵に吹き飛ばされてしまって、完全に釜本君には負けました。釜本君の後ろを滑っていたけど、後を付いて行けなかった。大滑降のように滑って行ったわ。全然スピードを落とさず、スキー場のコース幅を目一杯に広く使って滑るって難しい技術。相当な上級者だと気付かされました。


・・・・うわっ速っ・・す・凄いいいいぃぃぃーーー・・・・


 あっという間に滑り降りる釜本君の後姿を追いかけながら、スキーに誘うだけの事はあると思ってしまった。北国青森出身の釜本君のスキー技術は、上級者プロ級だと思った。

 そんな私達は、あの蔵王スキー行から、冬にはスキーが定番となった。二年生の冬には、釜本君の地元青森にある八甲田スキー場で滑る事になる。八甲田スキー場は、整備されていない半端ないデコボコだらけの山岳モーグルスキー場、平らな場所など一つもない山スキー。

 ロープウエィで登って降りてくる上級者向けコース。初心者なら間違いなく、スキーを脱ぎ捨て担いで降りる事になる難解コース。泣いて怒りながら担いで降りる人間を初めて見たわ。林間コースを滑り降りと、途中から平らなゲレンデスキー場が広がる。そして、毎年、行方不明者が出るコースでもある。山スキーの怖さは、樹木の間を滑る時に、雪穴に落ちてしまうこと。落とし穴のようになっているから、上級者でも、注意が必要。命をかけてまで滑るスポーツでは無い。圧縮されたゲレンデスキーが、安全よ。


 女性3人に男性一人の関係は、卒業してからも続くことになる。


卒業してから就職は、学校の教師という選択はしなかった。就職したのは、大手出版社「無限軌道+α」という会社だった。「無限軌道+α」社という名前の意味は、人間の思考は無限で有り、人間は千差万別で人間の歩む道は、無限軌道であり同じ道を歩いても人間の選択は百人百様、そして決して諦めずに+αを追い求めるという理由なんだそうだと教えられたが、入社したての私には、今一つ理解できていなかった。


何故、教師にならずに出版社を選択したのか?


この決断には、両親が猛反対したのは言うまでもない。あれは大学2年生の夏休みに、

「おい、皆で青森に遊びに来ないか?」と私達が集まるいつもの場所に、やってきた釜本君が言い出した。

「あ・青森って・・釜本君の実家がある青森市よね」

「うん、青森県を案内するよ、十和田湖とかさ、奥入瀬渓流とかさ」と相変わらずひょうひょうと言う釜本君。


「そうね、十和田湖・か・・・う~~んどうしよ」恵ちゃんの視線が、定まらない。考え事をしている時とか、迷っている時の視線、分かりやすい

「新幹線に乗って3時間で着くよ青森に、是非遊びに来て欲しいんだ、」

「なにかあるん?」紗也ちゃんの言い方は、独特。

「在るんだ・・」

「何よそれ?」恵ちゃんは、普通の言い方をするけど、たまに北海道弁が出る時もある。北海道札幌出身。

「今は言えないんだ・・実は、これまで世の中に出てはいない物なんだ」声を低く抑えて言っている。

「な・なにそれ、蔵の中に入ってるん?」紗也ちゃんは、興味在る表情をし始めている。

「俺の実家はさ、言って無かったけど、神社を運営してるんだ?」この時ばかりは、実に、困った表情見せていた気がする。


「えっ、じ・神社、神社なの?」


・・・・か・釜本君の御実家が・・神社・・ですか・・・・


「うん、俺の実家は、歴史の古い神社なんだ、親父も気が付かなかったそうなんだ・・」言いにくそうだ。

「なに、それってなに?」恵ちゃんも興味を持ったらしい。

「今は言えないんだ、青森に来たら実物を見せてあげるよ」

「教えてくれないと行かないよん・・ねっ釜本君さ」又、いつもの脅かしが始まった。いつも釜本君は、脅かされているけど、全然平気な表情をしているのがいつもの釜本君。

「実はさ、古事記よりも古い写本が出てきたんだ、」

「こ・古事記よりも古いってどいう意味よ」恵ちゃんが、知識を引き出しから引っ張り出し始めたようだ。

「ほら、偽書だと断定された東日流外三郡誌のような写本なんだ・・」

「つ・東日流外三郡誌って・・確か偽書だって断定されたんでしょ、なんかのニュースで見たわよん」沙也ちゃんも知識を引き出し始めたようだ。

「その写本って、なんの写本なの?」

「それが表題には、釜本家古伝と書かれてあるんだ、この前実家に帰って見たんだけど、書いてある内容がさ、通説とはかけ離れてるし・・書いてある文字がさ、神代文字と並列的に書いてあるんだよ」

「ど・どういう意味なん?」

「日本語で書かれた行の下にさ、通称言われている神代文字が書かれてあるんだ」

「じ・神代文字・・って・・偽物でしょ・・」漠然とした不安が心に芽ばえる。

「おっそろそろ時間だ、後にしよう」釜本君は、そう言うとくるりと背を向けて教室に戻って行ったから、私達も後をついて行く。


 それから、私達は話し合って、青森に行くことに決めたわ。夏休みは長いから、3日間の予定で行くことにしたの。この神代文字の出現が、私の人生を大きく変えた事件となるなんて、この時点では全く知りもしなかった。何故、出版社なのかの答えは、古史古伝関係やペトログリフに関する本を出版している作家の田所 がくという人間と大学時代に知り合ったからで、随分と様々な事を教えて頂いた。

田所氏は、本の出版を「無限軌道+α」社に決めており、他社出版社と浮気することはないという事を言っていた事が、就職を決めた一因でもある。田所氏との出版に関する仕事は、私には、殊の外魅力がある。と言っても、恋愛感情が有ったわけではない。恋愛するには、お歳が離れすぎているし、氏には、愛妻がおられるし、子供さんも成人している幸せな生活を送られている家庭に波乱を持ち込むことはできるはずもない。先生の出版している本は、全て読んでいる。


日本国の歴史は、造られた歴史である。では、誰が造ったのか、何故、という疑問が当然出てくる。


「記紀」以前の日本国には、「文字」が無かったという事に、何故、してしまったのか?

(記紀とは、古事記と日本書紀の事)


その答を、なんとしても知りたいと思い始めたきっかけになった青森行は、記憶に残るものだった。


青森へは仙台から車で行くことにしたのは、釜本君の提案だった。岩手県西根で東北道を降りて、秋田県道282号線で秋田県に向かう。目的は、鹿角市大湯に在る、縄文大湯環状列石だった。大湯環状列石という記憶は、引き出しの何処かに有ったけど、まさか、本当に見るとは思ってもいなかったわ。高校時代まで盛岡に住んでいても、秋田県まで行ったことが無かったし、高校生の私には、環状列石など興味も無かったのは事実。


 車は順調に走っていた。


「釜本君疲れたでしょ、」私は、3時間以上運転していた釜本君を労う。

「はははは~~大丈夫だよ、そろそろ万座遺跡に着くよ」

「万座ってなに?」

「知らないの、鹿角市大湯に在る万座大湯環状列石のことだよ」

「あっそっかっ~万座ね」

「お~~~し・・到着したぞ、ここがそうだよ」


 車は、大湯ストーンサークル館の広い駐車場に静かに入って一番前の場所に駐車した。


「さぁ~降りよう」

「は~~い、おトイレにも行きたいし・・」紗也ちゃんが勢い良く後部ドアーを開けて、降りる。

続いて私達は、車から降りて、目の前の建物目指して歩きだして行く。


建物内部は広かった。


・・・・へぇ~ここが大湯環状列石が在る所なのね・・・・


盛岡に住んで居ながら一度も来たことが無かった。高校生には、遠すぎる。あまり遺跡にも興味が無かったから仕方がないけど。車を降りた途端に感じた事は、


・・・・ひ・広いわぁ~・・・・


だった。もっとこぢんまりと纏まっているものだと思ってたけど、ほんと広さが際立っている。


女性陣のおトイレ時間が終わるのを待っていた釜本君が、

「おし、外に出るよ、ついて来て」と私達に声をかけると、歩きだす。

「ねぇ~釜本君さ、パンフレット貰って来るわ・・」私が言うと、

「ほらここに在る、一冊500円するからさ、回し読みだぞ」すかさず言う釜本君。

「ご・500円もするの、無料じゃないんだ」

「普通無料のような気がするけど・・」

「さぁ~・・出よう・・」


私達は、ルートに従って歩き出す。太陽は、真上にある。外は、やはり北国とはいえ、暑かった。


「大湯環状列石ってどのくらい前の遺跡なの?」恵ちゃんが口にすると、

「え~~と・・・あっここだ・・読むぞ・・大湯環状列石は、野中堂環状列石と万座環状列石の二つの環状列石を主体とする配石遺跡だ。国の特別史跡にも指定されている、約4000年前の縄文時代後期の重要な史跡である。石を二重の同心円状に並べた構造をしており、野中堂環状列石は直径44メートル、万座環状列石は直径52メートルと日本最大級だ。だそうだよ」釜本君は、歩きながら読み上げる。

「よ・4000年前って・・かなり昔じゃない・・それにしても広いわねぇ~こんなに広いって何のためにストーンサークル造ったのかしら縄文人は?」不意に湧き上がった疑問を口にすると、

「典ちゃん、どうやらこの場所は、お墓だったみたいだよ、縄文人の聖地だって」釜本君が、私に答えた。


・・・・は・墓・・なの・・ここ・・・・


「ふぅ~~ん、お墓の場所か・・お墓にしてもかなり広いわねぇ~・・この辺りに相当な人数が住んでいたってことね・・」恵ちゃんが言った言葉に応ずるように、

「青森県に在る三内丸山遺跡って知ってるでしょ」釜本君が尋ねる。

「知ってるぅー有名な遺跡でしょ三内丸山遺跡ってさ・」


・・・・さ・三内丸山・・か・・・テレビで見たことあったわね・・・・


「三内には、相当な人数が何千年か知らないけどさ、相当長い期間住んでいたって分かってるんだよ、それにどうやら北海道のアイヌ人達との交流もあったらしいんだって」釜本君が振り向いて得意そうに言う。

「何、釜本君、縄文時代が好きなん?」沙也ちゃんが、ニヤニヤしている。

「うん、実は大好きなんだよ縄文とかさ・へへへへ~~なんかさ夢があるだろ」照れながら声に出した表情は嬉しそう。


・・・・ふ~~ん・・照れてる・・変な奴・・・縄文時代ですか・・・・


 まさかこの私も、縄文時代にどっぷりと頭の天辺まで嵌まるとは、この時点では全く考えてもいなかった。

大湯ストーンサークルは有名かも知れないけど、決められた道を歩きながら見たけれども、それほどこれと言って感動は覚えなかったのは確か。紗也ちゃんも恵ちゃんも、興味がなさそうに見ていたようだ。


 車は、大湯環状列石を後にして、十和田湖を目指して狭い道路を山登りをしていく途中だった。大湯環状列石を見た後で、十和田湖を目指す途中に日本蕎麦店があったので、

釜本君が、

「おっ、蕎麦屋があるぞ、腹も空いたし、皆で腹拵えしよう」と入った蕎麦店だったけど、不味くはないものの、美味しくも無かった。


「さっき食べたお蕎麦屋さんって、可もなく不可もなかったわね」ぼそっと口に出すとすかさず、

「典ちゃんは、お蕎麦には煩いんだもんねぇ~うふふふ」恵ちゃんの声が後部座席から聞こえてくる。

「う・煩いわけじゃないけどぉー、鰹の味がしない蕎麦汁って愛のない男女関係みたいでしょ・・」

「キャッアッ・・な・何その喩えって・・意味わかんな~~い・・あははは~」後ろで紗也ちゃんが大きな声を出して笑ってる。

「ふ~~ん典ちゃんの御実家はサラリーマンそれとも農業とか商売とか・・」釜本君には、言っていなかった。

「あれぇ~釜本君知らなかったの、典ちゃんの御実家は、盛岡でも有名なお蕎麦屋さんなのよ」恵ちゃんが言ってしまった。


・・・・あ~~もう~口が軽いぃぃぃーーー・・・・


「そ・そうか、お蕎麦屋さんなのか・・初めて知ったよ、今度食べに行くよ」運転している釜本君は、真っ直ぐに前だけを見詰めている。完全に夏色に変化した樹木は、緑が濃すぎる。クーラー入れてるから、外の声はあまり聞こえない。多分、外に出れば、蝉しぐれに包まれるだろう。


他愛もない会話を続けながら、山越えの曲がりくねった道路を上がり終えると、一瞬だけ、青い湖が目に飛び込んできた。

「キャッアッ・・十和田湖・・十和田湖よ」

「十和田湖が見えたよ・・」

「はははは~~大分走って来たから、休み屋に着いたら一服しよ」

「は~~い」

「おトイレに行きたいぃぃーー」紗也ちゃん。

「少し下ると十和田湖だから、我慢して」

「は~~い・・」

「津軽弁では、おしっこのこと、おしっこでかいって言うんだ」


・・・・そうか・・青森市って・・津軽だもんね・・・津軽弁・・か・・・・


「で・でかいって・・なに?」

「ははは~~一杯って意味さ」


他愛のない会話こそ場を保たせる秘訣。人生って無駄話で出来ているんだと近頃思ってる。構内で集まるいつもの場所では、それこそ無駄話の繰り返しを飽きることなくしている。朝から寝るまで、真面目できつい会話なんかしてた日にゃ、過労死してしまうに違いない。無駄話こそ人間間の潤滑油。


 十和田湖は、夏に染まっていた。湖はどこまでも青く、空の青さを写している。遠くに見える山々の木々の葉も道路沿いの葉も、濃さが増した深い青緑色に染まり夏風に揺れている。十和田湖の観光地である休屋には、旅館やホテルなど多くあり、遊覧船の船着き場がある、休み屋で少し休憩をしたけど、

「行くよ、これから青森まで二時間弱だから、出よう」と釜本君は、私達を促した。

「そうね行きましょう」

「帰りに奥入瀬渓流見ていくからね」

「奥入瀬渓流って?」

「あら紗也ちゃん知らなかったの、日本でも有名な渓流よ?」恵ちゃん。

「知らなかったわ、」

「まっ良いからさ、帰り奥入瀬渓流沿いを走るから、車から見えるよ、さぁ~乗って」釜本君が急がせる。


 車は、子ノ口目指して走り出した。


「十和田湖って綺麗ね・・」沙耶ちゃん。

「本当だわ、なまら綺麗だわ・・」低い声で恵ちゃんの札幌弁が出た。

「全身が薄緑に染まってしまうような春の新緑・・赤や黄色に彩られる秋の紅葉・・青森は自然の宝庫だよ」前を見つめる釜本君。


 車は、あっという間に、子ノ口に着く。


「ここから十和田湖とさよならだぞ、これから奥入瀬渓流が始まるけど夏休みで混んでるし、道が狭いから何かに掴まって」

「はい・・」

「運転気を付けてね・・」

「はははは任せなさーー任せなさい」


・・・・兎に角・・・この自信はどこから来るだろう・・・・


車は、樹木の中に突入していく。

「うわぁ~観光客歩いてるわね~」

「あ~~これが渓流ね・・歩きながら見れれば最高だわね」紗也ちゃん。


・・・・なるほどねぇ~・・水の流れが素敵・・・歩いてみたい・・けど・・・・


 私達の車の前には3台の大型観光バスがゆっくりと慎重に走っている。のろのろと走るしかない奥入瀬渓流沿いの道幅の狭い舗装道路。所々に大岩が突きでているし、樹木も道路にはみ出している。大渋滞とまでは混んではいなかったけれども、時速は40㎞ なんか出せなかった。

「辛抱するしかないけど、石ケ戸過ぎると混まなくなるから我慢して」釜本君もイライラしている。

「良いよぉー気ぃ使わないで、そんな退屈じゃないから大丈夫よ」紗也ちゃんが返す。

「そうよ、大丈夫よ、それにしても奥入瀬渓流って樹木のトンネルだわね、流れがとても良いわ」私が、窓の外を見つめながら言うと、

「新緑の時は、ホント青く染まりそうって思えるくらい薄緑の若葉のトンネルになるんだ」説明する釜本君。

「釜本君、毎年来るのここへ」私が訊くと、

「毎年なんか無理だけど、青森県民にとっては、十和田湖はデートコースナンバー1なんだ、彼女が出来れば必ず来るエリアさ・・」と、故郷自慢。

「釜本君、彼女と来たことあるん?」後部座席の紗也ちゃんが言うと、

「あるわけないよ・・彼女いない歴は19年だ、自慢じゃないけどははははは~~~」と何故か威張っている。

「へぇ~~彼女いないんだぁー釜本君は」

「いないよ自慢じゃないけど・・」またまた得意そうに言ったものだから、

「自慢するようなことでもないんですけど・・か・ま・も・と君」

「そうよもてない男って・・なんだかな~うふふふ~~」恵ちゃんがアヤをつけるように返した。


・・・・ふ~~ん彼女いなかったんだ・・釜本君・・・・


 車は、石ケ戸過ぎると、言った通りにスピードを上げて走り出した。そして、橋を渡り左折した。右に曲がれば十和田市方面と標識に書いていた。


「さぁ~奥入瀬渓流の次は、山越えだ」

「や・山越えって?」

「八甲田連峰の麓を青森目指して走るルートだよ」車は、どんどん走り出す。

「釜本君の御実家は青森市内なの?」

「市内だけど、市中心部じゃなく、この山越えの道路を下りた辺りなんだ・・」

「ふ~~ん、青森市って人口はどのくらいなん?」紗也ちゃん。

「大体30万人弱だと思ったけど」曲がりくねった道を登っていく。

「じゃ、盛岡市と同じくらいね」私の故郷盛岡の繁華街が浮かんでいた。

「そうなん、青森と盛岡って」

「まぁ~仙台と比べたら全然田舎だよ青森は・・」


 他愛もない会話が続く。車は、曲がりくねった道を、どんどん登って行く。登るほどに草木しか見えない。


「ほんと山深いわね・・」恵ちゃんが呟く。

「そりゃそうさ、この山越えルートは、11月の中旬かな、雪が降り出す頃には走れないんだよ」曲がりくねった道路を、エンジンを唸らせながら登っていく。

「仙台の蔵王と同じね・・」

「冬は閉鎖だけど、春には有名な八甲田雪の回廊がる、高さ10メートル以上の回廊は凄いよ」

「そうなん?」


曲がりくねった道を登りきると、車は、坂道を登りきったようで、眼の前に開けた平らな場所が飛び込んできた。

「ほら右手に見える山が八甲田連峰の山だよ・・この辺りは田代平って夏はキャンプとか子供連れで遊ぶ場所だよ」


・・・・へぇ~・・これが八甲田連峰ね・・・・


「ここはさ、八甲田つつじが群生している場所だけど、盗掘されて青森県や他県にばらまかれてしまって、数も減っているのが現状なんだ・・」

「どこにでも居るのね泥棒って・・」恵ちゃんが言う。

「ははははは~~~」


暫く走ると釜本君が、意外な事を言いだした。


「途中で、温泉入っていくか?」と。

「えっお・温泉・・?」

「この先に有名な温泉が沢山あるよ・」

「どうしようか、う~ん・・典ちゃん?」恵ちゃんの声は、迷っていた。

「はははは~~入るのは酸ヶ湯温泉ってさ、入ったら悲鳴を上げるぜ・・ははは~~」笑いだしている。


・・・・なに・なにそれって・・どういう意味・・変な奴・・・・


「なんでぇ~?」恵ちゃんが、声をだす。

「はははは~~驚くなかれ・・はははは~~酸ヶ湯って・・混浴風呂なんだ・・混浴千人風呂・・」横顔を見ると、にやにやしながら楽しそうに笑っている。

「こ・混浴ぅぅーー」

「スケベ、釜本君、いやらしいぃぃーー」恵ちゃんが叫ぶ。

「釜本君って青森帰るとスケベになるのね」


私は、運転しながらにやにやしている釜本君の横顔を見ながら言うと、

「一度は経験すれば良いさ、なんでも経験だよはははは~~」全然平気。

「スケベぇぇーーほんとスケベなんだ釜本君って、友情も終わりね」

「私達を騙して裸を見る魂胆ね・・いやらしい・・」恵ちゃんと紗也ちゃんの弄りが始まった。幾ら弄られても懲りない釜本君。全然、平気。

それでも、

「有名な温泉なんだぜー酸ヶ湯ってさ、混浴でさ・・湯治でも有名だしさ」と、全く意に介さない釜本君だった。

「スケベエエエエーーーー」

「ほんとイヤラシイぃぃーー」とか二人は楽しそうに声を出している。



 開けた広い場所の中心を車が前に進んでいく。樹木は高さの低い低木ばかりが目に入る。登ってくる時の鬱蒼たる草木林とは全く違う景色が広がっている。

 車は、下りに入った。釜本君は、スピード出さないように、慎重に運転している。

「釜本君、運転大丈夫?」

「うん、心配しないで、下りは危ないから気をつけないと・・長い下りはブレーキを多用すると聞かなくなるんだ・・」

「それってやばいでしょ・・」

「大丈夫さ、エンジンブレーキで減速するんだ・・もう直ぐだよ」

「ほんと、曲がりくねった道ね」

「この先が酸ヶ湯温泉があり、有名な八甲田雪中行軍像が近くにあるんだ」釜本君は、運転に集中しているから、全然、頭を動かさない。

「あっそうか、あの八甲田雪中行軍事件がこの辺りなのね」私は、テレビで見た八甲田行軍遭難事件の雪の記憶を辿っている。


・・・・確か明治の時代だったような・・・う~~ん・・大正かなぁ~・・・・


子供時の記憶だから、思い出せない。なんとなく覚えているだけだった。


「雪中行軍の生き残った士官や身体の無事だった兵隊たちはさ、日露戦争203高地戦などに派兵されて全員戦死したんだよ、」釜本君が言うと、

「本読んだことあるわ、口封じね多分・・生き証人を残さず、事件の責任をとらせたってことね」恵ちゃんが返した。

「そう行軍計画そのものに問題があったのは事実で、軍上層部に責任がいかないように実行した士官たちに責任を押し付けたと本に書いていたよ・・まぁ~軍人は命令には従うしかないからなぁ~」


・・・・流石ああああーーー青森県民だわ・・良く知ってる・・・・


 車は、どんどん前へ前へと下っていく。酸ヶ湯を過ぎて、八甲田ロープウエィを過ぎれば、

国道103号線から県道40号線へ入り、1902年明治35年、八甲田雪中行軍遭難事件のあった記念像の建っている場所を通り過ぎ、田茂木野エリアに入る。田茂木野から行軍救助隊が、出発することになったけれど、猛吹雪で二次遭難の危険があり、長い竹杭のような物を大雪の降る中、雪に刺しこみながらの一歩一歩の手探り救助活動だったらしい。何せ、猛烈な低気圧に襲われていた青森県。その日は、魔の日だった。


「そろそろ到着だよ」暫く無言でいた釜本君が、口を開いた。

「ここはどこ?」

「青森市内だよ」

「なんだぁ~青森ってこんな山だらけの街なん?」沙也ちゃんが不満らしく言う。

「はははは~~違うよ、ほらもう直ぐ着くよ」

「ほんと山だわ・・虫が一杯いそう・・」恵ちゃんが言うと、

「大丈夫だよ、虫よけも作ってあるから、心配しなくても大丈夫」すかさず口にした。

「ほんと、虫よけスプレーって効かないでしょ」私は、虫が苦手。

「聞くよ、ハッカ油で作った虫よけあるから、さぁ~・・到着だ」


・・・・ハッカ油って・・聞いたことない・・・・


風雨に耐えてところとどころ傷が目立つ、古めかしい木製の頑丈そうな鳥居が目の前に在った。車が、鳥居を潜り、静かに境内の中に入って行く。


「実は、この神社は、余り人の出入りが無い、大昔からの神社でさ、ここじゃ神社経営出来ないので、新しい神社は、市内に在るんだ」

「えっ・そうなん、じゃ誰も住んでないの?」声が、小さくなっている。

「住んでいるよ、ここは爺さんと婆さんが、守ってるんだ」

「あ~良かったぁ~・・誰も居ないと思ったわ」私が、不安そうな声を出すと、

「でも、こんな山の中じゃ、参拝客って来ないでしょ」と恵ちゃんが言う。

「そう、ほとんど来ないよ、でも、ここは長い歴史のある特別な神社なんだよ」


車は、神社の横に建っている古い民家の前で停まった。


「さぁ~降りて・・荷物持ってね」

「えっ、ここに泊まるの」不安な気持ちが増していた。

「そうだよ、今晩はここで一泊して、明日は、禁忌の森に行くんだから」

「禁忌の森って・・なん?」

「それは、明日説明するよ・・さぁ~暗くなってくるから早く降りて」

「どうするぅー」恵ちゃんも不安そうな声を出して聞いてきた。


民家の中から、お爺さんとお婆~さんと二人の男女が出て来たのが見えた。


「よぐ来たのぉぉーー、よぐ来た・よぐぎた・・・さぁ~の中さ入れ・・」お爺さんが、なまりの強い言葉で言うと、

「ほんによぐ来たのう・・疲れしたでしょ・・まんずは~さぁ~さぁ~・学、案内してけれ」お婆さんが支持する。

「うっうん・・さぁ~入った入った・・」

「学君、お帰りなさい・・」初老の男性が釜本君に声をかけた。

「あっ、田所先生、先日は電話で大変失礼致しました」釜本君が、先生と呼ばれた男性に丁寧にお辞儀をするのを見て、


・・・・誰かしら・・うちの大学の先生かしら・・・・


と思ってみていた。これが田所 がく先生との初出会いだった。なんでも釜本君が、突然、先生に電話をしたと後で聞いた。田所先生は、「物」が出たと聞けば、日本全国奥様とどこへでも赴くそうで、旅行資金は、どこから出るのかしらと思っていたら、後で分かった事なんだけど、本を出版して資金を稼いでいるそう。


「貴重な資料が出たってねぇーもう~堪らずに仙台から飛んできましたよ」そう、田所先生の本拠地は、宮城県仙台市。国からの資金では運営されていないペトログリフ協会日本支部の支部長だそうで、協会の学会本部は、アメリカに在るそう。


「そうなの、今日の日を待ち焦がれていたようですわ、この人」少し小太りの年齢的には50代前半か半ばの品のある女性優しい笑みを浮かべながら、話した。

「奥様ですよね・・初めまして釜本 がくと申します、こちらは僕の同級生の旗 典子さん、こちらは柿崎 恵果さんこちらは倉田 沙也さんです」釜本君が、私たちを紹介する。

「あっ、宜しくお願い致します。倉田です。」低音の声が、心地よかった。

「旗です、」

「柿崎です、」

「宜しくお願い致します」

「東北大学の学生ですってね・・宜しくお願いしますね」温厚そうな人柄が、顔に出ている。


 古めかしい民家に入ると、外見とは違って、煙で煤けて黒光りしている豪華で造りは頑丈だった。なん百年も経っているらしいけど、風雪に耐えた重みが身体にのしかかるような威圧感がある。

 汗を流す風呂場は、まるで温泉の様だった。八畳くらいの湯舟があり、厚く重量のある木蓋が8枚どんと乗っかっている。冬は、雪に閉ざされる青森市内は、日本有数の豪雪地帯である。


「お~~い、一緒にお風呂入ろうか」と釜本君の声が、男湯から聞こえてきた。

「きゃああ~~~いっ・いやらしいぃぃーー」

「水かけてやろうかしら・・」

「スケベ、ほんとにどうかしてるわよ、釜本君」

「馬鹿なこと言わないでよ、ほんとスケベなんだから、友達関係無しにしようか・・」いつもの弄りが始まった。

「もうこの男は、どういった教育を受けてきたんだろ、頭おかしいわ」とかさんざん言う二人に、聞こえているのか、

「大きくて好い風呂だぜ・・そっち行って良いかぁ~」といつもの平気な声を出したものだから、

「馬鹿ぁぁぁーー何言ってんのー一緒には入りません・・絶対にぃぃーー」

「ははははは~~そうか、そうか」といつもの平気な声をだして、直ぐに声がしなくなった。


風呂場には、男湯と女湯が在った。ゆったりとお風呂に入りながら、


・・・・ここは結構宿泊する・・・施設だったかも知れないわね・・・だって・・女湯まで在るということは・・・・


風呂から上がると、流石に辺りは暗くなっている。外を見ると、辺りは真っ暗闇。


 食事に呼ばれると、いつの間にか、釜本君の父親と母親が居るのに驚いた。囲炉裏の居間には、大きなテーブルがあり、お料理が所狭しと並んでいるのが目に入った。

父親と母親が立ち上がり、

「いやぁ~遠い所から良ぐ来てくださった・・わしが、学の父です、こちらが母ですじゃ」

「親父、こちらのお嬢様達は、同級生のお友達、旗さん、柿崎さん、倉田さん」

「おおお~~これは、これはよぐ来てくださったのうー」大げさなお父さんだった。

「宜しくお願い致します・・」

「おおぉぉーーこれはこれは・・美人ばかりですじゃ・・学がお世話になっておりますさぁ~座って、座って・・」豪放磊落な性格らしい。


・・・・釜本君・・お父さんに似てるんだわ・・・きっと・・・・


「はい、」

「はい、」

 田所先生と奥様は、既に挨拶が終わっているらしく、上座に座っている爺様と日本酒を飲んでいた。私達も、分厚く幅の長い柾目の木製のテーブルの前に、遠慮なく座った。市販のテーブルではなかった。

「良く、ぎでぇ、下さったのう・・」爺様が言うと、隣にちょこんと座っていた婆様が、

「うじの神社の儀式以来だものぉーなぁ~・爺様・」と何かを思い出していたように話した。

「ホンにのぉー暫くぶりじゃ、毎年のぉー春の例大祭にはのぉー氏子の皆様がのぉー集まるはんでのぉー賑やかなんだがのぉー」


・・・・そう・・今年の氏子祭りは終わったのね・・・・


人の良さそうな釜本君の爺と婆様を見ながらそう思っていた。


「おっほっほほほ~~爺様・・年に一度だけだもんのぉー後はのぉーはははは~~爺と婆しかおらんわ」

「うんだ・・久しぶりだ・・こうして賑やかなもんわな・・」

「ほんにのぉーーおっほっほほ~~・・」


爺と婆様は、殊の外、嬉しそうだった。


 青森の早朝は、仙台とは違って肌に感じる温度は、やはり冷っとしている。太陽が真上に上がり始める頃から、気温は夏温度に変わる。幾ら北国とはいえ、降り注ぐ陽の光はやはりジリジリと火傷しそうなほどに暑い。午前6時過ぎには起きて、神社の境内に出ていた。陽の光は、未だ薄い。見上げる空は、どこまでも青く輝いている。


・・・・今日は・・暑くなるわぁ~・・・・


古い神社を取り囲むように、何百年生か分からないけど、背が高く幹の太い杉の木々に神社は囲まれている。その杉の外回りには背丈の高い草と共に低木や雑木の森が広がっている。森の処どころに幹が太く枝を大きく広げた落葉樹が混在しているのが見える。


・・・・咽るような・・緑だわ・・・・


混在している樹木の葉・枝葉等はとても濃い緑色・夏色になっている。春は、薄い、超薄緑の新緑が山全体を、里全体を草花全てを春色薄い緑一色になる山や山里の春は美しく輝かしい。やがて夏が終わり、お盆がくれば秋風が立つ。温度が徐々に下がり爽やかな秋風が吹くと、その先には、紅葉が山々を埋め尽くす。紅葉は儚い。全ての木々の葉が、今年最後のお勤めを果たすかのように赤色、黄色、薄茶などに見事に咲き誇る。そして山々は、白い雪に閉ざされ、眠りにつく。


「おはよう早いんだね・・」釜本君だった。

「おはよう、釜本君も早いでしょ、」

「田舎にくれば、郷に入れば郷に従えってね・・はははは~~未だ寝てんのか?」と釜本君が、口にすると、釜本君の背後から、

「もう~起きてるわよ・・私達」

「随分早いんじゃない、釜本君」と近寄ってきた二人が返す。

「おっおおお~~起きてきたか・・はははは~~未だ眠ってれば良かったのに・」

「お酒飲んで酔っちゃったから直ぐに眠れたわ、」

「釜本君お酒強いんだね・・全然酔ってないんだもの・・」

「はははは~~~青森県人は酒強いんだ・・さぁ~朝飯の準備しなくちゃ」

「うん、手伝うわよ私達」

「そうか、頼むよ」

「分かりました・・行こう」

「うん・・」


大人数の朝食は、準備が大変。真っ直ぐに台所に入ると、大きめのテーブルには、所狭しと料理が置かれていた。

「これ、座敷のテーブルに運んで・・」

「はい、・・」

「全部ですね、」

「お願いします、」


テキパキと、食器を運ぶ。出来上がった料理も、兎に角、運ぶ。私達は、運び方だった。


 私の仙台の住まいは、女性専用マンションに住んで居る。男子禁制で、門限も門番も居る敷居の高いマンション。両親はアパート暮らしは反対。このマンションの3階に部屋がある。洋室6畳二間、キッチンお風呂、トイレの居心地の良い静かなマンションの部屋。食事は、自分で作るのが毎日の日課。食事と言っても、朝食は、パンとコーヒーかミルクか紅茶。目玉焼きと野菜サラダが定番。兎に角、お腹に入れば全てオーケー。昼食は、大学の学食で済ませる。夜は、外食は少なく、コンビニ弁当で済ませるか、自分で適当に作って食べる。一人で食べる生活は、余り、好きではないけど、独りは自由だから好き。誰にも気にする必要はない生活が、独り暮らしの良いところ。


・・・・独り暮らしは気ままで良いけど・・・こうして食べる朝食も迫力あるわねーー・・・・


私は、そう思いながら、朝食を食べている。私達3人以外に釜本君に釜本君のご両親に爺婆様、そして田所先生御夫妻。大家族ってこんな感じだろうなぁ~と思いながら食べていた。建物自体が、大家族構造だから、この人数でも居間は狭くは感じなかった。


 食事が終わって、片付けも済んだので、お茶を飲みながら本題に入った。


「爺様、あの大岩に案内するよ・皆さんを・」釜本君がお爺様に言うと、

「うむ、あそこはの・・宮司以外立ち入り禁止の森だったはんでの・・」威厳のある声で答えた。

「うんだぁー何百年と誰も入らなかった森だもんでな・・」同調するように婆様も言う。

「誰の目にも触れさせないように大きな布をかけての・・御神岩としてしめ縄で御祭してきたのじゃ」

「御神岩・・ですか・・」

「うんだっ・・長い間隠してきたはんでの・」

「そうですか・・長い間と申されますと・・」

「長い間じゃ、千年以上前かのう・・」

「昔からの言い伝えによるとですな・・田所先生、」

「はい・・」

「この神社が出来る前からあの御神岩はあの場所に在ったそうだと言われてきましたのじゃ、儂の爺様から聞いたのはガキの頃だったよ・・」

「あの御神岩が在ったからこの場所に神社を創建して祭ったと聞いております」釜本君の父親が答えてくれた。





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