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お礼の宴です

「魔王、さっきはあんな生意気な事言ってごめんなさい」

 女帝が騎士達を引き連れて帰った後、サフィアはバラサークに謝った。

「女帝様を説得するにはああする方が早いと思って……別に貴方の事を本当に疑っている訳じゃないから……」

 バラサークはそんなサフィアに温かい笑顔を向けた。

「生意気などとんでもない! 助けて頂き、感謝しか思い浮かばぬ!」


「女帝様って結構サフィアに甘いよな」 

 タルケットが腕組みをして話を振ると、サフィアはちょっと首を傾げて同意した。

「うーん、そうなのよねぇ。気に入って下さっているからかな? まぁこっちもそれを利用してしまったのだけど……。でもお気に入りはフレデリクも同じだし。フレデリクが、魔王に手を出すのは女帝様でも許さんって言ったからじゃない?」

「そうかもな。あいつにかかっちゃ女帝様もお手上げって奴だ」  

 真の理由は不明のまま、勇者達はそこで話を終えた。


「さて、皆様。此度は儂の為に御足労頂き、深く感謝の意を申し上げる。ただ今より宴の席を準備致すので、もしよろしければ、しばし留まって頂けぬだろうか。儂は、その……」

 魔王は青黒い顔を赤くして話を続けた。

「出来れば皆さんともっとお話がしたく……駄目であろうか?」

 駆けつけた者達は皆、笑顔で応じ、帰る者は一人もいなかった。

 

 バラサークは部下達を呼び、宴の会場を設置し始めた。数十名を入れるには和室は流石に狭いので、玉座の間の開いているスペースを使う。結晶石の床に絨毯を敷き、長い卓を幾つも置いて、その上に食器を並べていく。隅の方には料理をする為の作業台も用意された。

 小鬼や人型の魔物達と一緒になって立ち働く魔王を見た勇者達は、自分も、と極自然に手伝いを始めた。


「なんっか最近勝手に体が動くよな……」

 座布団を敷きながらタルケットが呟くと、

「私はいつもこんな感じです」

 ふふっと微笑みながら、カルナードが皿を並べて行く。その傍らでサフィアがコップを同じく並べ、

「でも何か楽しいな、みんなでこういう事するの」

 とニコニコ笑う。フレデリクが肩に担いでいた食材入りの大きな箱を降ろしつつ、

「おう、悪くはないぞ。俺達と魔王だけでも十分愉快だが、人が多いとそれだけ賑やかでいい」

 と言った。サフィアは花の様に可憐な笑顔で「そうね!」と頷き、他の二人もつられて微笑んだ。

 

「サフィアちゃぁーん」

 ふにゃーっとした可愛らしい声が聞こえたと思ったら、サキュバスが手を振ってやって来た。黒魔女もいる。その後ろにはトロールやラミアなどがわらわらと着いて来た。

「元気ぃ?」

「勿論! って、この前会ったばかりでしょっ」

「えへっそおだったねえー」

 女の子同士のやり取りに、男性陣は何となく気恥ずかしくなって目を逸らす。黒魔女の方は相変わらずチャキチャキとした物言いで、勇者達や他の人々と「お疲れさまです。御手伝い頂き恐れ入ります」「皆様、御無沙汰しております」などと挨拶を交わすと、手に抱えていた調理道具――バーベキューコンロを床に置き、その中にトロールが運んで来た炭を入れた。


「これからバーベキューを致します。沢山焼くのでどんどん召し上がって下さいね!」

 黒魔女は早速呪文を唱えて火を点け、炭火がいい感じに赤くなると、フレデリクの運んで来た食材を焼き始めた。その傍らではアシスタントのサキュバスと小鬼達が食材の下ごしらえをやり、周囲では料理を運ぶ役割を担った邪妖精やラミアがそれぞれの持ち場でこまめに動いている。

 

 かくして大宴会が始まった。

 人々は振る舞われる料理や酒に舌鼓を打ち、魔王と大いに語り合った。

「いやーその節は御世話に」

「いやこちらこそ、御迷惑をおかけ致した」

「女帝様が来た時はどうなるかと思ったよね」

「あの御方の仰る事は最もだと思う。全ては儂に責任がある。後程改めてお話に伺おうかと……」

「そうですか……魔王さんがそう言うなら……でもまぁ、今は忘れましょうよ! ところでこれ美味しいですね! お代わりしていいですか」

「こっちもお願いしまーす!」

「あ、ゴブリンさんもインプさんもよかったら一緒にどうよ」   

「えっオレっすか」

「ワタクシ運ブオ役目ナノデ……」

「あら、料理とか自分達で貰いに行くからいいわよ。ラミアさんも良かったら、ここ座らない?」

「と、とぐろ巻いても良いのでしたら」

「大丈夫!」

「トロールさんお誕生日席ね」

「ゴフッ(どうも)」

「おーい魔女さんサキュバスさーん、ワシらが交代するからあんた達もこっち来て御馳走食べなさい!」

 気のいい人々に巻き込まれ、いつしか魔物達も一緒に宴を楽しんだ。

 

 

 翌々日、魔王は勇者達に付き添われ、女帝の城に姿を現した。

 曰く「儂自身のけじめを付けに来た」と言う。

 事前に聞きはしていたものの、何をする気だと構えていた女帝とその臣下達の前で、魔王は自らの角をその場で片方、ポッキリ折って差し出した。

「この角は力の源。一つ欠ければ儂の魔力は半減する。もう片方は部下達の住処を守り、彼等を地上に出さない為に残しておきたい。これで許して頂けぬか」

 バラサークは折った角を側に来た城付きのドルイドに渡し、女帝の返事を待った。

 

 魔王が角を折る様を驚きとともに見守っていた女帝は、しばしの沈黙の後、その口を開いた。

「……我が軍の兵士にも、民衆と同じ経験をした者達が多数いる。お前が急に心変わりをし、『申し訳なかった。許されなくてもいいから、せめて安らかな場を提供させてくれ』と真摯な態度で、魂と化した自分に何度も頭を下げに来たと言う」

 

 女帝は玉座から立ち上がり、バラサークを見下ろした。

「その者達は酷く混乱した。やがて突然生き返り、少しずつ現実を受け入れ、今お前に対しこう思っている……『過去の事はもうどうでも良くなったが、国への忠誠は変わっていない。魔王は確かに誠実だったしあの時は許したが、また邪悪なものと化したらまた前と同じ様に戦う』と」

 女帝は一段一段階段を下りながら話を続けた。

「勇者達を疑っていた訳ではないが、この言葉で我はようやく安心出来た。正直、小心者だと自分で自分を笑ったわ」

「女帝殿……」

「魔王バラサーク殿。その心意気、謹んで御受け致す。我が国は魔王殿との和平を結ぶ事とする。この条件下であれば、地下迷宮は魔王殿の領地として認めよう……地上部分をどうするかは話し合いが必要だな」

「その事ですが、お願いが御座います」

 カルナードが前に進み出た。

「地上部分は私達四人の鍛錬の場として御譲り頂けないでしょうか?」

「ふむ……その手があったか。良かろう」

 迷宮の入り口がある地上部分を自分達で管理すれば、一般人が迷い込んだり、力試しで殴り込んで来たり等のアクシデントが避けられる。そうすれば平和な状態を保っていられるだろう。四人は顔を見合わせ微笑みを浮べた。表向きは上品に喜びを分かち合った彼等だが、心の中では歓声とともにハイタッチが交わされていた。

 

 魔王と勇者一行がその場を辞して帰る間際、女帝が魔王を呼び止めた。

「魔王殿。そう言えば聞きたい事がある」

「何であろうか?」

「お主の部屋にあった、あの小さい丸い卓。かなりの上物と見たのだが……一体何処で手に入るか教えてくれないか?」

 魔王バラサークは一瞬で顔を上気させた。

「に、入手先は――残念だがこの世では無い。もし宜しければ、一週間程待って頂けぬか? 替わりに手に入れよう」

「そうか、ならばお願いしようかな。いや何、少し見ただけだが気になってしまってな……特にあの色合いが良い。深みがあり上品だ」

 

 魔王は頬を染め、鼻息を荒くした。今にも天まで飛び上がりそうな気分だ。

「ま、ままま、まさか貴女があの良さに気付いておられたとはっ! なな、なんっと素晴らしいっ……! あれはっちゃぶ台と言う物でっ」

 女帝は階段に無造作に座り込み、魔王の話に熱心に耳を傾けた。本気で興味があるらしい。魔王も床に胡座をかいてハッスル気味に喋りまくる。四人の勇者はやれやれ、という様子で見守り、しまいには茹だって腑抜けになった魔王を支えて帰って行ったという。

 

 後日魔王から贈られたちゃぶ台は女帝の部屋に置かれた。女帝はちゃぶ台を珍しそうに眺め、床に座って両肘を乗せてみる。

「うむ。やはり良い物だ……しかし、何かが足りないな……」

 

 近い未来、女帝アディネーラの城には、風変わりな部屋が出来る予定である。

今回はちょっと稚拙な文章で恥ずかしい。けれどまぁ、お気楽な感じを出したかったのでいいかなと。


ちなみに小鬼は自分の中ではコボルドなんですが、コボルドって世間一般では犬顔なんですね。

某地下迷宮で飯を食うまんがで見て、「え、ワンコなんだ」と思ってたら……。

とあるレトロゲームでの認識しか無かった自分はどんだけずれてんだと。

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