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偉い人の登場です

 アールトーチ大陸には帝国があり、そのど真ん中の豊かな平野が広がる場所に帝都がある。帝都のまたど真ん中には巨大な城が建っていて、そこには民から烈女と恐れられた女帝、アディネーラ・グィネディア=ラ=ヴェルドーナがいる。

 すらりと引き締まっているが体格が良く、濡れた様な黒髪をキリリと結い上げ、大理石の様な乳白色の肌と、冷たい光を宿した灰色の瞳を持つその姿は、齢四十も後半の、間違いなく絶世の美女である。

 

 女帝にはかつて、皇帝であった弟を城から追放した過去がある。彼女が言う所の不肖の弟は、あろう事かハイエルフの女王に一目惚れしてしまい、安易に結婚を約束するなどという皇帝にあるまじき行為をしでかした挙げ句、到底公にする事の出来ぬ存在をこの世に出してしまったのだ。その軽卒極まる愚行を許す事の出来なかったアディネーラは、自軍を率いて弟を皇帝の座から引きずり下ろし、自らを新たな帝国の支配者であると宣言するに至った。

 さてこの女帝、相当な堅物であり自他共に厳しい御人である。

 そんな女帝がある日、大神官カルナードを城に呼びつけた。


 荘厳と言う言葉がぴったりなその城は、内装が金と黒大理石で施されており、中に入り建物内を見渡しただけで、何処からか『ドォォォン』だの『ズゥゥゥン』だのといった背景音が聞こえてきそうである。

 城の主もこれまたお召し物が黒いドレスと毛皮のマントという装いで、拝謁しただけで背後から、威圧感のある重々しい音楽が流れてきそうであった。


「アディネーラ様に()かれましては、御尊顔を拝する事が出来、このカルナード、至福の極みに御座います」

 謁見用の正装に身を包んだカルナードが女帝の前に跪き頭を垂れる。

「久しいな、大神官殿」

 女帝は玉座からカルナードを見下ろし、軽く頷くとそう声をかけた。 

「そなたはこの大陸に平和を取り戻してくれた勇者の一人。堅苦しい挨拶などせず、もっと気楽にして良い」

 そう言われて素直に応じてはいけない。カルナードはますます(かしこ)まり、真面目な顔で真面目に返した。

「勿体なきお言葉、恐悦至極に存じます」

 女帝は軽く口角を上げると、つと立ち上がり、玉座から一歩前に進み出た。

「そなたに聞きたい事がある」

 どんな時も単刀直入、無駄な言葉の駆け引き抜きで白黒つける。女帝はそんな御人である。

「はい、なんなりと」

「巷である話を耳にした。魔王が生きている、と」

「!!」

 カルナードは忘れていた。と言うか勇者四人が全員忘れていた。女帝が、世界は魔王が倒されたから平和になったのだ、と単純に思っている事を。

「話は更にこう続く。大陸の平和は、魔王によって取り戻された。みんなが生き返ったのは魔王のお陰。魔王は善い人だ、と」

 

 カルナードは目を閉じた。来る。女帝の殺人光線並みの眼力攻撃が。

 女帝は階段を下りてカルナードの前に立つと、凍り付く様な冷たい声で命じた。

「立ちなさい、大神官。そして私の問いに答えるのです」

 カルナードは言われるままに立ち上がり、目を開く。女帝が丁寧な口調になると、一層怖い。

(至高神よ、どうか私を御守り下さい)

 女帝の、そのまま人を殺せます、と言うくらい鋭く冷たい瞳が真っ直ぐカルナードを貫いた。一切体温を感じない声で質問を口にする。

「この話は(まこと)ですか?」


 大神官カルナードは覚悟を決めた。こりゃ忘れていた自分達が悪い、しょうがない。さっさと白状してさっさと終わらせなくては。後はただ女帝の怒りと御説教——暴風雪の後始末が待っているだけだ。そんなもの、あの迷宮踏破に比べれば何て事は無い。

「はい。全て真の話に御座います。そして私達四人は――」

 カルナードは女帝の凍てつく眼光に全く負けてない、恐ろしく澄んだ綺麗な瞳を輝かせ、威厳のある態度でこう言い切った。

「魔王と友達になりました」

  


「は……」

 カルナードが包み隠さず真実を述べると、その場にしばらく沈黙が降りた。そして不意に女帝が口を開くと――。

「はっ……あはっあははっあははははは!」

 物凄く愉快そうに笑い始めた。生真面目な女帝は年間を通して殆ど笑った事がない。なので今の様子は正直途轍もなく怖い。周囲の臣下達は引き攣った様な顔でその様子を眺めていた。

 カルナードは微塵も怯えた様子を見せず、清々しい笑顔で女帝を見つめている。笑い終えた女帝がにこやかな顔でカルナードに向き直った。

「久方振りに愉快な気分になれた。礼を言うぞ大神官。では行こうか」

「はい?……どちらへ?」

 女帝が笑顔を崩さないまま、サッと手を上げる。瞬時に二人の重武装した騎士が傍らに現れた。

「決まっておろう。魔王の迷宮だ」

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