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異世界転移高校生 後編

 異世界の思い出を作らせて、と言われた魔王は俄然張り切りだして、部下達に色々な指示を出し始めた。

「黒魔女、以前やったバーベキューの準備を頼む」

「御意」

「サキュバスは食材の用意を、ウェアウルフは参加希望者が居るか皆に聞いてきてくれ」

「は~い♡」

「はっ! 直ちに!」


「晩餐はこれでいいとして……ツヨシ殿、温泉は好きかのう?」

「……はぁ、まあ……好きですけど」

「良かった。ここには銭湯や温泉大浴場、スパリゾート施設まである。温水プールで泳ぎ放題、ウォーターフォールもあるぞよ。水着、タオル等はレンタル出来る。各サイズ揃っておるから安心じゃ」

「……」

「そうじゃ、思い切って一泊なさるか? お客様用羽毛布団の出番じゃな! 今のうちに干しておかなくては!」

「あの……」

「ああ、済まぬ。まず、お家の方に許可を頂かなくてはな」

「いや、そうじゃなくてですね」

「うむ?」

「できればもうちょっと異世界堪能する方向でお願いしたいんですけど……」

「はて?」

「バーベキューとか温泉は帰ったら普通にあるんで。それより、何かこう……ガッツリファンタジー味わって帰りたいんです! 剣と魔法の世界をそりゃもう、お腹一杯に!」


「あーわかるわかる。今の状況ってさ、例えば……」

 タルケットが横から口を出す。

「海外旅行先で日本食ばっか出された、的なやつなんだろ?」

 だから詳しすぎるだろチビ。そう言いたいのを我慢して、ツヨシはおとなしく同意した。

「うむむ……異世界を堪能……」

「何を悩んでいるバラサーク? あちらの世界と違う物が見たいならば、地上に出れば色々あるだろう」


「いや〜地上に出て、万が一女帝様に知られちゃったら……」

 タルケットがぼそりと呟いた途端、カルナードが顔色を変えて猛反対する。

「いけません! 女帝に見つかるのは絶対に回避するべきです!!」

「そうよね。確実にまずい事になるわ」

 女帝どんだけヤベェのよ。ツヨシはぶるるっと身を震わせた。


「そうじゃのう……では、迷宮を軽く回ってきては?」

「おう、それは良いな。では俺が負ぶってやろう」

「えっ」

 いくら親切心からの発言でも、男と二人っきりで迷宮一回りって誰トクなんだよ?!……と、喉まで出かかった言葉を言おうか言うまいか、迷っているうちに話が進む。


「今は安全とは言えここは少々広い。一般人の足では時間がかかるのだ。俺はランニングコースにしているから、手頃なルートを知っている。なあに、小一時間もあれば大丈夫さ!」

「待ってフレデリク。一応防護魔法を掛けてあげなければ」

 そう言うとサフィアは、安心させる様にツヨシに微笑みかけた。

「そうすれば、状態異常と物理ダメージから守られるわ」

 可憐な瞳に見つめられて、ツヨシは鼻の下を伸ばして頷いた。カルナードもそれならば、と前に進み出る。

「私からも。祝福と生命維持の法術をかけましょう」


 ええ……生命維持が必要って、なんか不安……やっぱ行くの止めようか……。不穏な言葉に尻込みして、迷宮巡りを断りかけたツヨシは慌てて頭を振り、その考えを打ち消した。

(これを断ったらもう二度とチャンス無いじゃん! 勇気出せ、俺!!)

「お願いします!!」

 ツヨシは二人に挟まれて、身を守るありったけの魔法を掛けてもらった。サフィアの唱える呪文は不思議な発音の非常に短いつぶやきで、カルナードのは厳かで胸にズシンと来るような響きがあった。


「おおー?……何かあったかくて……すっごい大丈夫な気がしてきた!」

 祝福を受けて元気一杯になったツヨシは、さっきまでの不安も何処へやら、ためらいも無くフレデリクの背に飛び乗り、「お願いしまっス!」と一言叫んだ。


「よし。じゃあ、ちょっと行ってくる」

「ええ。お気をつけて」

「行ってらっしゃい、ツヨシ、フレデリク」

「はーい!! 行ってきま……えっ!? わっ! うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ツヨシの絶叫が瞬く間に遠ざかる。フレデリクは背中にツヨシを乗せたまま、いつものように溶岩の海を爆走して行ったのだ。それはとても常人がついて行けるものではなく、出発した瞬間にフレデリクの首に回していた腕が解け、上半身が後ろに大きく仰け反る程の凄まじい速さであった。


 反り返ったまま猛スピードで連れて行かれるツヨシの、驚愕と恐怖に満ちた顔を見たサフィアとカルナードは、一瞬「あっやべっ」と思ったが、時すでに遅し。二人とも気が付かないフリをして口を閉じた。


✳︎

✳︎


 それから約一時間たって、フレデリクとツヨシが戻って来た。

 軽い運動を済ませて来た(ふう)のフレデリクに対し、ツヨシは半死半生の様子でグッタリと肩に担がれていた。その顔は青ざめて強張り、目と鼻と口から涙と鼻水と涎を垂れ流し、時折ピクッと体を引き()らせる有様だ。

「……おかえりなさい」

「どうでしたか」

 再び気付かないフリをして出迎えた二人に対し、フレデリクは実に清々しい笑顔を見せた。

「おお、ただいま! いや~いい運動になった。なあ、ツヨシ!」

「…………ぁっ…………」 

 言葉にならない声で反応する、瀕死状態のツヨシ。サフィアとカルナードはここでも『しくじった表情』を顔に出すまいと、死んだような目で無言を貫いた。

「おいおい! 生きてるか!?」

 タルケットが慌ててツヨシを和室へ連れて行く。


「……ちょっと回復させに行って来ます」 

 カルナードが素早くその場を離れ、残されたのはサフィアとフレデリクだけとなった。フレデリクは満足そうな笑顔でカルナードの背中を見送ると、サフィアに道中の様子を話して聞かせた。

「始めはやたらと騒いでいたから、降りて貰おうと思ったのだがな。途中から静かになってくれて助かった」

「……そ、そうだったの」

「まあ、大体の箇所は回って来たから、十分見る事が出来たろう」

「……そうね」


 回復後、感想を聞かれたツヨシは頑なに目を合わせず、「も、もういいッス」と繰り返すだけであった。

 見かねたタルケットが、こちらの文化に触れさせてはどうか、との提案をし、魔王と勇者達は協力して色々なものを持ち寄って見せた。

 雰囲気が壊れるからと和室を出て、青い結晶石の床に絨毯を敷き車座になる。集まったのは地上で採れる食物、衣服や装飾品、魔法のアイテムなどで、宝石が一杯の豪華な細工がしてあったり、逆に原始的でシンプルなデザインだったりと、ツヨシの琴線に触れまくりであった。


「おおーこれこれ! こーいうのだよ!!」

 ツヨシは目を輝かせながら一つ一つを手に取って眺めていく。

 金や銀や宝石で飾られた魔法アイテムも心踊るが、食べ物にもすこぶる興味が湧いた。一体どんな味がするのだろう。ツヨシは黄色い桃の様な木の実を手に取り、思い切って聞いてみた。


「あの、これ食ってみていいっすか?」

「おう、もちろん。それ美味いぜ」

「まじ? いっただっきまーす!……うおー!! 甘ぇ~!!」

 あれも、これもと口に入れながら、その度に感激の声を上げる。その無邪気な様子を微笑みながら見守っていたタルケットは、ツヨシが次に掴み上げた物を見て表情を変えた。

「……あっ! それは止めとけ……」

「えっ?」

 ツヨシが手の中の物を見ると、卵型の赤い木の実からウジャウジャと触手めいたものが生えていた。


「うわあああ! なんだこれ!?」

 びっくりた勢いで背後に放り投げると、木の実はパカッと割れ、触手が爆発的な勢いで成長し、見る見るうちに結構な大きさの樹木になった。樹木から伸びた触手はあっという間にツヨシを絡め取ると、うじゅるうじゅる、とうねりながら捕食行動を開始したのである。

「うぎゃああああ助けて! 助けてぇぇぇぇ!!」

「あらら」

「やっちまったな」

「誰ですか、食人樹の実を持ってきたのは!」

「俺だが?」

「……お前なぁ」

 キョトンとした顔で挙手するフレデリクに、全員が呆れた表情でため息をついた。「だって! 見た事ない物って言ったじゃねーか!」などと言い訳を始めたフレデリクをほっといて、皆はさっさと食人樹の制圧に乗り出した。

 ツヨシはすぐに助け出されたが、半べそで膝を抱えたまま和室の隅にうずくまり、しばらく動こうとしなかった。


「うむむ。困ったのう」

 完全に困り果てた魔王が腕組みして上を向く。ひ弱な異世界人に少し面倒になったタルケットは、自分の耳を小指でほじりながら適当に呟いた。

「いっそ地上に連れてって、見つからないうちに帰ってくるか?」

「じゃあ変化の術、かけるわね」

「……っ!!」

 サフィアの一言を聞いた途端、ツヨシは血走った目を見開いて歯を食いしばり、何やら唸りながら畳の上をゴロンゴロンと転げ回った。

(初めっから!! 初めっからそうしてくれよぉぉぉぉぉ!!!)


✳︎


 ワープ門を潜って地上に出たツヨシは、その光景に一瞬で目を奪われた。

 目の前に広がるのは、石や木やレンガで作られた建物が並ぶ街である。灰色や黄土色などの地味な色彩で統一された家々と歴史物の洋画でよく見る様な格好をした人々、たまに鎧と剣を装備した者や杖を持った者の姿も見えた。


「……スゲェ……ほんとに剣と魔法の世界だよ! めっちゃ感動!!」

「さっきのも十分そうなんですけどねぇ」

「シッ!! 安心安全も込みなんだよ」 

 そんな囁き合いをよそに、ツヨシはその場の空気を胸一杯に吸い込み、路上で開催されているマーケットや大道芸などを眺め、吟遊詩人の歌に聞き入り、洋風ファンタジーの世界を思う存分味わった。

 

 サフィアの魔法が効いているのか、誰もツヨシが異世界人だと気づく事無く、たまたま女帝が通りかかるなんて出来過ぎたハプニングも無いまま、無事に和室に戻ってくる事も出来た。

 時刻はちょうど夕暮れ時である。

 テストの日だったので下校時間が早まり、ここにたどり着いたのは確か、午後二時になる前くらい。あれから三、四時間といったところか。結構時間経ってるな、と考えたところでツヨシは急にあることに気づき、「どうしよう!?」と慌てて魔王を振り返った。





「……あ、母さん? ごめん、今日遅くなる……うん。あ、そーなの? 良かった。じゃ友達(・・)と飯食ってきていい?……うん、分かった。じゃーねー」

 繋がっているから大丈夫と言われ、何故か通じる携帯電話で家に連絡を入れ、これでひとまず安心だ、とツヨシは通話を切った。

 魔王がニコニコしながら聞いてくる。

「お母上はなんと?」

「うん。晩御飯の準備まだだから大丈夫って。あんまり遅くなるなって言われたけど」

「では、気をつけるとしよう」


 それから始まったのは、大宴会である。

 なるべく地元産の食材を使い、現地のやり方で調理された野性味溢れる料理が振舞われ、未成年に配慮してか、ゴツいゴブレットには全てノンアルコールの飲み物が注がれた。

 今回は地上の民を呼ばなかったので、その分魔王の部下達が迷宮からやって来た。彼らは初めて見る異世界人に緊張しながら、次々と自己紹介をしていったのだが……。


「うおおおお! ゴブリン! オーク! スケルトン! スライムー!! カッケェェェ!!」

 自分達の姿を見ててっきり怖がるかと思いきや、異世界人ツヨシは目をキラキラと輝かせ、「いいっスか? いいっスよね! 撮りましょーよ!!」などと非常にフレンドリーな態度を見せて、全ての種族とのツーショットをカメラに収め、「ヤッベェ最高! これマジ宝物ッス!!」と携帯電話を抱きしめながらハイタッチを求めて来たのである。

  

 意外な反応に嬉しくなったモンスター達は、すぐさまツヨシと意気投合し、みんなで連れ立って隣の溶岩エリアへ炎竜を見に行ったり、モンスター同士のバトルをエアで再現してみたり(ツヨシは冒険者役で参加した)、宝箱かミミックかを当てるゲームなどをして楽しい時間を過ごした。


「俺らより部下さん達の方が、少年の心掴んでるな」

「最初から彼等に任せれば良かったですね」

「うむ。実に優秀な部下達じゃ」

 魔王は今日一番の嬉しそうな顔で頷いた。



「あー楽しかった! 色々ありがとうございました!!」

「いやいや、こちらこそ」

「おいら達は何も出来なかったけどな」

 そんなことないぞチビ、と言う言葉を隠し、ちょっとしみじみした気分になったツヨシは、「……なんか、これでお別れって……寂しいっス……」と目を潤ませた。


「うむ……せっかく御縁が出来たのにのう……」

 魔王も勇者達も切なくなり、彼等の背後ではモンスター達が既に涙ぐんでいる。

「ツヨシさん、もう会えないんスか!?」

「泣くな、魔王様とツヨシ殿がお困りになるだろう!」

「楽シカッタデス! 忘レマセン!!」

「俺も……俺も皆さんの事、一生忘れません!!」


 ツヨシとモンスター達は一塊になって抱き合い、おいおいと泣いた。魔王は思わずもらい泣きしそうになりながら、この友情を続けられる良い手は無いものか、と考えを巡らせる。

「魔王様、せめてSNSで繋がる事をお許し頂けないでしょうか?」

 ウェアウルフがおずおずと申し出ると、魔王は目をまん丸にして、ぽんっと自らの額を平手で叩いた。

「うむ! そうか、その手があった!」

 




 ツヨシは一人の平凡な高校生。今日も大した事件など起きず、一日が過ぎる。

 学校で流行っていた都市伝説も新しいものに切り替わり、噂のあったマンションの通販好きな住人は引っ越した。

 しかしツヨシは退屈してはいなかった。密かな趣味が出来たからだ。

 趣味の一つは、大好きなファンタジー小説を書く事。片角の魔王と四人の勇者達が迷宮で繰り広げる、超絶怒涛のハイスペックバトルは、我ながら中々の出来である。

 もう一つの趣味、と言うか日課になりつつあるものは……。


【まおう:こんばんは。】

【ツヨシ:こんばんはー】 

【まおう:お知らせです。都内に引越し先が決まりました。】

【ツヨシ:おおー! どこですか?】

【まおう:◯◯駅の近くです。落ち着いたらまた連絡します。】

【ツヨシ:遊びに行ってもいいって事?】

【まおう:はい、勿論です!】

【ツヨシ:やった! またみんなに会える!】

【まおう:皆も楽しみにしています!】

【ツヨシ:ちょっと待ってて、空いてる休み確認します】


 そう書き込んですぐ、ツヨシは寝そべっていたベッドから急いで起き上がった。片手に携帯電話を持ったまま、学校の予定表をカバンから引っ張り出し、家族や級友との予定も思い出しながら、完全に空いている日を見つけて書き込み、魔王へ送信した。


【まおう:ではその日を楽しみにしています。おやすみなさい。】

「はい、おやすみなさい……っと」

 最後の返事を書いた後、ツヨシは歓声を上げたい気持ちを抑え、無言で小躍りしながら静かに喜びをかみしめた。

 この数ヶ月間ツヨシは、魔王達の存在の秘密を守りながらSNSで交流を続けていた。その口の固さは今や、堅物で慎重派の黒魔女にでさえ信頼出来ると言わしめたほどだ。


「あーもう! 早く会いたいなぁ!」

 早くみんなと会って、また大騒ぎがしたい。次に遊びに行った時には、迷宮の中を自分の足で歩き回ってやる。


「何たってこの俺は……」 


 何たって自分は、魔王や勇者やモンスター達と仲良しになれるスキルを持った、チートな異世界転移高校生、なのだから。

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