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異世界転移高校生 前編

 平凡な高校生・ツヨシの通う学校には、ある噂が流行っていた。

 とある高層マンションの十二階の、ある一室のドアが異世界と(つな)がっているというものである。

 その部屋に宅配業者の配達員が訪れ、そこの住人と荷物の受け渡しをしたのだが、帰り際に振り向くとドアが消えていたという。

 また、その部屋に入ってしまうと、異世界に行ったっきり帰って来られなくなるそうだ。

 

(異世界かぁ……いいな~)

 その日ツヨシは下校途中の通学路を一人で歩きながら、ぼんやりとその噂話を思い浮かべていた。

 (おり)しもツヨシの愛読書は、平凡な高校生が異世界転移して冒険する(たぐい)のライトノベルで、『異世界』と言うものに対して、強い憧れを抱いていたのである。

(やっぱアレかな……いるのかな……エルフ美少女)

 清楚で可愛くて優しくてスタイル抜群なエルフ美少女、ぱっと見で同い年。ちょっとドジで意地っ張りで寂しがり屋だけど、敵と戦う時はとんでもなく強い。しかも一途。そういう娘と運命的に出会っちゃって、一緒に冒険して、やがて相思相愛に……。そう思い浮かべたら自然と口元がだらしなく緩む。

 

(ドア開けて入るだけってのが物足りないけど、トラックに()かれるよりはいいよな、うん)  

 痛いのは嫌だから、死亡&転生よりは転移の方が理想的だ。神様からのお詫びでチートスキルを貰えるのは魅力だが、赤ん坊から始めるのはちょっとたるい。

(まぁどっちにしろテンプレ通りなら、最強ステータスとか、現代知識で無双とか、女神に愛されちゃうとかでいい感じになるだろ)


 そんな事を考え、一人でニヤニヤと笑いながら、とあるマンションの前を通りかかった、その時である。

 目の前に宅配業者の車が止まり、小さな段ボール箱を手にした配達員がマンションの中へ入って行く。段ボール箱には『ニコ安ショップジャパン』のロゴがはっきりと見えた。

(あれ、そういえば……)

 様々なバージョンで語られる噂話の中に、配達員はニコ安の通販商品を届けた、というくだりがあったのを思い出す。


「……っ」

 咄嗟の勢いで、ツヨシは後を追った。 

 配達員が乗り込んだエレベーターに続けて駆け込むと、十二階のボタンが押されたのを見て心臓が跳ね上がった。


(こっこれってマジかも!?)

 配達員の怪訝そうな視線に気づき、慌てて十一階のボタンを押す。

 やがて十一階でエレベーターから降りると、ツヨシは大急ぎで非常階段めがけて走り出した。階段を駆け上り、十二階の通路へ、そっと顔を覗かせてみる。

(間に合った!)

 配達員がこちらに背を向け、突き当たりにある角部屋のインターホンを押しているのがバッチリ見えた。少し間があってドアが開き、中から人が現れ、荷物の受け取りをした様だ。


「じゃ失礼しまーっす」

 軽い調子の挨拶が聞こえ、配達員が回れ右をする。気づかれない様に階段に一度引っ込み、配達員がエレベーターに乗り込むのを待って、ツヨシは角部屋へと小走りに近づいた。

 ところが……。


(……うーん。やっぱ違うんかな……)

 ドアの前で立ち止まったら、急に興奮が冷めてしまった。今見た様子からは、特に怪しい所は感じられない。配達員が普通に会話していたから、中の住人も変な奴ではないのだろう。

 第三者から見れば、怪しくて変なのは自分の方だ。


(……何やってんだ俺。帰ろ…………えっ?)

 我に返って回れ右をしようとした瞬間、目の前でドアが白く(かす)み始めた!

(えっ?……えっ!? 何これ!? きっ消えかかってる!?)  

 慌ててドアノブに手を掛け、ドアを開けて中に入ってしまった。

 誰もいない。心臓がやたらバクバクする。本来ならば確か犯罪行為の筈だ。だがこのドアは確かに消えようとしていたのだ。現実にはあり得ない事が間違いなく目の前で起こったのだ。


(ど、どうしよう)

 思わず入ってしまったものの、消えようとしていたドアをくぐった自分は、一体どうなってしまうのか不安であった。こうなったらこの部屋の住人を見つけ、謝罪を兼ねて話をするしかない。


「す、すみませ~ん」

 返事は無い。しかしこのまま待っていても(らち)が明かない。

「ごめんなさい、お邪魔します!」

 玄関でスニーカーを脱ぎ、片手に持って部屋に上がる。小洒落たワンルームだ。変なところは無いし、掃除が行き届いている。奥にある引き戸が少し空いていて、その向こうから声が聞こえた様な気がした。


 引き戸を開けて中に入る。廊下が続き、途中にキッチンがある。その奥にも更に部屋がある様だ。意外と中が広い。

 声の主は何処にいるのだろうか。ツヨシは奥へ奥へと進んで行った。廊下の先に(ふすま)がある。そーっと開けて中に入る。

 和室に出た。これまた結構な広さだ。祖父母の家と似た様な、完璧な和室である。

(ん?)

 和室にもう一つ襖がある。ちゃぶ台を横切り開けてみた。

「えっ!?」


 和室の外には、ギョッとするほど見慣れない光景があった。見渡す限り、青く光るブロックで出来た壁や天井が広がり、真正面の遠く離れた所に黒光りした大きな門が見える。

(な、何ここ?)

 呆気にとられながら足を踏み出した途端、靴下越しのヒンヤリとした感触に驚き、慌ててスニーカーを床に置いて足をねじ込む。

 改めて辺りを見回しつつ、おっかなびっくりブロックの床に進み出た。


「ひゃー……マジで何なのここ……?」

 予想外の展開に不安を忘れ、独り言を呟いた。見れば見るほど、お馴染みのアレに似ている。子供の時からハマりにハマった、RPGゲームの世界だ。そう思うと気分が一気に盛り上がった。


「ヤベーマジで異世界じゃん……来ちまったよ! 本当に来ちまったよ!!」

 叫びながら跳ね回りたい気分にかられ、ツヨシは奇声を上げて万歳ジャンプをし始めた。

「ヒャーッハッハァー! ! やった! やった! やったぁぁー!!」

「あの……」

「俺は来たんだぁー! 異世界に来れたんだぁー!!」

「もし……」

「ただの都市伝説じゃねぇー! 本当にあったんだぁー!!……って、ん?」


 遠慮がちな呼びかけに気付き、振り向くと、すぐ目の前に青黒い肌に真っ赤な目をした凶悪な顔があった。ツヨシの二倍以上はある体。真っ黒な髪がザワザワと(うごめ)き、頭には片方だけの角。

「どちら様ですかな?」

 意外な程に穏やかな声を聞きながら、ツヨシはそのまま気絶した。



 

「……で……だ?」

「……む……れが……のう」

「……だいじょ……かしら?」 

「頭を打っ……ければ……良い……が」


 頭上で何人もの人間が何か喋っている。その声がうるさくて、気絶から覚めたツヨシは身じろぎしながら唸った。

「ゔ…… ゔゔ……」 

「あ、気がついた様ですよ!」

(さっきから何だよ、うるせーなー) 

 しかめっ面で目を開けたツヨシは、自分が五人の人影に囲まれているのに気付き、ガバッと上体を起こして叫んだ。

「うわあああああっ!?」

「おい、落ち着け!」

 パニックになりかけたツヨシの両肩を掴み、声を掛けたのは、まるで映画に出てくる様な金髪碧眼のイケメンだ。ツヨシはその声の迫力と鋭い眼光に怯えながらも、(あれ、この人日本語上手い?)と考えた。


「フレデリク、怯えているわ。逆効果よ」 

 イケメンの横から今度は女性が顔を覗かせた。細い糸の様な綺麗な銀髪、青っぽい紫の目、透明感のある色白な肌の整った顔、尖った耳、紫色のヒラヒラした服を着た細い体。とにかくもう、無茶苦茶に美人で、その上どう見てもエルフである。


(銀髪エルフだぁぁぁぁ!!)

 その途端、ツヨシの脳内から恐怖が吹っ飛び消え去った。ついでに目が輝きだして鼻息が荒くなり、気絶前の盛り上がりが蘇る。

(はい来た来た来ましたぁ! ヒロイン登場ですよ! えーとっ他にはっ!?)

 気持ちに若干の余裕が生まれ、自分を囲んでいる者達を見る。金髪イケメン、茶髪で同じ歳くらいの大人しそうな兄ちゃん、十歳くらいのチビ、さっきの超怖い顔のおっさん……と言うより多分、魔王?

 女キャラ少ないのが残念だが、よく見ると、全員自分に対して(ひざまず)いているではないか。見るからに強そうなイケメンも、それより更にゴツくて大きい魔王でさえも、だ。

 その事に気付いた瞬間、ツヨシの脳内に素晴らしいタイトルが爆誕した。


『ツヨシの最強伝説 チートでゴメン!~異世界に行ったら魔王と勇者がいきなり俺に跪いているんだが原因が分からない~』


(ちょっ、ヤベェ俺、タイトル付けんの上手過ぎだろ!)

 ツヨシは脳内観衆のスタンディングオベーションを受けながら、これからの異世界ライフをアニメのPVの様に妄想し始めた。チラッと銀髪美女エルフに目をやる。

 やっぱりもう数人、女の子がいないとな。


(この人は清楚系だから、そうだな、クールなおねぇ様とか、セクシーな天然ちゃんとか)

「何事ですか魔王様!」

「どぉしたのお~?」 

 嘘みたいなタイミングで理想通りのキャラがやって来た。絵に描いたような魔女の格好をしたクールな美女と、巨乳で露出度高めなレザーアーマーを着ている癖に可愛い系の美女である。後者の方は黒い羽と悪魔の様な尻尾が生えている。その夢の様な展開にツヨシは思わずむせた。

「ぶほっ!」

 まさか、サキュバス!?……と目を剥いていると、彼女の方から笑顔で近づいてくるではないか。

「この子だぁれ~?」

 マゼンダ色の瞳に至近距離で顔を覗き込まれ、囁く様に「お名前は?」と質問されたので、ツヨシは激しい動悸と茹だりそうな微熱を堪え、震え声を精一杯出し切って、

「ツヨシ──たっタダツヨシ!!」

 と、洋画などでよく見るかっこいい名乗り方をやってのけた。

 ……少し噛んだけど。

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