目的地に着きました。
列車は降りる予定の駅に到着した。
一斉に開いたドアから乗客が降りて行き、魔王達もその後に続いた。入れ違いに、ホームで列車を待っていた人々が次々と車内へと乗り込んで行く。
魔王一行は何となくその場に佇み、次の駅へと走り出す列車を見送った。
階段を上り改札を抜け、駅の外へ出た魔王達は、再び冬のひんやりした空気に晒された。吐く息が白い。
駅の周辺には綺麗な建物と舗装された道路があるのだが、出発地点の都市の様にごちゃごちゃとひしめき合った様子はなく、どことなく閑散とした雰囲気が漂っていた。
「宿の近くまで行くバスがあるので乗りましょう」
クロエが下調べしたメモを見ながら言うと、魔王が地図を見ながら口を開いた。
「それも良いが、歩いてみぬか? 見たところ、然程遠くも無い様じゃ」
「そう仰るのならば、私には異論は御座いませんが……皆さん、それでよろしいですか?」
「おう、いいぞ。座ってるばかりで退屈していた」
「そうね、歩きながらの景色がもっと見たいわ」
「防寒装備は十分ですし、ね」
「おいらも賛成でーす」
「あたしもいいよお」
全員が賛成したので、クロエは納得して頷いた。
「分かりました。でも、疲れたとか、足が痛いと感じたら、すぐに言ってね」
地図を見てみると、温泉旅館へたどり着くには、市街地の真ん中を突っ切る道路をただひたすら歩いて行くだけで良いらしい。歩道には薄らと雪が積もり、時々足を取られたが、もともと体力のある彼等にとっては全く苦にならないものであった。
駅前の小綺麗な建物や古くて小さな商店街、一戸建ての家が並ぶ閑静な住宅地。それらを物珍し気に見回しながら、魔王一行はひたすら歩き続ける。
ふと、途中に風変わりな建物を見つけた。
大きな石で出来た、見た事のないオブジェが門の様に入り口に立てられており、奥に道が続いている。道の先には木で出来た重厚な建物が建っていて、開かれた戸の上部手前に大きな鈴と綱が垂れ下がり、その真下には大きな木の箱が置いてある。
「これは神社ですね」
クロエが眼鏡をくいっと上げてそう言うと、魔王は神妙な顔つきで頷いた。
「うむ。是非とも御参りをさせて貰おう」
魔王が勇者達に簡単な説明をしてから、一行は神社の鳥居という物を一礼しながら潜った。途端にカルナードが反応を示す。
「ここの場には特別な力が感じられますね。神様の御住まいというだけあります」
参道と言う道を進み、途中の手水舎と言う所で手と口を清め、賽銭箱の前に並ぶ。それぞれが硬貨を一枚取り出し、手から滑らせる様に賽銭箱に落としたら、魔王が代表して鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼。
(異世界の迷宮から来ました、バラサークと申す者です。通りすがりですが御挨拶させて頂きます)
魔王はそんな事を思い浮かべ、一礼をした。
その後はおみくじを引き、魔王は大吉、他の者は中吉や小吉で、フレデリクだけが大凶を引いてしまい激しいショックを受けていた。
落ち込むフレデリクを慰めながら神社を後にする。
「おいこれリカバリーポーションじゃねえか?!」
道中で喉が渇き、缶ジュースを開けて飲んだフレデリクが叫ぶ。出発駅構内の店で買ったジュースで、赤っぽい色の缶の表面にはDr.何たら……と書かれていた。一口貰ったサフィアが驚きの目で缶を見る。
「ほんとだ……しゅわしゅわするけど、味がそっくり」
「あっ懐かしいわこれー飲んでみ?」
「リカバリーポーションですか。随分御世話になりましたものね……おおっ確かに似ています!」
「そんなに似ているのぉ?」
「マジマジ。サキも飲んでみ」
タルケットが缶を差し出すと、サキは受け取って口をつけた。
「えー……うーん?……よく分かんない。クロエ分かる?」
サキから「はい」と手渡されたジュースをクロエが一口飲む。
「……んん? ごめん、分からないわ」
「ほんとに似てる~?」
「お前等、勇者舐めんなよ……こちとら利きポーション出来るくらい飲んどるわ。間違いなくリカバリーポーションだぜ、ロークラスの一番安いやつ。それとカルナードの『回復』を合わせるのが定番な。ハイポーション使うよりは経済的なんだ」
「……まぁ、装備薄で所持金が少ない頃は、低位の術と合わせると回数稼げましたからね……」
「みんな始めっから強かった訳じゃないし、お金も魔力も無限じゃないからね。わたしも修業時代は良く飲んでた」
「おいらも駆け出しの頃は手放せなかったなぁ~」
そう呟いてタルケットが遠い目をすると、フレデリクも感慨深げに頷いた。
「俺もだ。手に入り易いから重宝したな」
勇者達の会話を聞いて、サキとクロエが顔を合わせる。
「……あたし達、ポーションそんなに飲まないからなぁ……」
「魔王軍の回復アイテムは違う物だしね」
「ほー、魔王軍さん達は回復に何使ってたんだい?」
「竜血樹から採れた真っ赤な樹液の薬とかぁ」
「蛇を乾燥させて粉にした滋養強壮薬とか」
「弟切草の傷薬とかもあったよねぇ」
血の色だったり不気味なイメージのある薬……。
「……随分と形から入ってたみたいだな……」
タルケットが真顔でそう言うと、魔王はちょっぴり恥ずかしそうに顔を赤くし、「お前も飲むか?」と差し出された缶を受け取って一口飲んだ。
口の中に弾ける様な刺激が来て、その後に複雑な味と香りが広がっていく。
「……うむっ甘いっ」
それからまたしばらく歩き続けると、家が疎らになって平地が広がり、その遥か遠くに雪を被った山々が見えた。雲一つない真っ青な快晴の空に映えるその景色に、魔王達はしばらく見入った。
更に進んで行くと、道はやがて上り坂へと変化した。そろそろの筈、とクロエが先頭に出て坂を進んで行き、視線の先に目的の物を見つけた。
「あっ皆さん、見えてきました! あれが今夜泊まる宿です!」
クロエがやや興奮気味に声を張り上げ、坂の上にある建物を指差す。それは黒い瓦風の屋根と白い外壁で、形を大雑把に表現するとすれば、まるで時代劇ドラマに出て来た商人の屋敷を、より大きくして二階建てにした様なものだった。
「おー何かすっげぇ」
「とうとう着きましたね」
松の木や竹が植えてあるアプローチを通り、魔王達は旅館の正面入口へと向かった。




