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出発の準備です③

「フレデリク・ソード。年齢二十三歳。何処の国の人?と聞かれたら、『◯◯◯◯人』と答える事。仕事は?と聞かれたら、『西洋剣術のコーチ』と答える事……って何だこれは?!」

 ホワイトボードに書かれた自分の『設定』を読み上げて、フレデリクが顔をしかめた。直後、すぐ側で見守っていたクロエを睨み、噛み付く様に叫ぶ。

「全く意味が分からんぞオイ!」

 

 クロエは全てを予想していたかの様に薄く微笑み、くいっと眼鏡を上げて頷く。

「剣士だから覚え易く、ソードにしたのだけれど……流石最強の剣士フレデリク。INTの低さではパーティー内でダントツね」

「テメェ今さらっと失礼な事言ったよな!?」 

 また始まった……とカルナードが溜め息をつき、仲裁に乗り出そうとしたが、背後からタルケットに止められた。タルケットは落ち着き払った態度で、のんびりとフレデリクに声を掛ける。


「フレデリク、一体どこが分からないんだ?」

「どこがって、ほぼ全部だ。ソードなどという名は知らん。俺はただのフレデリクだ。国の名前も知らん。恐らくこの大陸の何処かだ。仕事? コーチ? どう言う意味だ。俺はコーチと言うものなんぞしておらん」

「おいおいフレデリク。これは異世界で上手くやる為の設定だって聞いたばかりじゃねぇか。向こうにちょっくら行って安全に帰って来る為の、一時の仮の姿なんだよ。所謂お芝居みたいなもんさ。お前だって芝居くらい見た事あんだろ?」

「うむ……」


「わたしは理解したわ」

 サフィアが会心の笑みを浮かべフレデリクを見上げた。

「私はサフィア・オールデン。……姓はお師匠さんのね。年は二十二歳。×××系△△△△人。仕事は神秘学研究者」

 サフィアは女帝の姪と言う訳ありの立場なのだが、それを知らない彼女は自分を孤児だと思っている。彼女を育てたのはエルベダス・オールデンと言う賢者で、サフィアはその賢者をお父さんとは呼ばず、親愛の情を込め「お師匠さん」と呼んでいるのであった。

「なりきれば怪しまれずに異世界に溶け込めて、向こうの様々な物を存分に見聞き出来る!」

 そう言うとサフィアはにっこりと微笑んだ。


「私も覚えました。カルナード・パスカーシュ、18歳。♢♢♢♢人。実家が教会でその跡継ぎ。……私のは余り違いが無いので助かります」

 カルナードは赤子の時に木の根元で発見され、彼を保護した聖職者の家で育って来た。その聖職者の姓がパスカーシュだ。なので他の三人と違い、一応ファミリーネームがある。


「次はおいらの番だな。……さっきはさらっと見ただけなんでねぇ。今から詳細を読むんだわ」

 タルケットが余裕の態度を見せ、フレデリクを煽る為に片目を瞑り、ニヤリと笑ってみせた。

「見てなフレデリク。あっという間にモノにしてやるからよ。どんなお題を出されても全問正解出来るくらいにな。……おいらはタルケット・シーフ。年は…………はぁっ!? 十歳!? おいちょっと待てっ!! これは一体どう言うこった!?」

「しょうがないでしょう? 貴方の外見は子供なんだもの。異世界では子供で通すしかないわ」

 クロエが腕を組んだまま片方の手を上にあげて肩を竦める。タルケットは余りの事に口をぱくぱくさせ、皆を見回した。皆は気まずそうに目を逸らす。 


「どんなお題を出されても、あっという間にモノにしてみせる。ここは大盗賊の腕の見せ所なのではなくて?」

 クロエにそう言われ、タルケットは「ぐっ……」と言葉に詰まる。それから急に俯いて溜め息をつくと、片方の口角を上げた不敵な表情で顔を上げ、腰に手を当てた。

「……いいぜ……やってやろうじゃねぇか。タルケット様が抜群の演技を見せてやる……」

 そう宣言するとタルケットは、一瞬で表情と声色を変え、元気に自己紹介を始めた。

「僕、タルケット・シーフ! 年はね、十歳! フレデリク兄ちゃんの従弟なんだ! パパが◯◯◯◯人、ママが日本人だよ!」

 

 その様子は正しく子供そのもので、見ていた魔王達からは「おおっ!?」と驚きの声が上がった。

「ねーフレデリク兄ちゃん、また剣術ごっこしようよー。あっ! 僕、勇者役だからねっ悪者めーやっつけるぞぉーそれー喰らえぇぇぃっ(・・・・・・・)

 最後の「喰らえ」と言う台詞をドスの効いた地声で放つと、タルケットは素早くダガーを抜き、フレデリクの死角に回り込んで一撃を振り下ろす。フレデリクは近くに立て掛けてあった己の剣を反射的に掴み、タルケットの攻撃を受け止めた。


「……うむ。気持ちは解るぞ、タルケット」

「おお……! ありがとよ!!」

 至極冷静に応じたフレデリクに鬼気迫る顔でニヤリと笑い返し、タルケットは納刀しながらフワリと飛び退った。それからすぐに吹っ切れた様な表情を見せ、肩を竦めながらこう言った。

「……まぁしょうがないってんなら、しょうがないね。おチビさんを演じてやるぜ、クロエ」

「ありがとう、タルケットさん」

「おやおや、駄目だろ? おいらは今からタルケットと呼び捨てな。タルちゃんでもいいぜ」

「ええ、分かったわ。タルちゃん」


「はーいっ! じゃあ僕、向こうでゲーム見て来るねっ」

 再び子供に転じたタルケットは、朗らかに片手を上げ、和室の方へとトコトコ歩いて行った。残された者達は安堵の溜め息をついた後、一斉にフレデリクを見た。 フレデリクは苦み走った顔つきで腕組みをしたまま頷き、特に抵抗する様子も見せず、己の『設定』を暗唱した。

「……俺はフレデリク・ソード。二十三歳。◯◯◯◯人。仕事は西洋剣術のコーチ。タルケットは俺の年の離れた従弟だ。……タルケットがプライドを捨てたのだ。俺も素直に従おう」

「……よくぞ言ってくれた、剣士よ!」

 魔王は感極まった様子で何度も頷いた。

何やら突然、新たな人物の名前などが出て参りましたが、話の流れで書かざるを得なかっただけなので、あまりお気になさらず流して下さいませ。

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