プロローグ 激戦の幕開け……?
「愚か者!」
魔王バラサークは深紅の目をぎらつかせ、腹の底に響く重低音で怒鳴りつけた。
「時機尚早なり! 手を引け剣士フレデリク!」
「引かぬ! 俺は俺のやり方で通すまでだ!! 止めても無駄だぞ魔王っ!!」
ある世界のある時代。
自然豊かで文明の栄えし大陸、その名をアールトーチ。
邪悪な魔王バラサークによって蹂躙され、荒廃したかつての面影は消え去った。
魔王の迷宮を踏破し地上に戻って来た四人の勇者達は、取り戻された世界の平和を見届け、各々の暮らしに戻って行った……筈だった。
しかし今再び魔王と彼等は、迷宮深くに存在する最終決戦の間と称された場にて、ただならぬ緊迫した空気の中で対峙していたのである。
「魔王よ、繰り返し言う。俺は引かぬ!! どんな事があろうとも!!」
肩迄の金髪に鋭い青い目を持つ剣士フレデリクは、魔物をも退かせる気迫でバラサークに真っ向から立ち向かう。
その手には鋭く尖った二本の、針の様な得物がしっかりと握られていた。如何なる武器や道具でも瞬く間に使いこなす最強の剣士フレデリクは、その得物を頭上高く掲げ、魔王を威嚇してみせるのであった。
対する魔王は恐ろしい気迫を纏っているにも関わらず、守りに入ったようである。片手に持った物は丸い盾に見えた。それで剣士の攻撃を防ごうとしているかの様だ。
両者の気のぶつかり合いは拮抗していた。
「剣士よ! まだ早いと言うのが分からぬか? お主のやり方は通じぬと、何度言うてもその頭には届かぬと言うのか!?」
「何度言われようと俺の心は変わらぬ! お前こそ劣勢ではないか? 既に俺から何度も隙を突かれているではないか!」
「だから愚かだと言うのだ未熟者! 命を落としても文句は無いな!?」
「大袈裟な物言いだな! そんな事で俺は命を落とさん!」
フレデリクが剛毅な風格を滲ませ一笑に付す。その目は一点の曇りも無く、底知れぬ自信に満ち溢れていた。
「ええい分からず屋め!」
バラサークは勢い良く土鍋の蓋を被せ喚いた。
「まだ煮えてない具を食うのは止めよと言うとるのじゃ!!」
現在三月末。今回の話では勇者達の世界は冬。
季節がずれてますが、何卒御容赦を。
本当は冬のうちに出したかったんですけどね……寒いの苦手なんです。