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3色アイドルプロデュース  作者: 番通 定男
7/12

選択の春


ーー事務所内の会議室ーーーー


「はい、じゃあ次の方どうぞ」


 声をかけて次のアイドル候補生を招き入れる。

 

 まだスタートして数人しか見ていないが、どの子も魅力があって素直そうないい子ばかりだ。さすが養成所に通っているだけあって、対策も完璧と言ったところだ。


 大まかだかチェックするのは3点だ。ルックスに関しては書類審査で既に済ませている。


・歌唱力


・ダンス


・コミュニケーション能力


 歌唱力とダンスについてはよく言われることだけど、俺が注目したいのはコミュニケーション能力だ。


 『話が上手いか』ではなく、ここでのコミュニケーションは要するに『人に好かれやすいか』だ。


 アイドルとしてやっていくためにはファンの存在は不可欠だ。


 歌やダンスで人を惹きつけることもできるが、『本当のファン』を持つためには人として好かれることが必要だ。何があってもついてきてくれるようなファンを持つことが、アイドルとして一番大事だと俺は考えている。


 そのためにオーディションでも、人間としての魅力があるかを重視して面接を行う。


 まあ飛び抜けた才能を持っていて、ぶっちぎりの人気を誇っているアイドルはもちろんいる。でも、これはかなり稀なことなので参考にしてはいけない。


 とまあ、そんなわけで一応事前に選定基準を作って俺もオーディションに挑んだわけだ。


ーーところがいざ始まってみると、これは全く役に立たなかった


 なぜなら、どの子も応対がしっかりしていて『面接用のキャラ』なのかが見抜けないからだ。いわゆる『猫かぶり』かどうかがわからない。


 アイドルになってから、実はヤンキーでしたとか言われても困りものだ。そんな子は新人の俺では手に負えないし、仕事先で問題を起こしてしまう可能性がある。


 『信じて送り出したアイドルが、先方をぶちのめしました』とかどんな格闘ゲームだよ、世紀末か。


 歌やダンスに関しても全員が上手いのは、素人の俺から見てもわかる。動きの速さやキレが簡単に真似できるようなものじゃないからな。


 しかし去年まで俺が見ていたアイドルたちのように、心を動かしてくるような子は誰1人いない。なんというか感情が伝わってこないのだ。


 『本物』のアイドルのパフォーマンスは、歌詞やダンスに込められている思いがストレートに伝わってくる。


 これは困った。


 もうぶっちゃけてしまうと全員が80点をキープしている状態だ。連続して面接しているせいもあって、全員が同じに見えてくる。


 この中から少なくとも1人は選びたいのだが、俺の経験も圧倒的に足りていない。


 愛ちゃんも完全にテンパってしまって、さっきからペンをポロンポロン落とすだけの機械になっている。やはり俺がこの中から選び抜かないといけない。


 このままピンとくる子がいないのは勘弁してもらいたいところだ……

 

”し、失礼します”


 ん? 入室した女の子の声が震えている。これまでの子はみんな、自信のありそうな様子だったから妙に気になった。


 俺は思考を止めて、意識を目の前に戻した。


三春(みはる) (さくら)です! よ、よろしくお願いします!」


 さっきお守りを拾ってくれた少女だった。


 見覚えがあると思っていたが、オーディションを受けていたのか。というか候補者のプロフィールを熟読していたはずなのに、俺はなぜ気がつかなかったんだ……


 ちょっとボケが入ってきているのだろうか……今度から魚もしっかり摂るようにしないとな。カレーもいいとかってどっかで聞いたな。しばらくは魚カレーでいこう。


 ……っと、今は目の前の少女についてだったな、特徴に関しては完全に思い出したぞ。


 『三春(みはる) (さくら)』、髪はセミロングでパーマをあてている、ちょっと茶髪気味だろうか。サイドテール気味のポニーテールがよく似合っている。美人というよりもかわいい系の顔立ちだ。


 スタイルも女の子らしく、チャームポイントは『笑顔』だそうだ。クラスの男子達に人気が出そうなタイプだ。高校の時の俺なら惚れてるな、間違いない。

 

 それにしても”あがって”しまっているな。


 顔は赤く手足の動きも忙しい、まるで隣にいる愛ちゃんだ。愛ちゃんの表情が全く変わらないのは、せめてものプライドなんだろうか……


 とりあえず少しでも落ち着けるように、声をかけていってみるか。


「はい、よろしくお願いします。ではそちらの椅子に座ってください」

「それと、少し緊張なされているようなので、気楽にしてもらって大丈夫ですよ」


 (自分の中で)最大限のスマイルを少女にプレゼントしてみる。俺の笑顔はプライスレスだが、効果はマックスなはずだ。


「は、はい! 気楽にするようにがんばります!」

 

 少女はガチガチの表情でガッツポーズを作った。言葉使いもおかしくなっているし、明らかに悪化したように見えるんだが……俺のせいだな、ごめん。

 

 こうして、今後記憶に残ることになる、波乱の面接が開幕した。

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