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3色アイドルプロデュース  作者: 番通 定男
4/12

敏腕秘書が登場?


ーー事務所ーー


 コンコン……


 俺が1年ぶりのポーズ決めを楽しんでいると、ふとドアをノックする音が聞こえた。あまりに暇すぎて新ポーズの開発中なんだ。


 それにしても一体誰だ? ウチの事務所はいわば絶海の孤島、社内で最も入り口から遠い場所にある。


 訪れてくる人はほとんどおらず、たまーにレッスンの先生が様子を見に来てくれるぐらいだ。いつもありがとう。


 お土産に”ヨクスベール”とかいうラムネを持ってくるのだけは絶対に許さない。せめて”オモシロクナール”の方を買ってきて欲しい。ちなみに味の方はメチャクチャ普通だ。


「はい、どなたでしょうか?」

「初めまして、千堂(せんどう)と申します。今日からこの事務所で働かせていただくことになります。」


 ガチャっと開けたドアの向こうに立っていたのは、黒縁メガネをかけたスーツ姿の女性だった。


 キューティクルのある長い黒髪が印象的で、お偉いさんの秘書って感じの人だ。スタイルもシュッとしていてかっこいい。


 ぺこりと礼儀正しく挨拶をしてくれたが、こんな美人さんが来るだなんて全く想像もしてなかったから、”あっ、ど、どうも……”とどもってしまった。思春期の中学生かよ……もともとは人見知りをするタイプだから、とっさの反応がこうなってしまうのは悲しいことだ。


 っとそれよりも、ウチの事務所に人が来るというのは初耳の話だ。


 実質俺は左遷されたようなものだし、この会社が人材を送ってくるとは思えないんだが……もしや、新手の詐欺か? ここからウォーターサーバーの契約とかが始まるんだろうか。


「最初にこれを渡してほしい、と武田プロデューサーから伝えられています」

「武田プロデューサーから……?」


 ”一枚の封筒”を手渡され早速開けてみる。


 ふむふむ、これは人事移動に関する手続き書だ。きちんと印も押されているので間違いはないだろう。


 もしかして武田プロデューサーが千堂さんを派遣するように、上の人達にお願いしてくれたのだろうか……もし、そうならとても助かる。


 アイドル事業というのは思ったより人出が必要だ。


 毎日の活動に関して大量の書類を作らないといけない。アイドルをレッスンに行かせるのでさえ、数枚の書類を会社に提出する必要がある。


 一人でこれをやるのは無理だと思っていたところだから、手伝ってくれる人がいるのは本当に助かる。


 なにより、美人さんが近くにいてくれるのはモチベーションが上がる。息抜きも一人で積み木遊びをするよりも、二人でジェンガの方が100倍楽しいからな。ちょっと希望が見えてきたかもしれない。社内No1ジェンガーの道は開けたも同然だ。


「書類の方、承りました。僕の名前は柊 佑助です。これからよろしくお願いしますね」


 一人称が”僕”なのは、相手が目上の人の場合だ。アイドル業界は上下関係になかなかうるさいから、使い分けをきっちりしないといけない。


 千堂さんは多分同い年ぐらいなんだろうけど、オーラ的にはどう見ても俺の方が下っ端だ。とりあえずは媚び媚びのスタンスでいくつもりだ。


 ちなみに、一人称の使い分けについて教えてくれたのは武田プロデューサーだ。ゴリラみたいな見た目をしているあの人が僕呼びしている場面を見ると、どうしても笑いがこらえられなくなる。


 とりあえず、できる限りの笑みを浮かべて親しみやすいイメージを出していく。


 『第一印象は大事』これも武田プロデューサーに教わったことだ。さっきどもってたのは俺じゃない、いいね?


「はい、こちらこそよろしくお願いしますプロデューサー」


 ニコッと柔らかな表情を返してくれる。


 よかった……もしかして頭の堅い人なのかとも思ったけど、感じも良さそうだ。”仕事以外では話しかけないでください”なんて言われたら俺が立ち直るには3年はかかる。


「それじゃあ、とりあえず中に入ってください。このまま立ち話もなんですし」

「では……失礼します」


 事務所内の設備を説明しながら、千堂さんを中へと案内していく。


 ウチの事務所も小さいと言ってもそれは”社内で”の話だ。少人数で使う分なら申し分ない広さはある。会議室も付いているぐらいだからな。


「えっと……こちらの机で書類等の仕事をお願いします。事務作業は初めてですか?」

「はい、今までは受付の仕事をしていたので本格的な事務作業は初めてです」


 ああ、見た目のクールっぽさに反して、雰囲気が妙に柔らかいなと思ってたら受付の仕事をしていたのか。これで色々と納得がいった。


 余っている事務員さんがいなかった分、向いてそうな人を受付から引っ張ってきたわけだ。さすがは武田プロデューサーだ。


「じゃあ、しばらくの事務作業は僕と一緒にやりましょう。最初は慣れないことも多くて大変だと思いますけど、がんばりましょうね」

「お願いします」


 キリッとした表情は変わらないが、明らかに口調にやる気がみなぎっている。


 頼りになりそうな仲間が増えてよかった。大事そうな書類は千堂さんに書いてもらうことにしよう、俺は横文字以外は得意じゃないからな。


ーー今日、ウチの事務所に一人目の仲間が加わった

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