プロデューサーの始まり
ーー芸能プロダクションReStartビル前ーー
ついに……ついにやってきたぞ!
俺はぐっと拳を握って、まるで”アニメの主人公が今から戦いにいくシーン”のような雰囲気を出していく。個人的には、あれは一番かっこいい場面だと思う。
周りの人にバレないように握りこぶしが若干小さいのは許してほしい。いきなり変な子扱いされたらたまったもんじゃないからな。日差しの位置も計算してあるのは、もちろん俺のこだわりだ。
俺のテンションがここまで上がっているのにはもちろん理由がある。普段からこんなことばかりをしているわけではないからな。俺はチキンだから、基本的には誰もいないところでしかこういったことはできない。
まあ、そんな理由についてだが大体の察しはつくんじゃないだろうか。俺は今日から、憧れだったアイドルプロデューサーとしての道を踏み出すことになる。それも、業界ではそこそこ有名なこの会社でだ。
芸能プロダクションReStartは今まで多くのトップアイドルを排出している。俺の憧れだったアイドルも、この会社の事務所に所属していた。
なんでも社名の由来は”アイドルとして第2のスタートを切ろう”というスローガンからだそうだ。最初は”転職会社かよ”ってネタにしてたけど、理由を聞いて今では割と気に入っている。歌とかでも何回も聴いてると、”あれ、この歌意外と良くね?”って思い直すことがあるだろ、あんな感じだ。
願書を書く時にアルファベットで書きやすかったから、というわけでは断じてないからな。漢字やひらがなよりもアルファベットやカタカナのほうが得意なのは確かだ。
俺は、大学の頃から真面目に勉強した甲斐もあって、第一志望のこの会社に合格した。ちょっとしたコネがあったのは、気にせず置いておいてくれ。最後の一押しをお願いしただけだからノーカンのはずだ。
と、とりあえず俺こと柊 佑助は今日から、この会社の一員として働くことになる。しかもいきなりプロデューサーのアシスタントにつくらしい。普通はこういうのって下積みとかありそうなもんだが、それだけ期待されてるってことだろうか。
もちろん全く不安がないというわけではないのだが、それよりもワクワクが勝っている。なんたってここの入り口をくぐると、そこは途端にアイドル達の世界だ。
ずっと夢に見ていた世界が目の前にあるんだからな。色紙もバッチリ50枚は用意している。新米プロデューサーとしての挨拶回り、もといサイン回収タイムだ。
あっ、でも仲良くなったらもっと色んなお願いもできるんだろうか。そう考えるとちょっとテンパってきそうだ。まあその時はその時か。
「ーーよっしゃ!」
頬をぱちっと叩き気合を入れる。
一抹の不安と期待を胸に、俺は大きな一歩を踏み出した。