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俺の力とはじめての戦闘

「やっ、やめてえ!」

俺が女の子の声がするところまで行くと丁度女の子が三人の屈強な男に連れて行かれるところだった。

ギルドの帰り道、大通りからほんの二三本の道を離れただけなのにそこはギルドの熱気とは真逆の、薄暗い陰鬱とした雰囲気だった。

そこには女の子と三人の男以外にもホームレスらしき人物が何人かゴザらしきものの上に寝転がっており虚ろな目をして居た。


「なにやってんだよ!」


俺は三人の男達へ向かって思い切り叫ぶ。


「あぁ!?んだヨ、何で人間様がこんなとこに居んだヨ⁉︎あっちへ行きな!邪魔なんだヨ!」


男の中の一人が俺に話しかけてくる。

よくよく男達を見てみると頭からぴょこんと猫耳の様なものが生え、ご丁寧に尻尾用の穴が空いたズボンを履いていた。

『うわっ、おっさんの猫コスとかメチャキモッ。ドン引きだぜ・・・。』

と思いながらも俺は言葉を続ける。


「邪魔だなんだって・・・その子いやがってるだろ!離せよ!」


俺がそう言うと猫耳男の一人はめんどくさそうに言う。


「こいつのクソオヤジがさあ、しこたま借金抱えてんのヨ、最近まではなんとか利子は返してもらって居たから見逃して居たけどよオ、こいつの母親が怪我してからはなーんにも借金返してないのヨ、もう期限まで一月しかないからさ、身体でそれまでに返してもらおうって訳ヨ。」


「身体でって・・・その子まだ12歳くらいだろ、そんなことしていいのかよ!」


「うちの親分が物好きでヨ、これ位のが一番具合がいいんだってヨ!」


猫耳男達はそう言うと下品な声で笑いはじめた。

女の子はその話を聞くとブルブルと震え出した。


その瞬間、俺は無意識の内に<ミカン>と唱え右手に特大の熟れたミカンを出現させると、女の子を抱えている猫耳男の一人に向かって思い切り投げた。


「へぶっ⁉︎」


俺が投げたミカンは男の顔面にクリーンヒットし見事に中身をぶちまけた。

男は間抜けな声を出すと女の子を地面に落とし急いで顔を拭いはじめた。


「逃げろ‼︎」


俺はそう叫ぶと他の二人の顔面にも熟れたグシュグシュのミカンをプレゼントした。

これで少しは時間が稼げるだろう。


女の子はすぐさま路地裏に走り去り姿が見えなくなった。


「なんだヨこれ!メチャクチャくせえ!」


三人の猫耳男は女の子が走り去ってもまだもがいて居た。

それには理由がある。


俺がこの世界に転生してすぐ、俺は目の前に現れたミカンを食べた。

その時には食ったミカンの品種と特徴だけが頭に入って来たと思って居たが・・・、

どうやら違うらしい。

さっきは無意識でやって居たが俺は【ミカンに関すること】限定で様々な知識を得たらしい。

今の俺はミカンの全品種の名前や特徴、育て方や伊藤家の食卓も真っ青なとんでもないミカンの利用法が頭に入っている。

知識がようやく頭に馴染んだ、と言うことなのだろうか頭の中にミカンが渦巻いているのを感じる。

そうだ、ミカンが俺に求めるのだ。


『俺を使って世界を変えろ!』 と!!!



言わばミカンと一体化した、といっても過言ではない今の俺はどうすれば目の前の猫耳男達を<ミカン>で倒すことが出来るのかを瞬時に判断した。


俺は<ミカン>!と唱え体制を立て直した三人に向かってさっきとは違う種類のミカンを素早く投げた。


「ぐわっ!なんだ⁉︎さっきのよりも一段とくせえっ⁉︎」


他の奴らよりも鼻がいいのか三人のうち一人が気絶した。

俺が今投げたのはミカン科ミカン属のミカンの一種、ネーブルオレンジだ。

このネーブルオレンジはさっき投げた温州蜜柑よりも酸味が強いのが特徴だ。

奴らは見たところネコ科の特徴がある。

俺の中のミカンライブラリーが


[基本的には猫は柑橘系リモネンを嫌います(猫科の動物自体が柑橘系が苦手で逃げていきます)。忌避剤にも柑橘の香りが使われます。]


と俺に教えてくれる。

エレナさんの反応を見る限りはミカンはそう世の中に出回っていないはず、奴らにリモネンに対する慣れはないはずだ。


「クソがあっ!」


猫耳男の残りのうち一人が復活したらしく腰に差して居た短刀を抜き俺に向かって走ってくる。


俺は落ち着いて俺が求めるミカンを想像し呪文を唱える。


「<ミカン>!」


すると俺の掌にひんやりとした野球ボール大のものが現れる。


ミカン科ミカン属のグレープフルーツだ。

しかもカチコチに凍っている。


俺はそれを迫ってくる男に向かって思い切り投げた。

ブオンと風の切る音がしてグレープフルーツは男に向かって飛んでいく。


「はや・・・」


男の鼻にグレープフルーツは直撃し嫌な音がなる。

男は何かを言いかけたがそれを言うことはできず膝から崩れ落ちた。

男が倒れたところにスーッと血だまりができる。


「ひいっ!」


残った最後の猫耳男は情けない声を上げながら走り去っていく。


俺はその男が走り去っていくのを突っ立ったまま見送って居た。


「俺は・・・なにをしたんだ・・・?」


俺は呆然としながらそう呟く。

そこには俺と、倒れた屈強な猫耳男が二人、

そして鉄くさい血の香りと柑橘系のほのかな香りが混じったなんとも言えない匂いが立ち込めて居た。


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