異世界のギルド!
まあ、そんなこんなで俺はこのエクシア行商店で働くことになった。
契約はこうだ。
一つ、一日ミカン百個を提供する。当店はそれに対して30000ブロンを対価として払う。
二つ、その他に一日、7時間の労働をする。
これだけだ。
まあ、細かい取り決めなんかもあったんだが
どんなホワイト企業だよ!ってくらい真っ白な労働環境だったので俺は契約することにした。この労働環境は前世のブラック企業に見習ってほしいくらいだぜ。
ちなみにミカン一つあたりの単価300ブロンは大体三百円、ぼったくりの様に聞こえるが
それだけ俺のミカンに価値があるんだと納得することにした。
一ブロン=一円ということは分かったがどの硬貨が幾らかはわからなかった。
俺はその契約にサインした後、ジョニーさんにギルドに行って身分証を発行してもらえ。
と言って見るからに価値の高そうな金貨を一枚俺に手渡した。
本当にいいのか聞くとこの店で働くのは皆家族のようなものだからと言ってくれた。
前世ではあまり家族の暖かさというものに縁がなかったので思わず少し涙ぐんでしまった。
ギルドにはエレナも着いて来てくれるらしい。
ギルドに危険はないのですかと聞くと、
まあ、君なら大丈夫だろう。と言ったので俺は素直に雇い主であるジョニーさんに従った。
通りにでてエレナとギルドを目指して歩いていると奇妙なことに気がついた。
この村には多種多様な人種の人間が住んで居たのだ。
この事をエレナに聞くとなに当たり前のことを聞いているんだという顔をされたのでそういう場所なんだと納得することにした。
暫く西に向かって歩くとギルドに着いた。
暫くって言ったが、本当に暫く、だ。
持ち物に腕時計がないので詳しくはわからないが大体一時間くらいにだろうか、ずっと歩き続けた。
「なんだか、ハアハア、とても、ハアハア、広い、ハアハア、村だね、ハアハア。」
俺が自分の体力の無さを再確認しているとエレナは
「この国では王都に近い順に王都、街、村、という区分になっているんです!大きさは関係ないんですよ!」
とケロッとした顔で言った。
エレナ曰く体力には自信があるんです!と言って居たが体力どうこうってよりも身体の作りが違うんじゃないか?というくらい俺と体力に差があった。
息を整えながら目の前の建物を見ると言葉を失った。
前世で見た石造りの神殿のような建物には大勢の人がで入りしており、とてつもない熱気が感じられた。
「これが・・・村のギルド⁉︎」
「ええ!でも街や王都のギルドはもっとすごいんですよ!」
そう言うとエレナはギルドの中に入っていく。
人混みの中エレナの姿を見失いそうになったので俺は急いで彼女を追いかけた。
どうやらギルドとは多目的な市役所のようなものらしい。
前世で見た市役所の様に色々な手続きを行っているのが分かった。
「エヒメさん!こっちですよこっち!」
エレナが元気な声で俺を呼ぶ。
人混みをかき分けてなんとかエレナのところへ行くとひと気のない寂れた通路にでた。
そのままエレナに着いて行くと身分証発行と書かれたプレートが貼り付けてあるドアの前にやって来た。
「それじゃあ、私ここで待ってますから!」
「えっ?着いて来てくれないの?」
「個人情報の保護の為に役人のかたと本人しか入っちゃいけないんですよ!」
「はあ、」
変なところだけ進んでるなあ、と思いながらドアを開ける。
すると小さなカウンターに一人のおばちゃんが座っていた。
「・・・いらっしゃい、」
不機嫌な調子で俺に話しかけてくる。
「身分証が欲しいんですけど!」
こういうときは思い切りが大事だ。
おばちゃんは訝しげに俺を見ると手をスッと差し出した。
俺はその手にジョニーさんからもらった金貨を置いた。
「・・・ちょっと待ってな、」
おばちゃんにそう言うとおばちゃんは気だるげに一枚の用紙を取り出し俺に差し出して来た。
「・・・はい、」
「えっと・・・どうすれば?」
するとおばちゃんは小さなナイフを取り出して言った。
「・・・血だよ、血でその用紙に手形をつけな、」
そう言って俺にナイフを差し出した。
「マジか・・・」
俺はそう呟きながらナイフを受け取ると少しためらいながらも思い切って掌を切りつけた。
するとある程度血が出た後にスッと傷口が閉じた。
これが魔法か・・・そう感動しながら俺は用紙に手形を付けた。
すると用紙が光だした。
「・・・終わったよ、身分証はその手だ、切り落とされないよう注意しな、」
そう言うとおばちゃんは自分の作業に戻った。
こんなので本当に終わったのかと思いながらも俺はドアからエレナのところへ戻った。
「お疲れ様です!」
そういうエレナはさっきのおばちゃんに比べると天使の様だ。
エレナちゃんマジ天使。
「なんか態度がわるかったな」
「まあ、あんまり証明書なんて発行することないですからね、他の国から人なんて滅多に来ませんし、登録料も高いですからね!」
「そんなもんか・・・」
そう言うと俺はエレナと一緒にギルドを出た。
そんな高い金を積んでまでどうして俺を雇ったんだ?と疑問に思いながら歩いていると
急に思考が止まった。
路地の裏で小さな女の子が3人組の男に囲まれて居たのだ。
俺は気がつくと女の子の方へ走っていた。
「あれ?エヒメさんどこいくんです⁉︎」
エレナの声が聞こえて来たが俺は無視して走っていた。