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俺のミカンが必要なわけ

「エヒメさん、お父さんは着いて来てもいいって。これからよろしくお願いしますね。」


しばらくするとエレナが店の奥から戻ってきた。

どうやら俺は異世界に飛ばされて3時間で職と住む場所を手に入れたらしい。

何だよこの超展開、TASかよ、ゲームかよ、ご都合主義なのかよと自分の今の状況に心の中でセルフツッコミを入れているとエレナは話を続ける。


「えっと、それじゃあ、商談、始めましょうか。」


そういうとエレナは少し冷めたお茶を一口飲んだ。

つられて俺も一口飲む。

それは苦味とも甘味ともなんとも言えない味がしていたが飲んでいると不思議と落ち着く気がした。


「えっと、エヒメさんのミカンが私たちに必要な理由、説明しますね。」


俺は異世界に転生してから3時間程なのでエレナ達の申し出は願っても無いことなのだが情報は沢山ある方がいい。

俺はそのまま話に耳を傾ける。


「まず、エヒメさんは何処までこのアストレア王国のことをご存知で?」


「えっと、いや何も知らないな。」


「そうですか、まずこのアストレア王国は東には海、魔のソロモン海峡があります。そして南には広大な大森林、北には大きな山脈を挟んで隣国、サダルスード帝国がそして西にはアブルホール共和国があるのです。」


エレナは話を続ける。


「西のアブルホール共和国とは10年ほど前に大規模な領土争いがあり、それからは小競り合いが続いています。この戦争で両国の魔法使いは激減しました。魔法使いは強力です。

一人で剣士100人分の戦力ですからね。

その分、魔法使いは積極的に狙われて今では最盛期の4分の1の数しかいません。」


なるほど、隣国との戦争か。

まあ、俺は魔法使いかもしれないが今のところミカンしか出せない。

そんな奴は役立たずだから戦争に巻き込まれることはないだろう。


「その結果、アブルホール共和国とは国交が断絶。ここまではまぁ、あまり問題はありません。小競り合いは年に一度ぐらいですからね。国境に近づかない限りは危険はないです。」


「そんなわけでアブルホール共和国からは物資のやり取りは無くなりました。今まではそれでも問題はなかったんですけどね・・・、最近になって問題がでてきたんです。」


「問題?」


俺はエレナの目を見ながらお茶を一口飲んだ。


「それは果物の減少です。アブルホール共和国からの砂糖の輸入が望めない今、甘いものはとても貴重なものとなっています。ここ10年は南の大森林から豊富に果物が取れていましたからそれを加工していたので不自由はありませんでした。しかし最近、森で奇妙なことが起きたのです。」


「それは?」


「森の木々が徐々に生気を失っているのです。何故かはわかりません。ただ局所的にポツポツと。しかし、その場所にはある共通点がありました。何かわかりますか?」


「果物の樹・・・?」


「そうです。果物の樹が集まる場所、そこだけが生気を失っているのです。そのため今年の果物の流通量は激減。飢えて死ぬと言う人はいないものの人々は皆、ここ1年果物、というか甘味をあまり食べていません。そこで、エヒメさん、あなたのミカンが必要なんです。貴方は異国の魔法かなんなのか分かりませんがミカンを大量に出すことができる。しかもミカンは異国の果物、目新しさもある。

しかも美味しい。ここまでくればわかるはずです。」


「甘味不足を解消する金のなる木・・・と言うことか?」


「ええ、そうです。悪いようにはしません。

私達と取引、していただけませんか?」


悪くない申し出だ。

三食昼寝付きで生活をする場所も手に入る。

これはかなりのアドバンテージなんじゃないか?

しかもミカンはおそらくタダで手に入る。

こいつはチャンスだ・・・。

だが・・・!


「ですが・・・このミカン、出すのは一日100個までなんだよなぁ・・・。」


俺は残念そうにそう口に出す。

ここまでは素晴らしい展開だ。

だがそれだけ俺の16年の人生が警笛を鳴らす。

『これ絶対ミカン沢山だした後、殺されるだろ・・・』

そうだ、大体の創作物では信用して油断したところをグサリ!っていうのが相場だ。

こんな簡単な罠に引っかかるかよ・・・!


「あれ?でもそこに軽く100個以上の沢山のミカン、ありますよね?」


『しまったああああああ!?』


俺は心の中で絶叫した。

なにが、『へへっ、俺、美少女の涙に弱いんだ』だよっ!

折角今まで知的な感じで通して来たのにいきなりドジってんじゃねえか⁉︎

やべえよ・・・やべえよ・・・


「やっべーわーマジやっべーわー、全身痛ってーわー、超痛ってーわー、魔力不足で身体全身バッキバキだわー、俺の限界一日百個だわー、マジやっべーわー。」


俺はチラチラとエレナさんを見ながら全身が痛いのをアピールした。

『どうだ⁈俺は幼稚園のお遊戯会で主役をやったことがあんだよ!どうだ?いけるか?』

しばらく俺のことをエレナは見つめていた。

俺は冷や汗で学ランの重さが悟空の背負っていた亀の甲羅くらいになるんじゃないか?

と思う位だらだらと汗をかいていた。


「えっ。大丈夫なんですかエヒメさん?すぐにお薬持って来ますね。」


そういうとエレナは店の奥に駆け足できえていった。

『す・・・素直な子だ・・・!』

エレナちゃんマジ天使。

俺は異世界で最初にエレナにあったことを神に感謝した。

だけど頭に浮かんだのは何故かアヘ顏ダブルピースして俺のことを煽ってくる自称ミカンの神様の顏だったのでなんかムカついた。

俺は俺の名前をフルネームで言った奴はなんか嫌いになるのだ。

俺は意外と根に持つタイプらしい。

因みにエレナさんが持って来てくれたのはジョニーさんが自分で煎じた特製の魔法薬らしくクッソまずかった。























娘が知らない男の子を連れてきた。

まあ元気だけは有り余っているあの子のことだ。

大方森の奥深くまで入ってしまいビックローチにでも襲われたのだろう。

まあ、あの子には転移のペンダントを渡してある。

万が一の場合は必ずこのエクシア行商店に戻ってくる。

なにも心配などしてはいないのだが・・・


『あの男の子は何者なのだ?』


娘曰く、悪い奴に追われて命からがら魔のソロモン海峡を超えて来たと言うが・・・。

あの海峡は今だ誰も超えたことのない場所だ。

偶然流れ着くなどありえない。

しかも娘の前で見たことのない魔法で見たことのない美味しい果物をなにもないところから大量に出したと言うではないか!

転移魔法だとしてもおかしい。

転移魔法は原則、一度に一つの物品しか転移させることはできない。

それを大量にだと⁉︎

あの10年前の戦争でも聞いたことがない!

あの戦いはありとあらゆる魔法が使われたはずだ・・・。

しかも大多数を同時に転移できる転移魔法の有用性はかなり大きい。

ということは彼は我々よりも遥かに魔法が進んだ土地からきたとでもいうのか?

だとするとあの海峡の先には一体なにがあるのだろうか?

彼はその事を知る重要な手がかりだ。

他国に逃してはならない。


そう考えた私は自分に「変異」の魔法をかけ、娘の姿になり彼と話をしに行った。

私は「読心」の魔法の専門家ではないので詳しく彼の心を読むことはできない。

だが悪意があるかどうかならばなんとかわかる。

彼に気づかれないよう細心の注意を払い魔法をかけたが、なにも悪意は感じられなかった。

まあ、強いて言えば娘の姿をした私の胸を凝視していたのが気になったのだが・・・。

結果から言えば私は彼を雇うことにした。

理由は2つ。


一つは彼の監視のため。

あの海峡の向こうの進んだ魔法は他国に渡すわけにはいかない。


二つは私の娘が始めて商売に興味を持ったからだ。

おそらく、果実不足で困っている人を助けたいという理由なのだろうが私の商売に興味を持ってくれるのは嬉しい。

将来は娘にこの店を継いでもらうつもりだ。

彼女は私の娘だ。

おそらく魔法の才能も継いでえるだろう。

私のように魔法を戦争には使って欲しくない。



私が戦いから離れてもう十年は経つがまだ私は戦える。

あの男の子が娘に何かしようとしても守ることはできるだろう。

それに彼には身寄りがないらしい。

まあ、一人位息子がいてもいいだろう。

そんなことを考えながら彼のために煎じた特製魔法薬を彼に渡しに行く娘の背中を眺めていた。


!がつくのがエレナ、

。がつくのがお父さんが化けたエレナの特徴です。

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