第一異世界人発見!
気がつくと俺は森の中に居た。
周りには針葉樹らしき樹が所狭しと生えていた。
周りを見渡してみる。
どうやら俺は道のど真ん中で倒れて居たらしい。
道の広さはトラック二台分くらいの広さ、舗装はされておらずゴロゴロとした石が所々に落ちていた。
服装は学校の制服。
普通の学ランだ。
起き上がろうと両手に力を入れてみると利き腕である右手の手のひらになにかを持っていた。
「ミカン・・・?」
皮を剥いてみる。
よく身が引き締まっており中の粒も小さい。
いいミカンの印だ。
一粒口に放り込む。
甘みもいい、酸っぱさとのバランスも最高だ!
すると俺の頭の中に沢山の情報が流れ込んできた。
品種 青島温州
特徴 大きめの平球形で、じょうのう膜(袋)がやや厚めだがほどよい酸味とコクのある甘さが楽しめる。果実は大きく育ち浮皮になりにくい。高糖系品種の代表格で、長期間の貯蔵も可能である。特に静岡県において主力品種として多く栽培されている。
「ど・・・どうでもいい・・・!心の底からどうでもいい・・・!こんなミカンでこれからどうしろと・・・。」
そう呟くと目の前に一つのミカンが現れた。
「ミカン⁉︎」
そういうとまたミカンが現れた。
「なるほど、<ミカン>と言うとミカンが現れるのか・・・!ってどうでもいいわこんなもん!でもうめぇ!甘い!これ一個いくらするんだよ!絶対最高級品だよこれ!」
そうして俺はミカンを心にゆくまで堪能した後道をまっすぐ歩き始めた。
方向は適当だ。
ミカンを真上に投げて落ちた方に歩いた。
ミカンで腹も膨れて落ち着いたのか周りをよく観察する余裕も出てきた。
「異世界って言ってもあんまり変わんねぇなあ。樹もよく見てみるとただのイチョウだし。もしかしてさっきのジジイはただの夢で俺はただここで倒れてただけなんじゃ・・・。」
そんなことを考えていると女の子の大きな声が聞こえてきた。
「きゃー、来ないでっ!」
俺は気がつくと声のする方へ駆け出して居た。
俺の特徴の思い切りのいい性格がでた。
悩むことなく走り続けると一分もしないうちに声のするところへ着いた。
すると14、15歳くらいの女の子が大きな虫に
襲われて居た。
すると俺は反射的に手にミカンを出し虫に向かって思い切り投げていた。
「来いよこの野郎!」
ミカンを幾つも出して投げていると虫の頭部らしき場所にクリーンヒットした。
すると大きな虫は腹を立てたのかこちらに向かって走り出してきた。
「よしっ!こっちだ!」
大きな虫が俺にターゲットを変えたのを確認すると俺は回れ右して女の子から虫をひきはなすように走り出した。
と思いきや、その大きな虫は5秒も経たないうちに俺のすぐ近くまで迫っていた。
「速っ!って言うかこいつデッカいゴキブリじゃねえか!」
俺は走って逃げることは無理だと判断してサッと横へ飛び退いた。
「シャアッ!」
大きなゴキブリが変な声を出しながら俺のいた場所を通過していく。
だがすぐに方向転換するとまた俺の方へ迫ってきた。
確かゴキブリは人間のサイズだと自転車の速さは軽く出すのだ。
クソッタレ!どうしたらいいんだ!
心の中で悪態をつくと俺はゴキブリの二撃目を避ける。
「グッ・・・!」
ゴキブリの足が俺の体に当たり吹っ飛ばされる。
ゴキブリはその隙を逃さずに俺に覆いかぶさるように二本の足で直立していた。
「もうダメなのか・・・」
そう考えた時にさっき食べたミカンの情報が頭をよぎる。
閃いた。
「<ミカン>‼︎」
俺はそう叫ぶと手のひらに現れたミカンを
握り潰した。
そして大きなゴキブリに向かって思い切り投げつけた。
「フシャアアア!」
大きな声を出して後ずさりしたゴキブリに向かって俺は追い打ちをかける。
「<ミカン>‼︎<ミカン>‼︎<ミカン>‼︎」
俺は狂ったようにそう叫びながらゴキブリにミカンを投げ続けた。
「フシュゥ・・・」
しばらくミカンを投げるとゴキブリは頼りない声を出しながら森の奥へと去って行った。
「ふぅ・・・」
一息つくと俺は近くのイチョウの葉を取り手に残ったミカンの果汁を拭き取った。
なぜゴキブリは逃げたのか?
それには理由がある。
奴が俺のいた生前の世界のゴキブリが大きくなっただけの虫ならば弱点がある。
それは奴の体の油を落とすと呼吸が出来なくなるなど色々あるのだが今回はその中の一つ。
柑橘類の匂いが苦手と言うものを使ったのだ。
正確に言えば柑橘類のにおいというよりも、柑橘類の果皮に含まれる「柑橘精油」の揮発物質だ。
全ての虫に効果のある訳でもないが特にゴキブリの仲間にはとても効果がある・・・らしい。
この知識は元から俺が持っていた訳ではない。
この世界に来た時にミカンを食べその時に流れ込んできた知識にあったものだ。
出来るかどうかは一か八かだったがうまく行ってよかった・・・。
「あっ、あのっ!」
ふと前を見るとさっき襲われて居た女の子が前に前かがみになって俺のことをみて居た。
俺はゴキブリを撃退できたことに安心して自分でも気がつかないうちに近くのイチョウの樹にもたれかかって居たのだ。
「助けていただき、ありがとうございましたっ!」
そう言って女の子は大きく頭を下げた。
ぷるんと女の子の胸の果実も大きく揺れた。
自然と目がその動きを追いかける。
そして俺の息子は臨戦態勢に入った。
極度の緊張から解放されたせいか俺の息子が
子孫を残せと叫んでいる。
ふふっ、私の愛馬は凶暴です。
「大丈夫?怪我はない?」
俺はジジイの時とは180度態度を変えてできる限りのイケボで目の前の女の子に話しかけた。
「はいっ!あの、その、お怪我はありませんか・・・?」
女の子は恐る恐るといった様子で俺に聞いてきた。
その女の子の顔を見てみると今まで出会ったことのないくらい、16年間の人生で一番の美少女が目の前に居た。
髪の色は黒、だが顔は日本人のそれではなく
北欧系の可愛らしい絵本の中からでてきたような、俺の好みにどストライクの女の子だった。
「あの・・・」
「あっ、ああ、大丈夫、大丈夫!あれくらいは平気だぜ!それよりも君は?」
「あっ、私、エレナって言います!」
「俺は愛媛ミカ・・・エヒメって言うんだ。」
「エヒメさんですね。助けていただきありがとうございます!」
「いや、助けたのは別にいいんだけど・・・
さっきの大きな虫は?」
「ああ、ビックローチのことですね。普段はもっと森の奥地で動物の死体を漁っているはずなんですけど・・・。」
「はあ、ビックローチねぇ。」
ジジイから剣と魔法の世界だとは聞いていたが、怪物がいるとまでは聞いてはいなかった。クソッタレ!今度会ったら一発ぶん殴ってやる!
「どうかなさいましたか・・・?」
「いや、なんでもないよ。ところでこの近くに村ってない?俺、このへんの土地に疎くて・・・。」
紳士モードになりエレナに話しかける俺。
俺は訳のわからんジジイとかには厳しいが女の子には優しいんだ(可愛い子に限るが)。
「ありますよ!私たちの村が!助けていただいたお礼もしたいので是非来てください!」
「ああ、頼むよ。」
俺はそう言うとミカンの果汁でべたついた手に力を入れ、立ち上がった。
「では着いて来てください!」
エレナは元気にそういうと歩き出した。
怪物に襲われたって言うのにタフだなあ。
と思いながら俺はエレナの後についていく。
この先生きのこるためにはどうすればいいのか。
そのことを考えながら。