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Series-4「夏の海とチャラ男」

 金曜になった

 ということで放課後、俺たちは再び集まった

 理由は勿論、明日の打ち合わせをする為だ

「じゃ、10時に現地集合な」

 何とか話がまとまったところで

「夜はみんなで峠行くとして、昼間はどうするの?」

 と、由衣が聞いてきた

「どうするっつってもなー、みんなそれぞれ予定とかあんだろ」

「わたしは空いてるよ?」

「萌もーっ」

「アタシも一日フリー!」

「私も特に予定はないです」

「僕も空いてます」

「もも姉は?」

 由依が問いかけると、皆の視線がもも姉に集まる

「あたしは和輝とデー・・・いや、用事がある」

 いや、今思いっきり言いましたよね・・・

「じゃあさお兄ちゃん、どっか遊びに行こうよー」

 萌が両手を広げ、身を乗り出してくる

「ど、どうせなら、みんなで行くか」

 俺は目線を逸らし、頬をかきながら答えた

「えぇーっ、二人きりがいいよ」

「でも人数が多い方が楽しいじゃないか、な、みんな?」

 俺が話を振ると、皆頷いたり、同意を表してくれた

「んー、わかった、じゃどこ行く?」

 どこって言われても、すぐには浮かんでこないもので、俺が考え込んでいると

「ちなみにもも姉はどこ行くの?」

 萌が聞いた

「何の話だ?」

「デート行くんでしょ?」

「ばっ、バカ違うって」

「隠さなくてもいいよー、お兄ちゃんのお兄ちゃんは萌のお兄ちゃんでもあるんだから」

 わ、訳が分からない・・・

 確認するが、俺と兄貴は本当の兄弟だが、萌と多田家に血縁関係はない

「で、どこ行くの?」

「う、海だ」

「横寺海岸?萌も行きたいっ」

「あ、わたしも行きたい、ね、みんなで行こうよ!」

「いいねいいね!」

「ちょっ、ちょっと待て、和輝と2人きりじゃなきゃ意味ないじゃない!」

「人数が多い方が楽しいよ?」

「それはアキラからの受け売りだろ」

「まーいいじゃないの、俺たちも連れってってくりよ」

「アキラ、お前この前もデート邪魔しなかったか?」

「そ、それより、何時集合なんだ?」

「アキラ君、さっきから動揺が隠しきれてないです」


 海岸線を走る16の助手席で、俺はタバコをふかしていた。

「あー、未成年なのにタバコ吸っちゃいけないんだぁー」

 後部座席から萌が身を乗り出してきた

「わぁーってるよ」

 俺のS15はマツさんとこに預けてあるから、由衣の16に乗せてもらってるんだけど、2人で行くって聞いたら、何故か萌もついてきた

 夜は峠に行くのに、車どうするつもりなんだ?

 目的地に着くと、既に未来とキャシーの姿があった

 駐車場に向かい車を止めると、隣には一際目を引くイエローのS2000が止まっていた

「見慣れない車だな、ヨソ者か・・・」

 フロントにはナンバーが付いていなかったのでわからなかったが、こんな場所なので、観光客でも不思議はない

 だが、なんとなく気に掛かった

「おまたせー」

 車を降りると、由衣は2人のところに駆け寄り、萌もそれに続く

 はい、俺が荷物持ちってことね

 これだけメンバーの女子率が高いと、必然的に男の立場が低くなる

 それは仕方のないことだ

 もう慣れた

 ずっと16の後ろをついて来ていたFDも、信号待ちから追いついてきた

 もも姉と兄貴は一応デートな訳だから、一台で来ている

 兄貴は車を降りると、当たり前のようにトランクの方へと向かう

 どうやら被害者は一人じゃなかったようだ

「全員揃ったかー?」

 両手に浮き輪をたくさん抱えた兄貴が、点呼をとる

「・・・5、6、7、よしっ、みんないるな」

 全員揃ったので、着替えることにした

 更衣室に向かう途中、先頭にいた萌が振り返り、キッとこっちを睨んだ

 俺が何事かと思うと

「覗いちゃだめだかんね」

 萌は真剣な口調でそう言った

 なんだそんなことか

「へいへい」

 更衣室に着くと、萌から順に入っていく

 ていうか、5つしかない更衣室を女勢が占領してんですけど

 男3人は更衣室が空くのを待つよりほかないようだ

「あんなこと言われると、覗きたくなるのが男ってもんだよな」

 更衣室が空くのを待っている間、くわえタバコの兄貴がぽつりと言った

「それすっごいわかります」

 何故かサトーちゃんは目を輝かせていた

「そうか?」

「お前は女の子に囲まれて感覚が麻痺してんだよ」

「人間、慣れって怖いですね」

「そ、そこまで言う?」

 お、俺が総攻撃を受けているうちに、姫君たちのお着替えが完了したようです

 ここでも、真っ先に飛び出したのは萌だ

「夏だ!海だ!水着回だー!」

 水着回って、アニメかよ・・・

「萌の奴、随分とはしゃいでるな」

 後ろからもも姉が話しかけてきた

「まー元々言いだしっぺは萌だしな」

「それは微妙に違うぞ」

 あれ?もも姉について行くって言ったのは萌のはずだけど・・・

「和輝とのんびりデートの筈だったんだがなー」

 もも姉は参ったというように頭をかく

「もも姉ーっ、早く早くーっ」

 砂浜に駈け出していた萌は振り返り、こちらに大きく手を振った

「はいはい、今行くって」

 萌に引っ張られるようにしてもも姉が歩きだす

「いってらー」

 そして、他の4人に合流する

「あっ、もも姉の髪型かわいー」

 もも姉は、いつもは下ろしている髪をツインテにしていた

「ストレートだと暑いし、たまにはいいかなと思ってな」

「すごい似合ってるよ」

「そうか?」

 なんだかんだ言いながらも、案外楽しんでんだよな、もも姉も

「さて、俺たちも着替えるか」

「ですね」

 俺たちが更衣室に向かそうと歩き出すと

「ねーねー君たちかわうぃーねー!」

 5人の方に2人の男が近づいてきた

 話しかけてきた方は細身で背が高く、もう一人はがたいが良い

「これがナンパって奴?」

「萌、実際にされたの初めてーっ」

「無視だ無視」

「関わったら負けです」

 5人が立ち去ろうとすると

「ワインレッドのFD・・・あんたのだよね?」

 謎のチャラ男は、妙に落ち着いた口調でそう言った

 もも姉は一瞬驚いた表情を見せ、ゆっくりと男の方に振り向く

「だったら何だ」

「あれはポートにも手を入れた相当なチューンドREだね」

「なっ、何故わかった?」

「音でわかるよ、走り屋ならねー」

 ・・・「行ったほうが良いですかね」

「どうもお友達って感じじゃなさそうだしな」

 俺は男たちの方に近付き、1人の肩に手をかける

 男が振り返ると、そこには見覚えのある顔があった

「チャラ店員じゃねーか」

「あ、もしかしてこの前のカップルさん?あ、よく見れば女の子の方もいる!」


 話を聞くと、チャラ店員、もとい服部洸一は、最近こっちに越してきたらしい

 そして、もう一人の方、岩田大悟は、服部からこっちには良い峠があると聞いて来たんだそうだ

 昼間は海で遊んで、夜は峠で走る、俺たちと同じだな

「いやーこの町って走り屋にとっちゃ天国すねー」

「確かにな、そいえばお前、さっきFDがどうとか言ってなかったか?」

 兄貴が質問する

「あの女の子が赤いFDに乗ってるんすよね」

「いかにもだ」

「音だけであたしのセブンのポート研磨してるって言い当てたのよ」

「僕、耳はめっぽう強いんすよ、音を聞いただけで車種はもちろん、どれ程のチューンドかも大体わかりまっす」

「そういやマツもラリーやってた時、音を聞いただけでどこが調子悪いか言い当てるメカニックがいたって言ってたし、やっぱいるんだよなー、そういう奴」

 兄貴は腕を組み、感心するように頷いた


「そんなことより、何か食べようよー」

 俺たちはずっとダベっていたが、ついに萌が痺れを切らした

「何か買ってこいよ、出店はたくさんあるんだから」

 兄貴も周囲を見渡して

「いろいろあるぜ、アイスに焼きそばに・・・」

「あ!!」

 俺と兄貴は思わず顔を合わせる

 俺たちの視線の先には「おべんと処 めぐみ」と書かれた看板の弁当屋があった

「何で母さんの店が此処に!?」

 そう、この店は、俺たちの母親、多田恵美が営む店だ、いつもは駅前にあるんだが、トラックの荷台を改造した移動店舗なので、ここにあっても不思議はない

 俺たちは吸い込まれるように近づく

 案の定というか、店の中から顔を出したのは間違いなく母だった

「いらっしゃい、あらあら、みんなどうしたの?」

 母は驚いた表情を浮かべる

「それはこっちの台詞だ、何でめぐみが此処にあるんだ?」

 兄貴が問うと

「うーん、出稼ぎ?」

 母は、あっけらかんと答えた

「萌、アイス食べたーい」

 そうだ、姫様はおなかを空かせて居たのであった

「わたしたちも欲しいな」

「いろんな種類あるね、ソフトクリームとかかき氷とか」

「棒状の奴でお願いします!」

 服部が胸の前で両手を握りしめて目を輝かせている

 一瞬の沈黙の後、もも姉が口を開く

「あたし、かき氷がいいな」

「さんせー!」

 萌がもも姉の意見に同意する

 服部の奴、懇願虚しく完全スルーされてやんの、バーカバーカ


 パラソルの下、テーブルを囲んでみんなでかき氷を食べていると、俺のスマホにLINEの着信があった

 それはマツさんからだった

「クルマなおったぽよー

 はやくとりにこーい」だって

 マツさんとLINEしているといつも思うが、とても親父とタメの人だとは思えない

 すげーアニメ好きなJKとLINEしてるみたいだ

 ま、実際のJKの会話ってもっと無機質だけど・・・

「由衣、マツさんがクルマ直ったって、悪りぃけどまた乗せてってくんねえか」

「いいよ、じゃ行こっか」

 そう言って、由衣は立ち上がろうとした

「別に今からじゃなくてもいいのに」

「今夜に間に合ったほうが良いでしょ」

「それもそうだな、じゃ、そういうことだから、俺たちちょっと松田自動車まで行ってくるわ」

 俺も片手を上げ、立ち上がる

「萌も行くー」

 萌も立ち上がろうとするが、もも姉が両肩を押さえて座らせる

「あなたはここにいなさい、アキラ君、いってらっしゃい、萌はあたしがみてるから」

 俺と由衣は先に着替えて16に乗り込んだ

 そしてゆっくりと、16は走り出す

 待っててねー俺のシルビアちゃん♡

 にしても、さっきから由衣の様子がおかしい

 ずっと黙り込んで、前だけを見つめている

 それに、今日はいつもより運転がラフだ

 16みたいな大排気量でボディも大きな車を乗りこなすポイントは、どれだけ丁寧に走るかだ

 免許を取ってから幾度となく走り込んだ由衣に、そんなことがわからないはずはない

 現に、峠での走りを見る限り、こんな運転はしていない

 考えられる理由としては、よほど気に掛かっていることがあるのだろう

 かといって別に怒っている風でもないし・・・

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