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Series-1「プロローグに代えて」

 カタンコトン

 カタンコトン

 7月半ばの、やけにムッとした空気の中、朝の満員電車のリズミカルで心地の良い揺れに、立ったまま眠りかけていた俺は小さく息を吐いた

 俺の名前は多田アキラ

 どこにでもいる高3男子

 ・・・そして、走り屋だ

 18歳(ジューハチ)になったら速攻で免許取って、無理してクルマも手に入れた

 今の愛車は青いS15、走り始めてまだ数ヶ月だが、週末の夜には峠でテクニックを磨いている

 とまぁ、それでも昼間は現役高校生な訳で、俺は学校に向かうべく、大人しく電車に乗っている


 改札を抜け、駅からの近くもなければ遠くもない絶妙な距離の道を歩いていると

「おはよう、アキラ」

 唐突に右肩に手が添えられた

 この声は、北原桃香(とうか)

「うっす」

「声が小さい」

 桃香は歩幅を合わせ、俺の横に並ぶ

 俺より背が高いせいか、威圧感がある

「おはようございます!」

 俺は胸を張り、声を上げる

「ふふ、よろしい」

 笑ってる、俺をからかって楽しんでる顔だ

「それよりいつもの2人はどうしたの?」

「あ、実は・・・」

「どうせ電車を一本乗り遅れたとかそんなとこでしょ」

「何故わかった!?」

「図星ね、いくら暑いからって、もっとシャキッとしなさいよねー」

 余計なお世話だ

 やたら洞察力が鋭く、面倒見が良いというか、いわゆるお姉さんキャラだ

 それもあってか愛称は

「もも姉ーっ!」

 そう、もも姉

 それより、後ろから誰か来たようだ

 誰かは大体見当が付くが

「それに、お兄ちゃーん!!」

 先に言っておくが、俺に妹はいない

 後ろからはたったったっと軽快に走る足音が聞こえてくる

「ぐぶほっ!」

 突然、首から背中にかけて稲妻が走った

 その誰かが背中に飛び乗ったようだ

 高校生にもなってこんなことする奴はあいつしかいない

 生粋の妹っ子、中村萌

「く、首折れる~!!」

「萌、アンタ公の場で何やってんのよ、降りなさい」

「はぁーい」

 急に背中の荷重が和らぐ

 そのせいで俺は少しよろけた

 萌は俺たちと同級生だが、背が低いから後輩と言っても違和感はない

 というか、中学生でも通りそうだ

 無論、俺と萌に血の繋がりはない、でも、萌の「お兄ちゃん」はヤンキーの「アニキ」や海外映画の「ブラザー」と同義語だから気にしなくて良い

 萌ともも姉は昔からの付き合いらしいが、2人の性格を見れば、仲が良いのは頷ける

 というか、萌が一方的に懐いてるだけのような気もする、俺にみたいに


 さて、何はともあれ学校に到着した

 俺の通っている学校は、進学校という程でもないが、この辺では割と進学率が高い

 毎年、数人は有名な名門大学の合格者が出る

 ま、俺は就職希望だけどね

 校門をくぐり靴箱に向かうと、佐藤拓哉と杉浦由衣の姿が見えた

 2人とは家が近くで、幼稚園からの幼馴染だ

 いつもなら3人同じ電車で来るんだが、今日は先を越された

「よっ」

「アキラ、おはよう」

「おはようございます、間に合ったんですね」

「あぁ、次の電車に乗れたから」

「それよりサトーちゃん、今夜走りに行こうと思うけど、来る?」

「行きます行きます!」

 走るというのは、もちろん車でだ

 佐藤拓哉、通称サトーちゃんは、車には全く興味がないが、俺が走りに行くときには必ず付いて来る

 本人曰く「見ているだけで満足」なんだそうな

「じゃあ、11時半頃に迎えに行くわ、由依もどうだ?」

「ゴメン、わたし今日ちょっと用事あって、あ、でも土曜日は行けるよ」

「そうそう、そのことでみんなで打ち合わせしたいから、帰りにピロティ集合な、サトーちゃんも」

「うん、わかった」

「了解です」


 俺たちは階段を上がり、廊下を進む

 いつもの教室の扉を開くと、目の前に金色の髪が揺れた

「あーたん、おっはよーっ!!」

「おーっす」

 俺のことを「あーたん」と呼ぶ、朝からハイテンションなこの声の主は、Catherine(キャサリン)Williams(ウィリアムズ)

「よっ、キャシー」

 カナダと日本のハーフで、金髪と青い瞳に代表されるその見た目は完全に外国人だ

 しかも父親がカナダの外交官とかで、すっげー金持ちらしい

 それに、もも姉の次におっぱいが大き・・・いや、なんでもないです

 そんなキャシーにも、欠点はあって

「お前、今日は英語のテスト返却だぞ」

「うぐっ・・それは言わないで・・・」

 キャシーは見た目こそ外国人だが、日本生まれの日本育ち

 おまけに父親も流暢な日本語を使うものだから、日本語しか話せない

 故に、英語のテストがチーンな訳だ

 自席に向かう途中、不意に声をかけられた

「オキラさん、おはようです」

「おっす、未来(みく)

「その呼び方はやめてって言ったですよね?」

 窓際の席で雑誌を読んでいたショートカットの女の子、颯田未来は顔を上げ、静かにそう言った

「何読んでんだ?」

 未来が読んでいた雑誌を覗き込むと、ウェディングドレス姿の女性が、屈託のない笑みを浮かべていた

 それは結婚情報誌だった

「お、ついに俺と永遠の誓いを交わす決心がついたか」

 なんて冗談を言ってみたが、未来は表情一つ変えずに

「貴方と、初音さんとだけは結婚しないです」

 と、これまた静かに、というか冷たく言い放ち、視線を雑誌に戻した

 相変わらずクールですね・・・

 ただ、そう言う未来の頬が微かに紅くなっているように見えた

 たまに笑顔を見せたり、かわいいところもあるんだよな

 女の子は、わざと好きな男の子をいじめると聞いたことがある

 ということは、もしかして俺に気があるのか?

 あの毒舌を聞く限り・・・いや、ないな

 とか思っていると「未来ちゃん、いとこが結婚するんだって」と由衣が耳打ちしてくれた

 なるほど、おそらく結婚式のプランニングを頼まれたとか、そんなところだろう

 未来は凄まじく頭が良く、成績も常にトップクラス

 IQとか凄そうだ、よく知らないけど

 いくつもある式場のプランの中から、最も合理的なプランを選ぶことなど、彼女には朝飯前だろう

 それこそ、下手なプランナーに頼むより確実だ

 そんなことを思いながら、俺はいつもの席に腰掛ける

 俺の席は教室の後ろの方で、全体が見渡せる

 それに、授業中寝ててもバレにくいのも大きな利点だったりする

 さて、寝よう


 一日の授業が終わり、放課後になった

 俺が声を掛けておいたので 靴箱の奥にあるピロティに、続々と人が集まってきた

 が、キャシーの姿が見えない

「あれ、キャシー知らない?」

「あたしが教室を出るときには、負のオーラ全開で机に張り付いてたけど?」

 あーそういうことか

「ちょっと俺、見に行ってくるわ」

「くれぐれも、気を付けるですよ」

 未来が諭すように言った

 どういう意味だよ・・・

「お兄ちゃーん、行ってらっしゃーい」

 俺はさっき降りたばかりの階段を上り、教室に向かう

 扉を開くと、すぐにキャシーの姿を見つけた

 夕日で真っ赤に染められた誰も居ない教室で、たった一人机にうずくまっていた

 原因はほぼ確定事項だが、一応

「どうした?」

 と聞いてみる

 うつむいたままのキャシーが、一枚の紙を差し出してきた

 案の定というか、それは英語の答案だった

「12点て・・・」

 キャシーがゆっくりと顔を上げる

「うぐっうぐっ・・あーたん、ダメだったよぉ・・・」

 キャシーは目を真っ赤にして、泣いていた

 他の教科の点数も決して良いとは言えないけど、どうして英語だけこんなにズバ抜けて悪いんだろうか

「大丈夫だって、夏休みの追試までの間、俺が教えてやるからさ」

 日本人が見た目外国人の女の子に英語を教える・・・それはそれは異様な光景だ

 でも、俺たちには日常茶飯事だったりする

 前回のテストの時も確かそうだったし・・・

「ほんと?」

「ほんとほんと、前もそれでうまくいったじゃん」

 うまくいったといっても、ギリギリ30点取れただけだったが

「でも」

「え?」

「キャシーも頑張らなきゃだぜ」

「うん、キャシー頑張る・・・」

「とにかく行こう、みんなのとこに」

 俺はキャシーを立ち上がらせる

「あーたん・・」

「ん?」

「ありがとね・・・」

 キャシーは、俺の胸に顔をうずめる

 勉強教えるだけで、ここまで感謝されるか・・・

 まぁ悪い気はしないけど

「はい、そこまでー」

「何やってんだか」

「こんなことになるだろうと思ったです」

 声のした方に振り返ると、もも姉と由依、未来が廊下に立っていた

 どうやら一部始終を見られたようだった


 やっと、もも姉、萌、由衣、サトーちゃん、未来、キャシーが揃った

「話ってのは土曜の夜のことだけど・・・」

 俺が話を始めようとすると、どこからともなく声が聞こえてきた

「夜?何の話だろう?」

 あのー聞こえてるんですけどー

 しゃべり方はひそひそ話だけど、声のボリュームが大きめなんですよねー

 おそらく、クラスの女子グループだろう

 男子2人に女の子5人だ、そりゃあ噂の種にもなるだろう

 ま、いいや

「女の子5人も連れて、怪しい・・・」

 こういう時は無視が一番、反応したら負けだ

 皆そんなことわかっているから、気にしないフリだ

「一度どこかに集まって、全員で行こうと思うんだけどさ」

「全員でイク?まさか、6P!?」

 はぁぁぁああぁぁあああ!!!?

「たらし!」

「サイテーね」

「んな訳あるか!!」

 流石にこれには俺も、思わず反応してしまった

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