第6話 初心者的勧誘の受け方
「さて、話もまとまったことだし、私は……」
「「「「…………?」」」」
「私は…………」
「「「「……………………?」」」」
ちょっと待て。この状況はおかしくないか?
なぜこの兄妹がギルドに誘われて私は誘われていないのだ?
兄の方を見る。妹の方を見る。
そして自分の姿を改めて見る。
誰がより初心者かと問われれば、今現在この世界に私以上の初心者はいないだろう。
それほどに私は初心者に見えるはずなのだから。
ならばなぜ誘われない?もしかして目の前の相手だけでいっぱいになっていて私のことを誘うのを忘れているのか?
ふむ、ならば思い出せるように誘導するべきか……。
「モモコさんが何やら企んでいる雰囲気なんだけど……」
「嫌な予感が……」
「ですね」
「もうどうでもいいっす……」
あくまでも自然に。そう、自然に誘わせるのだ。本来であれば内藤に話を振れば良いわけだが、残念ながらどこかへ行ってしまった。
影無は認識しずらいので、少し怖いが乙女に話題を振るしか手は残されていない。
女は度胸、だ!
「そ、そういえばお前たちどうしてこのようなところでギルドの勧誘をしていたのだ?」
「え、それは初心者の多いこの村ならギルドに入っていない人もたくさんいるかと思って」
よしっ!掴みは完璧だ!
「そうかそうか!つまり初心者に狙いを定めて勧誘しているわけなのだな!初心者に!」
「そ、そうですけど……」
「確かにこの村には多くの初心者がいるようだ。おお!あそこにも初心者がいるみたいだぞ!私と同じ初心者用の杖を装備して私と同じ初心者用のローブを装備しておる!紛うことなき初心者だ!」
そう言って乙女の方をチラっと見て反応を確かめる。
乙女(も、もしかしてこの人…………)
四人((((ギルドに誘われようとしている!?))))
「しかし残念ながら既に勧誘を受けて他のギルドへと入っているようだ。ならばあの者と同じようにギルドに入っていない初心者を探さねばならんな!もしかすると少し冷静になって考えれば意外と近くにそういった者がいるかもしれないぞ」
そして再び乙女の方をチラっと見る。
四人((((間違いない!誘われようとしている!!!))))
妹(あの……どうするんですか?)
兄(やはり誘わないとダメなのでは……)
影無(あんな傷口に塩を塗りこむような人はダメっすよ!)
乙女(しかし私ではあの人の誘導を回避することは無理だと思います)
影無(諦めるなっす!諦めたら試合はそこで終了っすよ!)
「それにやはり見知らぬ人よりも、顔見知りの方が勧誘は成功しやすいのではないだろうか」
さらに誘導しつつも乙女の方をチラっと見る。
手応えは…………表情からは分からない。むぅ。
兄(でもあんなに誘って欲しそうにしているのに、置いていくっていうのは可哀想じゃないですか?)
妹(お兄ちゃん……)
乙女(もしかしてあなたは女が好きなんですか?)
兄(なんでそんなに残念そうな顔で言うんですか!この際はっきり言っておきますが僕は……)
妹(お兄ちゃん、脱線)
兄(ご、ごめん)
乙女(とにかくどうせ避けられないのなら、こちらから動いて少しでも好印象を与えておきましょう)
妹(く、黒いですね乙女さん)
乙女(それが大人の生き方というものです。妹さん)
「モモコさん」
乙女がにっこりと私に向かって微笑んだ。
「な、なにか!」
つ、ついに来たか!苦節二時間。ついに私が誘われる時代が!
「髪に糸くずがついていますよ」
そう言って乙女は私の髪から糸くずを取った。
…………。
…………………………………………。
妹(が、がっかりしてますよ!)
兄(今のはさすがに可哀想では……)
影無(さすが乙女姐さん。容赦ないっすね)
乙女(いや、お約束ですから。でもちょっとアレ可愛くないですか?)
兄・影((た、確かに……))
妹(ダメだこの人たち。仕方ない、ここは私が……)
「モモコさん、良かったら私と一緒にギルドに入りませんか?」
妹の方が笑みを浮かべて私を誘ってくれた。なんと聡い娘だ。しかし私はその誘いを受けるわけにはいかない。
「誘ってくれるのはありがたいが妹の方もまだギルドには入っていないだろう。だというのにそのような重要な事柄を勝手に推し進めてしまえば、ますます我が侭な女だと思われてしまうぞ」
妹(イラッ)
三人(((まぁまぁ抑えて抑えて)))
そう、誘ってくれるのは嬉しいが妹の方はまだギルドメンバーではない。その状態での勧誘はさすがに越権行為というものだろう。確かにギルドへは誘われたいが、妹の方にそこまでさせてしまうわけにはいかない。
そこで乙女が妹の方のフォローへと入ってくれた。
「いえ、いいんですよ。藍さんが誘わなくとも私も勧誘しようと思っていたところですから。良かったらモモコさんもうちのギルドへ加入しませんか?」
そしてついに正規ギルドメンバーである乙女から私に勧誘の声が掛かったのである!
「そうか!私もか!ふむ、ついに私もギルドへと誘われてしまったわけか。しかし先ほどお前たちはギルドへ入れば高速レベリングができると言っていたな。残念ながら私は別にレベル上げがしたいわけではないのだ。とはいえお前たちの好意を無駄にするわけにはいかない。せっかく私を必要として誘ってくれているわけだからな!」
四人((((な、なんて面倒な人なんだ……))))
そう、私はレベル上げには興味がない。むしろできるだけ弱い期間を長く設けることで庇護すべき存在として私を印象付ける必要があるのだから。だからギルドには入りたいが高速レベリングは困るのだ。
「ギルドハントに参加しないのはさすがに困りますが、高速レベリングは義務ではないので大丈夫ですよ」
「そうか!ならば問題はない!お前たちにそこまで懇願されては入らないわけにもいくまい。初心者ゆえに何かと面倒をかけてしまうとは思うが、初心者として精一杯甘やかしてくれ!」
「「「それは自分で言うことじゃないから!」」」
こうして私は僅か一日目にしてギルドへと勧誘されることに成功したのであった。