第1話 初心者的キャラの作り方
一言で言えば、私はこのゲーム…………VRMMO『レガリアオンライン』に飽きてしまった。
私は基本的に一人のキャラクターをじっくり育てるのタイプだった。
オープンベータの頃からこのレガリアオンライン(以下レガリアとする)を始めてレベルは既に100まで到達し、カウントストップしている。
高レベルになってくると最高効率の狩り方をしたとしても一時間当たり0.5%ほども稼げなくなってくるため、一レベル上げようとするだけででも恐るべき時間が必要となってくる。とは言えゲームにログインしている間は体感時間がおよそ四倍に引き延ばされるため、カンスト自体は実現不可能なレベルではない。しかしそれがどれほど困難な道のりであるかは、レベルを時間に換算すれば分かってもらえるだろう。そして私はアップデートにより導入されたセカンドクラスもカンストさせて、さらにはサードクラスまでもカンスト。その上ボスが落とすレジェンダリィアイテムや城主専用のユニークアイテムを極限まで強化して身に付けている。
それだけの時間プレイしていれば当然ギルドに入ったことも作ったこともある。戦争に参加して勝利し、領地を運営していたことさえもある。
でも今では全てに嫌気が指してしまってソロしかしていない。
なぜなら私にはどうしても『自分たちさえ良ければそれでいい』という考えに染まることができなかったからだ。
ギルドが力を持つと、当然できることは多くなってくる。
模擬戦、戦争、イベント、そしてボス狩り。
しかしレガリアにおいてボスという存在は現実時間の一週間という長い時間を置かないと再出現しない仕様となっている。
正確には現実時間で百六十八時間が経過したときから二十四時間以内にランダムで出現する。
つまりその間にボスの出現が確認できる位置へと仲間を待機させておけば、素早く編成して討伐へと移ることができるわけだ。
しかしそんな方法は誰にでも分かること。
ボスという存在は準備さえ怠らなければ問題なく討伐できる上、実入りも良いので誰もが狙っている。
ではそのボスが狩りたければどうするか?
もちろん話し合いで順番を決めたりなんて回りくどいことはしない。
そのボスが出る前に同じくボス目当てで集まったプレイヤーを皆殺しにするだけ。
そしてそれを繰り返しているうちにやがて他のプレイヤーはボスを狩りに行こうなどと思わなくなる。
もちろんそれに反発して正義を掲げ連合を組んで敵対するギルドもあった。
ボスはみんなのもの。誰でも参加できる野良討伐部隊で討伐するか、連合毎の順番制にすべきであると。
しかしそんな抵抗は全くの無駄でしかなかった。
強いプレイヤーというのは基本的に強さを求めてゲームをしている。そういうプレイヤーをボス討伐に参加できる私のギルドへ入れることは難しいことではなかったからだ。
他のギルドへ入っていたのでは手に入らないボスのドロップが、私のギルドでは手に入る。
それを続けた結果、戦力の集中化が起きて敵対勢力との戦力差はより歴然となってしまった。
戦争をすれば全戦全勝。圧倒的な戦力を以ってただ敵をレイプ|(一方的に倒すこと)するだけの戦いとも言えないような虐殺劇。
しかし私はそこまで来て疑問を持ってしまった。
私はこんなことがやりたくてゲームをやっているのか?と。
私はただ現実とは違う自分になりたかった。
しかし気づけば現実と同じように世界の枠組に囚われ、組織に振り回されるだけの私がそこにはいた。
こんなはずじゃない。
私がなりたかったのはもっと自由にこの幻想的な世界を冒険する人間だったはずだ。
それに気づいたとき、私はギルドを辞めることにした。
幸い私の後を継いでギルドマスターになりたいという人間はごまんといたので、辞めるときには全くと言っていいほど揉めなかった。そして私を本心から引き止めてくれる人間もまた一人としていなかった。
それから私はソロで狩りを始めた。
このゲームにおいてソロ狩りは本当に効率が悪いが、パワーポーションやヘイストポーションをがぶ飲みすればできないことはない。
それに私のクラスはナイト系だから元々の防御力が非常に高く、サブクラスには近接アタッカーを選んでいたため、サブクラス補正が加わり火力もそこまで低くなかったため、ソロで困ることはなかった。
とはいえ、現状ではこれ以上強くなりようがないし、欲しいものもないから次の大規模アップデートが来るまで狩りをする意味がほとんどなかった。
そして身から出た錆というべきか、私の名は悪名としてプレイヤーたちに知れ渡っていた。この世界において知らない人がいないというほどに。
それに私が作ったギルドは戦争ギルドだ。
私が抜けるまでの間に潰したギルドの数も数え切れないほど存在する。
つまり私は多くのプレイヤーから恨みを買っていたのだ。
フィールドで襲われるなんてことは当たり前。
当然そんな私を受け入れてくれるギルドがあるはずもなく、野良パーティーにすら断られる始末。
それだけだったならまだよかった。
一番最悪だったのが、私が作ったギルドが私を殺しにかかってきたことだ。
ボスを独占するため、そして敵対勢力を潰すためにプレイヤーキラーをさも当然のように行ってきた私はシステム上犯罪者プレイヤーという位置づけになる。
そして犯罪者プレイヤーのペナルティーのひとつに死亡時の多くの所持品をドロップするというものがあった。
つまり私を殺した方がボスを狩るよりも遥かに美味しいというわけだ。
しかし私には強力な武具と数多くの消耗品、そして今まで培ってきたプレイヤースキルがあった。
それに彼等の能力は全て頭の中に叩きこんでいる。私が全てを指揮していたのだから。
ゆえに殺されないことは難しいことではなかった。
ただゲームをプレイしているだけで留まることを知らないPKカウント|(プレイヤー殺害数)。この頃の私はただログインすることすら嫌気がさしてきていた。
それでも私は別の自分になりたかった。
現実の私ではない私に。
そんなときだ。一組の男女に会ったのは。
場所はかなり低レベルの狩場。男の方は狩場には似合わないそこそこレベルの高い装備。対して女はその狩場にしては少しだけ優れた装備に身を包んでいた。
恐らく女のレベリングに男が付き合っていたのだろう。
犯罪者プレイヤーの証である私の真っ赤に染まった名前を見て男は女に向かって逃げろと叫んだ。
男の的確な判断に私は少なからずショックを受ける。向こうから襲いかかってこなければ何もしないのに……。
しかし女の方は男を置いて逃げられません、と泣きそうになりながらも杖を構えてその場にと留まった。
そんな二人の関係を羨ましいと思うと同時に、「これだ」と思った。
そう、私の求めるものはこれだったのだ。
私は現実ではない自分になりたかったはずなのに、ゲームでも現実と同じように行動していた。私は完璧じゃないことが嫌いだった。私は手を抜くことが嫌いだった。私は上を目指さないことが嫌いだった。私は人に頼ることが嫌いだった。私はそんな私が嫌いだった。そしてその結果が今の自分である。現実と何も変わらない。上り詰めた挙句、裏切られる。
ならば現実の逆を行ってみればどうだろうか。
そもそも私が私のままゲームをプレイしたのがいけなかったのだ。
そんなことを考えている間にも男に斬られているが、生憎私にダメージが通ることはない。
私は二人に向かってにっこりと笑い、お礼を言ってその場を離れてログアウトした。
私じゃない私を演じるためには、このキャラクターではダメだ。
ここまで育てておいて勿体無いが、一からやり直そう。私はそう決意した
私はキャラクター選択画面まで戻ると、新規キャラクターの作成を開始した。
種族は一番愛嬌のある妖精族を選択。
妖精族というのは羽の生えた可愛らしい子供のような外見の種族だ。
そして性別はもちろん女性。
やはり女としては頼りがいのある男に守ってもらい、あわよくばちやほやしてもらいたいのでこれだけは譲れない。
容姿は現実の私のスキャンデータを弄繰り回し、できるだけ愛嬌のある親しみやすい容姿へと変更した。髪の色は薄桃色のゆるふわパーマのセミロング。サファイアのような青い瞳にぷるんとした桃色の唇。身長はデフォルトの百三十センチ。羽の色は半透明の白色をベースに金粉を纏わせ、胸は大きめ。そして顔は…………。
外観の設定を終えると、そこにはちょっとつり目の可愛らしい妖精がいた。こういうのを何っていうんだっけ……ツンドラ?
ちょっと目つきがきつくなったけど、このくらいなら愛嬌の範囲だろう。これだけ緩和しておけば現実のように絶対零度などと揶揄されることはないはずだ。
キャラクター名も可愛くて子供っぽいものがいいだろう。しかし可愛い名前か…………いちご、りんご、ぶどう、みかん、れもん、めろん、さくらんぼ、びわ、らいち、ぷるーん、はっさく、もも。
もも…………ももでいいか。髪色にも合っているし。
しかしそのままというのも捻りがない。もも…………ももみ…………ももこ…………ももか…………。
ふむ、この中ならばももこが一番子供っぽいか?
よし、ももこで決まりだな。
次はステータスの設定に入るわけだが。
ボーナス 10
筋力 6
体力 7
器用 11
敏捷 14
魔力 13
精神 11
魅力 14
妖精族は筋力と体力が低い分、すばしっこくて魔力が高い。そして全種族の中で最も魅力値が高い設定となっている。
筋力は「物理攻撃力・重量制限」、体力は「HP・SP」、器用は「物理と魔法の命中率・罠解除成功率・製作スキル成功率」、敏捷は「移動速度、攻撃速度、回避率」、魔力は「魔法攻撃力・デバフ成功率」、精神は「MP、状態異常耐性」、魅力は「テイム成功率、交渉スキル成功率」などに主に関係してくる。
やはり守られる存在となるためには後衛を目指すべきだろう。となると妖精族のセオリー通り魔力を伸ばしつつ、可愛さを強調するための愛玩用ペットをテイムするために魅力へとポイントを振り分けるべきかもしれない。残ったポイントは無難に体力に振っておけば少しは死に難くなるだろうか。
そんなことを考えながらポイントを調整していく。
うむ、できた。
名前 モモコ
種族 妖精族
性別 女性
職業 無職Lv1
筋力 6
体力 7
器用 11
敏捷 14
魔力 13
精神 11
魅力 24
我ながら凄く可愛いし、ついつい守りたくなるような脆弱なステータス設定にすることができたと思う。
このゲームにおいてステータスは成長しないため、慎重に決めなければならない。一応課金アイテムを使えば変更することはできるが、あまりやりすぎると変な印象を持たれかねない。
しかしこのアバターに私が入るのか…………。何だか物凄く冒涜的な感じがするのはきっと気のせいだろう……。気のせいだと思いたい……。
いや、私はこの日を以って違う私になるんだ。
こんなところでぐずぐず悩んでいる暇などないのだ!ええい!女は度胸!なるようになれだ!
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