第一話
初投稿の小説です。…ので、高い質を要求されていらっしゃる方は、ごめんなさい。
※過激な表現を一部含みます
それでは本編どうぞ
【プロローグ】
ーーこの世界に救いはあるの?
ーーもう…お終いだ、何もかも。
「いつかまた、逢えるといいね、ーー。」
【第一話 〜First contact〜】
「康之、起きなさい。」
少し苛立った声音で母、伸子が起こしてくれる。
ーー6時か…。
康之が現在時刻を自分の目覚まし時計で確認すると、アラームがセットされていなかった事に気がついた。
「あなた高校生にもなって朝も録に起きられないなんて…」
そんなんじゃ大学入れないわよ、と伸子が続ける。
「うん、ごめん。次から気をつける。」
朝起きられないのと大学に入れないのと、関係があるのだろうか。と思いつつも康之は謝った。康之が小学生の時、父親が事故死して以来、高校生まで女手一つで育ててくれた母親に迷惑をかけたいとは思わないからだった。
「朝食出来ているから食べたら支度して学校行きなさいね。」
康之の自室のドアを閉めながら伸子は言い、階下へと降りていった。
「さぁ、用意するか。」
寝巻きを脱いだ康之は、せかせかと制服に身を包み始めたのだった。
こんな日常が崩れるなんて、誰が想像出来たのだろう。
ーー午前8時12分ーー
遅刻することなく登校した康之は、自分の教室がいつもより騒がしいことに気がついた。すると、どこからともなく康之を呼ぶ声がした。
「おはよう、康之。ちょっとこれ、見てみてよ。」
そう声をかけてきたのは、近所に住む幼馴染にして親友。少し小柄な琴海だった。
「この記事、怖いね。うちの近くだし、クラスのみんな、この話題で持ちきりだよ。」
ほら、と琴海が手渡した朝刊の新聞記事の切り抜きを、康之は目を通した。そこには、大きな見出しで「一家全員変死? 現在検証中」と、こう書かれていた。
「なんだこれ、別によくある殺人事件なんじゃないか。」
康之は特に興味も無さげに返す。その様子をみた琴海は、少し興奮しながら話し出した。
「いや、これは本当に怖い事件だよ。だってこの家族の死因がみんな…」
「はい、静かに。席に座りなさい。HRを始めます。」
琴海が言いかけたところで、良い具合に担任の佐野が入ってきた。康之はまだ話そうとする煩わしい琴海を見ながら、心の底から担任の事を称賛した。
ーー午後4時28分ーー
放課後になってもしつこく朝の話題を持ち出してくる琴海を振り切り、康之は家へ帰ろうとしていた。
商店街に差し掛かった時、ふとたい焼き屋が目に入った。こんな店あったっけ、と思いながら康之は暖簾を潜った。
「いらっしゃい。」
人の良さそうな老婆が店主のようだ。すぐに声をかけてきた。
「新しいお店ですよね、おばあさん一人で始めたんですか?」
不躾な質問を投げかけた康之に、店主は全く怒らずにこう言った。
「年を取ると何か始めたくなるもんだよ、寂しくなった時もね。」
なにか奥歯に物の挟まった言い方であったが、康之はこれ以上の詮索はしなかった。
質問する代わりに、つぶあんたい焼き二つ。と注文する。
「はいよ、おまけにこれもあげるよ。」
すぐに品物を持ってきてくれた店主は、なぜかカスタードのたい焼きをおまけしてくれた。
「ありがとうございます、いただきます。では。」
礼を述べた康之は、店から出ようとした。すると店主が「ちょっとお待ち。」と呼び止めた。
「これを持ってお帰り。」
そう言って店主は、黒い色のおまもりを渡してきた。
いきなり何だ、気味が悪い、と思った康之は、
「あの…、これは一体…?」
と聞いた。店主は少し哀しい目をしながらこう答えた。
「それはすぐに分かるよ。考えて分かるよりもすぐに。お前さんは将来きっと辛いことが起こることもあるだろう。その時は、この言葉を忘れないでねぇ。」
「自分の大切なものを考える時、その時が人生で大切な瞬間だよ。」
ーー午後5時11分ーー
あの後、店の奥へと去っていった店主を見送ると康之は、たい焼きと黒いおまもりを手に持ち、家に帰った。
ただいま、と言いながらいつものように靴を揃えてから部屋へと行こうとした康之は、母親の返事の無いことに気がついた。いつもならここで返事が帰ってくるはず…
嫌な予感を察知した康之は、急いでリビングへと向かった。
そこにはーー
そこには、頭蓋が半分に割れ、目玉が飛び出し、肺、胃、腸などが抉れた腹から飛び出している「母」の亡骸があった。康之は、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
「…母さん?」
気が動転し、言葉を失ってその場に立ち尽くした康之はたい焼きをぼとり、と床に落とし、胃から逆流してきた自身の吐瀉物をその場に吐き出した。
その音に反応したのか、キッチンで「何か」が照明の無い空間でゆらり、と蠢いた。
放心状態の康之に「何か」は近付くと、ふいに康之に襲いかかった。
何が起きているのか全く分からない康之はその混濁した意識の中で、今日の朝や昨日元気だった母親の笑顔を思い浮かべていた。するとやがて「何か」が去っていった気配がした。その途端、康之の思考は暗い闇へと堕ちていった。