表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の亡国  作者:
第一項: 嚆矢
2/46

神話について

割り込み投稿です。

 古い古い時代のこと。世界は神々の場所であった。

 ただひとつの性質を体現するのが神であり、例えば『慈愛』の性質であれば、その神は生来の気質として『慈愛』を持つ事になる。

 その単純な世界に、複雑な性質を持つ者が生まれた。

 その生物は無数の性質を持ち合わせ、無限の変化を遂げる者だった。


 それが、人のはじまりだという。




「レヴァーンに伝わる神話の始まりは大体こうだ」

「魔法や聖法が盛んな国はそんな感じの信仰でしょうね」

 

 焚き火の炎が、時折小さな火の粉を散らす。

 火の中に刺した串に通された魚が、じりじりと良い匂いを漂わせた。


「私は見ての通り、火の神を信仰している人間だ。私が元いた国は日の大半太陽が隠れるような国でな。寒さを和らげる火は命を守るものだったんだ」

「だからそんなに鎧が赤いのか。趣味かと思ってたわ」

「赤色は好きだぞ?」

 

 噛み合わない会話を諦め、黒髪の女が串を引き抜く。それに倣って若い青年も串を抜き、息を吹きかけながら魚に口をつけた。


「私にとっては、神なんて形式的なものだけどね。魔法や聖法があまり知られてなかった時代は、不思議な現象はそのまま不思議なもので、神と名をつけ祈るか願うかして、宥めたり請うたりしていたんでしょう。でもいつの間にか神は人々の心の中心になって、精神的なより所になってしまった」

「殺伐とした考えだな。魔法使いってのは、もっと水櫃を信仰してるもんじゃないのか」


 口を挟む青年に、そうだと言わんばかりに金髪の女が頷く。


「水櫃は世界の礎なのだ。良いか…」


 それはまだ、世界に人が生まれる前のこと。

 世界にはただ、すべてを満たした水櫃だけがあった。

 はじめに水櫃より飛び出したのは、光と闇であった。

 世界に光と闇が生まれ、象徴のように太陽と月が生まれた。

 次に飛び出したのは、水と火であった。

 世界は火に焦がされ、水に癒された。

 このようにして世界には様々なものが満ちていき、最後に生まれたのが人である。


「人の中で水櫃に触れられる者が聖職者と魔法使い、だな?」

「その通りだ、狩人よ。聖職者は先人の知恵に従うが、魔法使いらは水櫃から特に己の性質に近いものを見出す」

「あら? 確かにそういう側面はあるけど、私たちが水櫃から見出すものって、自分の価値観の反映であることも多いわ」

「何が違うんだ。魔女らが異端とされるのも、その手繰る魔法のおぞましさにもあるんだぞ」

「いや価値観っていうのは、自分の性質でもあるんだけど…いや良いわ。水掛け論になりそう」


 肩を竦めて黙り込む黒髪の女を、金髪の女が訝しげに見遣る。だが諦めたのか、すぐに魚串に手を伸ばした。常は無愛想な顔がほくほくと綻ぶ。


「まぁなんにせよ、鎖はあとひとつ…」


 狩人の言葉で、全員が空を見上げる。

 終着点への道を遮るものは、後少しだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ