第二部 別れ
□序章
世の中には、2種類の人間がいる。強い人と弱い人だ。
強いといっても、決して暴力的な意味ではなくて、心が強い人のことだ。
私が言う心が強い人とは、心の強さを分けてくれる人、そして、心を温かくしてくれる人のことだ。
私は、どちらかというと、弱い方に分類される。
だからこそ、小さい頃の私は触れることができた。
小さい頃に出会った一人の男の子の心の強さに・・・。
□第七章 別れ
私の部屋から見える二階建ての建物は、昔、智くんと智くんの両親が住んでいた家だ。
今はもう、智くんは住んでいないのだけれど思い出の詰まった大切な場所だ。
そこでふと、今日の帰り道での出来事を思い出した。
そう、智くんと別れるときのことである。
「あっ、ゆかり。ごめん、今日、ちょっと忘れもんしちまった。だから、先に帰っててくれ。」
明らかに挙動不審の智くんが言う。
「なら、私も一緒にいくよ。」
ちょっと、いじわるをする。
「い、いや、大したことじゃないか。だから、大丈夫だ。」
慌てふためく彼がとてもかわいく見えた。
「そう、それなら仕方がないね。」
これくらいで解放してあげることにしよう。
「おう、それじゃ、また、今夜な。」
と言い彼は、私のもとから離れていった。
「あいかわらず、ウソが下手だよ。智くん。」
私は、笑みをこぼしながら思わず独り言を言ってしまった。
そう、彼は、私の誕生日プレゼントを買いにいったのだ。
出会ってから毎年繰り返してきた、やさしいウソ。
そんな彼の不器用な優しさがいつも私の心を温かくしてくれる。
そのぬくもりに最初に触れたのは13年前のことだ。
私はきっとその時から彼に心を奪われていたんだと思う。
そんな心地いい回想をしている私を現実へと引き戻したのは、母の悲鳴にも近い叫び声だった。
「ゆかりいぃぃぃ!!、と、智くんが・・・、事故で。」
ドア越しに聞こえてくる母の声に私はすぐに部屋を飛び出した。
「そ、それで智くんは?」
「智くんは、今、東都警察の霊安室にいるそうよ。み、身元確認してほしいって。」
母の言葉を最後まで待たずに家を飛び出した。
絶対に信じない。この目で確認するまでは、絶対に。
警察へ向かう途中のことはよく覚えていない。
気付けば私は、警官に連れられて霊安室の前にいた。
「ご遺体の頭部は見つかりませんでした。わかる範囲で結構ですので確認を。」
と言って警官は霊安室の扉を開けた。
「顔がわからなければ、確認なんて出来ないじゃないですか?」
私は、憤りを警官へぶつける。
「ですから。わかる範囲で結構ですので。」
警官も言葉を返す。
警官に向き直り言葉を返そうとした瞬間、私の目に残酷な事実が突き付けられた。
身元を確認する物は、遺体の腕にあった。
それは、二人の絆を結ぶミサンガだった。
皮肉にもそれが、動かぬ証拠となってしまった。
警官を払いのけ智くんに歩み寄る。
「うそだよね。私を置いて逝くなんてうそだよね。だって、言ってくれたよね。ずっと一緒だって。」
心が壊れていくのがわかった。
「いやあぁぁぁっっっ!! なんで、どうして。いやだ。いやだよぉ。智くんがいなくなるなんて、私耐えられないよぉ。私、智くんがいないと生きて行けないよぉ。一人でなんて生きて行けないよぉぉぉ。」
私は、この日世界で一番大切な人を失った。
第八章へつづく