第二部 はじまり2
□序章
世の中には、2種類の人間がいる。勝つ者と負ける者だ。
勝負というのは、早い話がイス取り合戦だ。
恋愛の三角関係だってそうである。必ず一人敗者になる者がいる。
乱暴な言い方をすれば、人生とは、勝負の繰り返しだとおれは思う。
そう、繰り返しなのである。
だから、たとえ今、負けていたとしても次の勝負で勝てばいいだけなのだ。
そこでも負けたら、その次に勝てばいい。
だから、今、底辺と思っている人も人生の負け組と思っている人も諦めないでほしい。
今はただ前回の勝負で負けただけなのだ。
人生の本当の勝者とは、今際の際に、
「おれの人生は、本当にいい人生だった。」
と言える奴だとおれは思う。
□第六章 脳内移植
驚天動地という言葉がある。
今のおれの心境がその4文字で表現できてしまうのだ。
しばらくの間、あっけにとられて沈黙を守っていると
「信じられないかもしれないがね。これは、事実なのだよ。」
その沈黙を破ったのは、侍ハゲの白髪メタボだった。
たぶん、おれの手術を執刀したやつなのだろう。
侍ハゲが続ける。
「事故にあった君の体はバスの下敷きになっていてね。奇跡的に無傷だったのは頭部のみだったよ。もう一人はね、後頭部にパイプが突き刺さっていたよ。うまい具合にね。」
うまい具合って・・・。
そうだ。おれは、あの日、隣町に買い物に行こうとしてバスの乗ったのだ。
そのバスが崖から転落しようとする瞬間をかすかに覚えている。
「ゆかりが一緒じゃなくてよかった。」
とゆかりの顔を思い浮かべながら強い衝撃とともに記憶が途切れたのだ。
心底思った。
あの日、ゆかりの誕生日プレゼントを買うため帰宅途中でゆかりと別れていて本当に良かった。
次第に状況が整理されていく。
この事態が違法行為であることも・・・。
「それで、おれは、今後どうすればいいんです?」
「吞み込みが早いね。バレると色々と面倒になるのでね。君には、卓也くんになってもらうよ。いいかね?」
卓也とは、この体の持ち主だった奴の名前だ。
いかにも、イケメンそうな名前である。
卓也くんになってもらうよ・・・か、簡単に言ってくれる。
おれの今までの16年間がリセットされてしまう。
そう、ゆかりとの関係も・・・。
ゆかりを失うと思うと胸が潰れそうになった。
ゆかりをもう抱きしめることが叶わないと思うと涙が出そうになった。
「・・・はい。」
それでも、おれは受け入れる選択肢を選んだのだ。
なぜなら、生きてさえいれば、きっとまた巡り合えるとおれはそう信じているからだ。
第七章につづく