第二部 はじまり1
□序章
世の中には、2種類の人間がいる。いわゆる、勝ち組と負け組みというやつだ。
勝ち組と負け組みというのは、人生について廻る。
学生時代は、成績の良否や運動の不出来だとか、イケメン・ブサメンなどが判断材料となる。
それが、社会人になると偏り見せはじめ、年収と地位がその大半を占めることになる。
しかし、勝ち組というのは、あくまで一般論であり、統計結果に過ぎない。
その証拠にブサメンであるおれには、彼女もいてリアルも充実している。
所詮、勝ち負けというのは、人それぞれの価値観でしかない。
要は、勝ち負けを判断する自分の意思の持ち方でどうとでもなるのである。
何が言いたいかというと、あまり人の評価は気にしなくてもいいとおれは言いたいのである。
□第五章 変化
真っ白な世界に小さい頃のゆかりがいた。
その時、おれは、これが夢であることを悟った。
「どうして、泣いているんだろう。」
小さな男の子は、その少女の涙の訳を知りたいと思ったが、なかなか、一歩踏み出せずにいる。おれは、その小さな男の子に言う。
「今、勇気を出して一歩踏み出せば、かけがえのないものが手に入るぞ。」
おれは、男の子の背中をそっと押してやる。
そんな昔の夢を見ているおれの眠りを妨げたのが、頭が割れるような頭痛だった。
一気に現実世界に引き戻される。
目覚めて最初に見たものは、白い無機質の天井だった。
もっと詳しく場所の確認をしたいと思ったが、あまりの頭痛に目が開けていられない。
「先生、クランケが目を覚ましました。」
機械じみた、そう、初音ミクみたいな声の女が電話越しに誰かとしゃべっている。
電話を終えた女は、無機質な声でおれにしゃべりかけてきた。
「いまから鎮痛剤を投与しますから、あまり、動かないでください。このギョウ虫。」
なん・・・だと。ギョウ虫とか言ってなかったかこの女。
文句を言いたいところだが、あまりの痛さに声がでない。
すると、クソ女がおれの腕に注射をしてきた。
そう、まるで、ゴミでも扱っているような乱暴さで。
痛みに耐えながら思ったさ、本気で女を殴りたいと思ったのは、これが初めてだと。
数時間後、ウソのように頭痛が治まった。多分、合法な薬ではないのだろう。
平常心を取り戻したおれは、クソ女に状況を聞くことにした。
「おい、ここはどこだ。」
「全く、ギョウ虫は、口の聞き方も知らないのですか。」
心底、嫌そうにクソ女が答える。
「答えになってねーよ。 日本語分かりますか~。在日の方ですか~。」
嫌味込めて言い返す。
エリのおかげでこういったやり取りは慣れているのだ。
「はぁ~、しょうがないですね。お答えします。あなたは、交通事故で死にました。」
「・・・・・。 ナニイッテンデスカ、アタマダイジョウブデスカ。」
あまりの意味不明さに返す言葉が棒読みになった。
「耳もわるいのですか。ギョウ虫は。しょうがないですね。お答えします。
あなたは、交通事故で死にました。あなたは、交通事故で死にました。重要なので二回言いました。 状況を認識できましたか? 」
侮蔑の目をおれに向けながら、クソ女が言った。
「・・・・・。だめだこいつ・・・早くなんとかしないと。」
状況が理解できないおれは、そういうのがやっとだった。
「ガハハハ、そんな説明では、駄目だよ。メディアくん。」
突然、部屋の入り口から中年の声が聞こえてきた。
声の主は、侍ハゲの白髪に白衣とメタボ。ドクターワイリーとそっくりと言ったほう話が早いかもしれない。
「どうかね。具合の方は。」
「今は、痛みも治まっています。しかし、手足に違和感を感じています。」
そう、先ほどから物を掴もうとしたりすると、目測を誤るのだ。
そうだなぁ、脳にインプットされている腕の長さの情報と現実の腕の長さと誤差があるというか、自分の体ではないみたいなのである。
「なるほど、なにせ初めての症例なのでね。我々にもどうなるか予測が出来んのだよ。」
興味深そうにおれを見る侍ハゲ。
「ただの交通事故ですよね。それで、なんで初めてのケースになるんです?侍・・。もとい、先生。」
至極全うな質問をしてみた。
「うむ、それはね・・・。 ひ・み・つ。」
血管がブチきれるかと思ったわ。
「おまえは、どこのエレクトラだよ。さっさと質問に答えろ。侍ハゲ」
「ガハハハ、急かすな若者よ。百聞は一見しかずと言ってのう。これを見てみなさい。」
侍ハゲがおれに手渡してきたものは、鏡だった。
おれは、言葉を失った。
鏡に映っていた人物は、16年間見続けてきた馴染み深いおれの顔ではなく、いつでも芸能界で頂点を掴めそうな程のイケメンの姿がそこにあったからだ。
「驚いているようだね。単刀直入に言うよ。脳移植だよ。」
脳移植・・・だと。
第六章へつづく