行方不明の真相 side信彦03
樹さんに促されて奥に入る。
小型のテーブルと椅子が有り、祐介さんが律子の相手をしてくれていた。
「あ、お兄ちゃんが来てくれたわよ、律子ちゃん」
祐介さんに軽く会釈をし、律子の傍へ行く。
「律子」
「・・・お兄ちゃん」
律子に対していつもよりも固めの声で呼ぶと、律子は恐る恐る小さな声で返事をした。
俺は黙ったまま、膝を着いて律子と目を合わせる。
「・・・お兄ちゃん、ごめんなさい」
「うん。・・・どうして、ごめんなさいか、分かるよな?リツ」
律子の瞳に俺が映っている。
涙の膜が、小さく揺れた。
「しんぱい、かけちゃった、から。はつえおばちゃんとか、おにいちゃんとか。・・・うそ、も、ついちゃった、から。・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ」
なるべく落ち着いて話すように心がけ、理由を話すように促した。
律子はそれを自分で言っているうちに泣き出してしまった。
抱きつく妹を抱きしめ返し、背中を撫でる。
トントンと、ゆっくり背中を叩いてやるうちに、律子は寝てしまった。
「・・・お世話おかけしました、本当に」
律子を抱っこしたその態勢で祐介さんを見上げて俺は頭を下げた。
祐介さんはにっこり笑って首を振る。
「いいえ、お世話だなんて。律子ちゃん、とってもいい子だったわ。お行儀も良くて、可愛らしくって」
眠ってしまった律子を傍にあったソファに寝かせてもらう。
泣いた跡が残っていたので指で拭ってやる。
なんでいきなり俺の所に来たがったのだろうか。
「あ、父さん。悪いんだけど、なんか飲み物お願い。走ってきたから、喉渇いて。河野の分はサービスしてくれ」
後ろで秋津がそう言うのが聞こえた。
「あら、そう?それじゃあ、なにか冷たいもの、持ってくるわね」
祐介さんは軽い足取りでカウンターへ戻っていった。
「・・・サービスなんて、別にいいのに」
「だって、君が勝っただろ?それに実質私の財布は少しも痛まないからな。気にするな」
少し笑ってしまった。
そう言われると、気に仕様がない。
それも秋津の気遣いと思って有り難く頂く事にする。
「はい、おまちどうさま」
「・・・ありがとうございます」
冷たいレモンティーとバニラアイスまで頂いてしまった。
最初はそれでも遠慮していたのだが、結構喉が渇いていたのかあっという間に飲み干してしまい、秋津に少し笑われた。
アイスの方も甘党と前に言ったのを覚えていてもらったようで、嬉しかった。
「本当に色々とありがとうございました。そろそろお暇しないと・・・」
俺の方は帰るのはいつでもいいが、律子を帰さないと初恵さんが心配するだろう。
電話はしたが、やはり顔を見せないとな。
そう思って暇を告げた。
「大丈夫?信彦くん。車で送りましょうか?」
「あ、いえそんな。これ以上お手数おかけするわけには」
「でも律子ちゃん寝てるで?どないするんや?」
「おぶって帰ります。律子一人ぐらい、大丈夫です」
「無理するな、河野。君、ここまで走ってきたんだから疲れてるだろ」
(いや走らせたの、秋津だから)
そう心の中で突っ込んで秋津を見た。
すると秋津は立てという風なジェスチャーをする。
(・・・なんだ?)
首をかしげながらも俺は言われるがまま立ち上がった。
「・・・セイッ!」
ガクッ
いきなり。
本当にいきなり秋津が俺の膝裏に回し蹴りを放った。
所謂膝カックン。
予想だにしていなかった攻撃に俺は綺麗に膝から崩れ落ちた。
「・・・ったぁ。な、何すんだいきなり!」
強かに打った膝をさすりながら俺は秋津に問いかけた。
理不尽だ。理不尽すぎる。
そんな俺をキレイに無視して秋津は言った。
「ほら、もう膝ガクガクじゃないか。送ってやるから、早く乗れ」
「俺の抗議は無視か!あと、その台詞自分が運転するみたいに言ってるけど、送ってくれるのは祐介さんであって秋津じゃないよね?なんでそんなに偉そうってか男前な言い方するかな?!」
祐介さんは生暖かい笑みでこちらを見ていた。
「あーはいはい。もう俺が留守番したるから、はよ帰りぃ」
樹さんにもため息をつかれてしまった。
何か俺が悪いみたいになってませんか?この空気。
******
祐介さんの車で送ってもらう。
家の門の前で降りると、初恵さんが飛び出してきた。
「あぁ!良かった!律子お嬢様、ご無事で!ありがとうございました」
「・・・あの、初恵さん。もしかして、あの人たち、帰ってる?」
初恵さんが律子のことをお嬢様と呼ぶときは、両親がいるときだけだ。
いつでも砕けた呼び方をして欲しいと頼んでいるけれど、初恵さんは、やはり雇い主がいるときはけじめだと言って敬称で呼ぶ。
「ええ。留守電の方にご連絡差し上げたところ、信一様も奥様の共にお早いお帰りで」
「・・・そう」
かろうじて舌打ちしそうになるのをとどまった。
会いたくないってのに、タイミング悪すぎだろ。
でもこの時間に帰ってきたってことは、ちょっとは律子のこと心配していたのだろう。
俺にとっては良い親とは言えないが、律子にとってはそうではない、ということだ。
少し、複雑だけれど。
「あら、信彦くんのご両親?一度お目にかかりたいと思っていたのよー。良い機会だからご挨拶しなくちゃね」
「え?・・・いやあの」
いつの間に運転席から降りてきていたのか、祐介さんが俺のすぐ後ろにいた。
「父さん、頼むからオカマ口調出さないでくれよ。あとエプロンも取ってくれ」
そういう秋津も俺の両親に会う気満々だ。
「信彦様のご友人とその、お父様、ですか?この度は大変お世話をおかけ致しました。お礼と言ってはなんですが、どうぞ中でお茶でも」
祐介さんのことを言うとき、一瞬躊躇った初恵さんだった。
いや、分かるよその気持ち。
でも見た目は完璧かっこいい男の人なんだよな。カフェエプロンも様になってるし。
困惑しながらも、初恵さんは応接室でお茶を出してくれた。
「緑茶でよかったな」
「どうして?」
「だって紅茶だったらウチのがうるさいだろ?緑茶なら大丈夫だ」
「さすが。こだわりってあるんだな」
こそこそ話していると、俺の父親と母親が入ってきた。
どうやら初恵さんから聞いて来たようだ。
すかさず秋津が立ち上がった。
「どうも、初めまして。河野君のクラスメイトの秋津祥花です」
「父の秋津祐介です。信彦くんにはウチの祥花がいつもお世話になっています」
丁寧なふたりの挨拶に、父親は一瞥しただけで素っ気ない。
「そうですか。私は河野信一と申します」
「河野道流と申します」
母親は外向きの華やかな笑顔で挨拶した。
「あ、河野道流さんって、もしかしてお花の雑誌とかによく出てらっしゃる・・・?」
「あら、ご存知なの!嬉しいわ。私、華道家として活動しておりますの」
「その雑誌なら、店に飾る花のためによく買っているんです。毎回の表紙のお花もすごく綺麗で」
「うふふ。その雑誌の表紙、私が毎回そのためにお花を活けさせて頂いておりますの。そう言っていただけると嬉しいですわ」
母親は嬉しそうに少女のように笑った。
次からは(エセ?)シリアスモードに突入する予定です。
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本当に本編に関係ない話ですが、よろしければ。
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