LHR当日 side祥花 01
「えー、今日は文化祭でなにをやるか、という事を決めたいと思います」
授業時間に組み込まれたLHR。
委員長である私は教壇の上に立ち、一色さんに引き継ぐまでの司会を務める。
教室を見渡す。
ふと河野を見ると机の上に腕を枕にして頭を載せている。
いわゆるクロールの息継ぎの状態だ。
ああ、彼は寝るな。
河野に降りかかる後の出来事を思うとほんの少しだけ心が痛む。
その他にも、クロール状態のクラスメイトはチラホラと見受けられた。
クラスのほとんどが中学からの持ち上がりであるから、この文化祭という行事ももう5回目を迎え、気持ち的にはマンネリ化しているのだ。
だからだろうか、教室全体に気怠い雰囲気が漂っていた。
私も委員長という役職がなければ、こんな面倒くさい行事、やる気などでない。
「毎年二年生は劇をすることになっているので…」
先ほど配った要項の説明をするのも、もはや何度目だろうか。
とはいえ、クラス替えは毎年あるから、メンバーは異なる。
このクラスでは上手くいくのだろうか。
そこは少し楽しみだったりする。
「ここからは、文化委員の一色さんに司会を代ります」
ようやく一色さんと交代だ。
私と入れ替わりに壇上に立った彼女は、キラキラした目で教室全体を見回し、声高に言った。
「では!決めちゃいましょー皆!」
テンションが高い。
でも、彼女が文化委員でよかった。
こんなふうにみんなをグイグイ引っ張っていってくれる人が必要なのだ。
彼女の声が通り、あの気怠い雰囲気が吹っ飛んだ。
一体何をするつもりなのだろうという視線が彼女に向かう。
「ずばり!このクラスの劇は『美女と野獣』です!」
「えぇ?!なんでもう決めてんだよ!」
「ちょっと古くなぁい?」
「誰が脚本かくのさー?」
いきなり言い切った彼女にブーイングの嵐が起こる。
そんな声に負けじと、彼女はバン!と教卓を叩くと、一気に喋った。
「皆さんの戸惑う気持ちはよぉっくわかります!ですが!この話を演じるのに、かつてないほどの適任者がいるのですよ!このクラスには!そして!『美女と野獣』という題材!これは古今東西のミュージカルや映画になり尽くして、しかもそれでも色褪せない永遠のラブストーリーの傑作です!これを文化祭の劇に取り上げることは多感な高校生という時期を生きる私たちにとって良い経験となるに違いないのです!もちろん脚本・監督は私がさせていただきます!」
彼女が言い終わったあと、教室は静まり返った。
皆ポカンとした様子で、半ば呆れ返っていたようだった。
「…あの、さ。一色」
一人の男子が戸惑いを隠さず手を挙げた。
たしか、鈴木巧といった名前だった。
「なに?たっくん」
「どうしてそこまでやる気満々なの…?」
その問に彼女はよくぞ聞いてくれたと笑った。
「聞いて驚くがいいさ!メインキャストに私が抜擢したのは、委員長、秋津祥花さんと!河野信彦君、です!!これでテンション上がらないでいられますかっての!」
おおおお…?!!
教室が静かにどよめいた。
河野、可哀想に。名前間違えられてるぞ。
というか、そこまで驚くようなものなのか?
「えっ?!マジで!委員長、OKしたのか」
「…あ、ああ、うん」
後ろの席の男子にまでそう問いかけられる。
ちょっと面映ゆい。
「えっと!あの、河野君だっけ?それでいい?」
その一色さんの問いかけに、ぼんやりと宙を眺めて心ここにあらずといった様子だった河野は彼女の勢いに押される形で頷いた。
「え?…あぁ、まぁ、いいんじゃない」
その瞬間の一色さんの表情といったら。
今にも高笑いしそうな、しかしそれをこらえているので、ニヤニヤ、ニマニマと唇が変なふうに歪んでいる。
河野…。まんまと罠に引っかかったな。
罠というか、完全にゴリ押しだったけれども。
「よっしゃぁ!じゃあ、私たちのクラスは、美女と野獣で、主要キャストは、秋津さんと、河野君という事で!決まり!です!」
その瞬間教室に拍手が鳴り響いた。
これほどまでに皆の様子が変わるとは思っていなかった。
だが、なにせあの河野だ。
不良だとみんなが思っている河野が、劇のメインキャストになることは誰も予想しなかったに違いない。
去年は文化祭に参加すらしなかったらしいから尚更のこと。
「うわマジスゲーな、一色」
「それにしても委員長すごいよ。河野君と共演なんて」
なんか、本格的に河野が可哀想になってきた。
一色さんの謀略の一端を担いだ人間としては、河野の顔が見れなかった。
おそらく狐につままれたような顔をしていることだろう。
ただぼんやりと黒板と壇上の一色さんを見ていた。




