看病 side信彦
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ありがとうございます!
やけに冷たい感覚がした。
でもそれが心地よくて俺は更に眠った。
ふと目が覚めると、何かいい匂いがした。
リズミカルな包丁の音。
その音と匂いに魅かれ、俺はフラフラと頼りない足取りで台所へ向かった。
見えた後姿は、華奢で長い黒髪をもつ女の子。
「………あ、きつ?」
本当に戻ってきたのか。
「っうぉ!なんで起き上がってるんだ?!寝とけっていったろう!」
振り返った秋津は驚いた様子で、そしてそのまま怒鳴った。
「寝起きのままの恰好でうろうろするな!」
「っあ、ごめん……っ」
謝ったその瞬間、平衡感覚が失われて、体がゆらりと前に揺れた。
「っちょっ!!」
倒れずに済んだのは、秋津が支えてくれてたからだった。
しかし、華奢な秋津ではごつい俺は支えきれない。
このままでは二人とも倒れるな、とぼんやりした頭の片隅で思った。
「馬鹿!熱と水分不足で体力なくなってるのに!…お、重い!!おい、どっかに掴まって早く離れろ!」
「…あ、ああ」
秋津が言った通り、柱につかまって身を離す。
身体を離すとき、ふわりと、いい匂いがした。
食べ物の匂いではない。
…秋津の匂いだ。
俺は、自分の顔に血がのぼるのを感じた。
「いったい何度だったんだ?」
「…8ど9ぶ」
「っ!だったら早くベッドにもどれ!!あとで、ていうかすぐ食べるもの持っていくから!」
秋津の問いかけに一瞬反応が遅れたのは、熱で頭がぼぉっとしていたからだけではない。
秋津の匂いに気がとられていたからだと、俺は分かっていた。
秋津に追い立てられてベッドに向かう途中、先ほど触れた秋津の腕の細さとか、全体的な柔らかさとか、そういうものまで思い出して、俺は別の意味で体温が上がってしまった。
何とかベッドにもどれたは良いが、どうしたらいいか全く分からない。
まさか本当に看病しに戻ってきてくれるなんて。
その後、本当にすぐに、秋津は盆の上に土鍋とコップと、卵焼きの乗った皿を載せて入ってきた。
思わず起き上がろうとするが、押し止められる。
そして出て行ったかと思うと、クッションを数個持って戻ってきた。
「ちょっと身を起こせるか?うん、それでいい。この姿勢で大丈夫か」
秋津は俺とベッドの間にクッションを挟み込む。
俺は黙って首を縦に振った。
なんだか、口を開けば変なことを口走りそうだったから。
秋津は近くの椅子を持ってきて座り、お粥の匙を取った。
「食べられるか?というか、食べてくれないと困るんだが」
「…だいじょう、ぶ。なに、して?」
「何って、熱いから冷ましてる。フーってされるのは河野も嫌だろうから自然放熱だけど。まぁ、やらないよりはましだろう。…はい、口開けろよ」
「………」
看病というのは、ここまでするものなのか?
俺の記憶の中にはこんなのはない。
俺は戸惑った。
それでも、俺を待つ秋津を見ているとそれが当たり前のような顔をするから、俺は恐る恐る口を開けた。
秋津が俺の口へ匙を入れる。
十分に冷まされたお粥は火傷することもなく、ちょうどいい熱さだった。
「どう?味は」
「…しお、たりない、かも」
「そうか、なら大丈夫だ。問題ない。ほら、ネギ味噌。飲めるか」
差し出されたコップを手に取り頷く。
「…ごめん、めい、わくかけ、て」
声がかすれて、うまく話せない。
もどかしい。
「気にするな、乗りかかった船だ。いや、毒を食らわば皿まで、か?」
秋津の言葉に思わず頬が緩んだ。
きっと彼女は気づいていないに違いない。
俺がどれだけ感謝しているかなんて。
こんなにやさしい看病は生まれて初めてだったから。
初恵さんもできる限りのことはしてくれたが、やはり雇い人の息子だから遠慮がでる。
「…ありがとう、あきつ」
こんかいは、さみしくないよ。