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片恋の、その先へ  作者: 過去形
夏風邪は誰がひく?
32/75

看病 side信彦

PVアクセス5000突破してました・・・!

ありがとうございます!

やけに冷たい感覚がした。

でもそれが心地よくて俺は更に眠った。


ふと目が覚めると、何かいい匂いがした。

リズミカルな包丁の音。


その音と匂いに魅かれ、俺はフラフラと頼りない足取りで台所へ向かった。

見えた後姿は、華奢で長い黒髪をもつ女の子。


「………あ、きつ?」


本当に戻ってきたのか。


「っうぉ!なんで起き上がってるんだ?!寝とけっていったろう!」


振り返った秋津は驚いた様子で、そしてそのまま怒鳴った。


「寝起きのままの恰好でうろうろするな!」

「っあ、ごめん……っ」


謝ったその瞬間、平衡感覚が失われて、体がゆらりと前に揺れた。


「っちょっ!!」


倒れずに済んだのは、秋津が支えてくれてたからだった。

しかし、華奢な秋津ではごつい俺は支えきれない。


このままでは二人とも倒れるな、とぼんやりした頭の片隅で思った。


「馬鹿!熱と水分不足で体力なくなってるのに!…お、重い!!おい、どっかに掴まって早く離れろ!」

「…あ、ああ」


秋津が言った通り、柱につかまって身を離す。


身体を離すとき、ふわりと、いい匂いがした。

食べ物の匂いではない。


…秋津の匂いだ。


俺は、自分の顔に血がのぼるのを感じた。


「いったい何度だったんだ?」

「…8ど9ぶ」

「っ!だったら早くベッドにもどれ!!あとで、ていうかすぐ食べるもの持っていくから!」


秋津の問いかけに一瞬反応が遅れたのは、熱で頭がぼぉっとしていたからだけではない。

秋津の匂いに気がとられていたからだと、俺は分かっていた。


秋津に追い立てられてベッドに向かう途中、先ほど触れた秋津の腕の細さとか、全体的な柔らかさとか、そういうものまで思い出して、俺は別の意味で体温が上がってしまった。


何とかベッドにもどれたは良いが、どうしたらいいか全く分からない。

まさか本当に看病しに戻ってきてくれるなんて。


その後、本当にすぐに、秋津は盆の上に土鍋とコップと、卵焼きの乗った皿を載せて入ってきた。

思わず起き上がろうとするが、押し止められる。


そして出て行ったかと思うと、クッションを数個持って戻ってきた。


「ちょっと身を起こせるか?うん、それでいい。この姿勢で大丈夫か」


秋津は俺とベッドの間にクッションを挟み込む。


俺は黙って首を縦に振った。

なんだか、口を開けば変なことを口走りそうだったから。


秋津は近くの椅子を持ってきて座り、お粥の匙を取った。


「食べられるか?というか、食べてくれないと困るんだが」

「…だいじょう、ぶ。なに、して?」

「何って、熱いから冷ましてる。フーってされるのは河野も嫌だろうから自然放熱だけど。まぁ、やらないよりはましだろう。…はい、口開けろよ」

「………」


看病というのは、ここまでするものなのか?


俺の記憶の中にはこんなのはない。


俺は戸惑った。


それでも、俺を待つ秋津を見ているとそれが当たり前のような顔をするから、俺は恐る恐る口を開けた。


秋津が俺の口へ匙を入れる。

十分に冷まされたお粥は火傷することもなく、ちょうどいい熱さだった。


「どう?味は」

「…しお、たりない、かも」

「そうか、なら大丈夫だ。問題ない。ほら、ネギ味噌。飲めるか」


差し出されたコップを手に取り頷く。


「…ごめん、めい、わくかけ、て」


声がかすれて、うまく話せない。


もどかしい。


「気にするな、乗りかかった船だ。いや、毒を食らわば皿まで、か?」


秋津の言葉に思わず頬が緩んだ。


きっと彼女は気づいていないに違いない。


俺がどれだけ感謝しているかなんて。


こんなにやさしい看病は生まれて初めてだったから。


初恵さんもできる限りのことはしてくれたが、やはり雇い人の息子だから遠慮がでる。


「…ありがとう、あきつ」


こんかいは、さみしくないよ。



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